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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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最終話

 ドアを開けると、そこにはゆーちゃんが少しだけもじもじしながら立っていた。

 きっとこのあとはゆっくり休むつもりなのか、いつも家で着ているお気にの部屋着姿だ。

「ふふ…いまだいじょうぶ…かなぁ?」

「うん、大丈夫だよ~」

 ミナっちが用意してくれた部屋は、一見簡素だけれど、いい品を使っている感じがする。

 ベッドもふかふかだし、とても居心地のいい雰囲気をみせている。

 テーブルは隅に移動してしまったので、ゆーちゃんと並んでベッドの縁に座る。

「あのね…うふふ、私ったら最近忙しくてつい作曲とかライブの準備とかてんやわんやなんだけどね…」

 ゆーちゃんは自分のことを切り出しているが、きっと話したいのはそこではなく

「あはは…私はこんな風に大変なんだけれど……めーちゃんは…平気?」

 やっぱりだ。

「ええとホラ、さっきちょっとだけ様子が違うというかうわの空っぽく見えたからなんていうか気になって…ね?」

 ボクのために来てくれたんだ。

 ゆーちゃんはとても優しい、相手が辛いとか悲しいとかを隠していても気付いてくれる。

 これもボクのカンだけれど、ゆーちゃんはきっと昔…とても悲しいコト、大変なコトがあったんだと思う。

 だからそっと…人の心に寄り添えるのだと…思うんだ。

 ボクはそんなゆーちゃんも、ゆーちゃんの歌う歌も大好きだ。

 だから…悲しませたくは…無かった。

「ずっと大変だったのが…急に解決、ではないけど、棚上げみたいになって…ちょっとだけ拍子抜けしたのかも…ボク自身は元気だから大丈夫だよ♪」

 いつものように笑って見せる。

 ゆーちゃんは少しだけほっとした表情だ。

「そっか…それにしても……終わったんだねぇ…ふふ、私はあんまり関われなかったけど…まだ希望が残ってて…本当に良かった」

 ゆーちゃんの手が、ボクの手に乗る…とてもあったかい。

「うん…まずはゆっくり休みたいかなぁ♪」

「うんうん…それがいいよ♪ 帰ったら温泉旅行とかしようよ、癒されるよ~」

 やっぱり、ゆーちゃんはまたボクがゆーちゃん家に帰ると信じてる。

「え~~?温泉は別に、かなぁ?それよりボクはいちにちじゅう、わんこと一緒に寝てたいな♪」

 過去の世界でマンジューに会えたからか…とても犬が恋しい。

「あはは、ちょっと遠いけど犬カフェを知ってるから今度そこに行こ♪」

「ゆーちゃんのライブが一段落したらね☆」

 そのまま、ふたりで笑い合う。

 ゆーちゃんと話すと…とても楽しい……けれどもやっぱりこのままではゆーちゃんにも迷惑を掛けてしまう…そんな気がするんだ。

 気を使ってるのか、マキさんは隅のテーブルの上で休んでいる。

 確かに、3人で話しているとボロが出てしまいそうだし、その方がありがたい。

「ライブかぁ…凄く楽しみだけれど…ちょっとだけ怖いな」

「…え?そーなの?」

 ゆーちゃんがそんな風に思っていたとは知らなかった。

「そうだよ、私は歌いたくて…全力でやるだけだけど…誰も喜んでくれないかも…失敗しちゃうかも…私が台無しにしちゃうかも…なんて最悪の想像もするもん」

 ボクじゃないんだし……とボクは勝手にそう考えてたのだ。

「そうだね…そもそもボクだったら…恥ずかしくて人前では歌えないかも」

 ゆーちゃんの瞳とボクの瞳が合う…

 それでも前に進めるゆーちゃんはスゴイと思う。

「…自分で決めたコトだから、ゴールは遥か彼方でも最後まで走らないとっ…後悔だけは、したくないから……」

 ゆーちゃんが、どこか遠くを見ながら、歌を口ずさむ。

「あ、これって…『鎮魂と再生の歌』だね」

 一度、ゆーちゃんが歌うのを止める。

「お悔やみを…歌わせて欲しいんだ…めーちゃんの家族……それにユウノさんの分を…そして…きっとまた会えると…祈らせて?」

 言葉には入れていないけれど、ベルクのことも言っているんだろう。

 ボクも…そう感じたから。

「じゃあ、ボクも歌うよ…みんなが幸せでありますように…っ♪」

 ふたりで歌う、それはとても切なくて…悲しいけれど、どこかで希望に繋がるような…そんな歌。

 最後のロングトーン、ふたりの声が合わさる。

 余韻…ふと横を見ると、ゆーちゃんが泣いていた。

「ごめっ…んね、めーちゃんは泣いてないのにっ…私っ」

 ゆーちゃんが泣くのは、それだけボク達のことを想ってくれたからだ。

 ゆーちゃんの心がとても綺麗だから…だからセイガさんも……

 ボクはもう…泣かないと決めたけれど、泣いてくれるのは…

 とても嬉しかった。

「ありがとね…ゆーちゃん♪」

 そんなゆーちゃんを見て、ボクの心が…固まった。 

 その後はゆーちゃんと他愛のない話をした、それはとても楽しい時間で…名残惜しかったけれど…もうこれで満足だ。

 そして、ボクはみんなが集まる晩ごはんの時に

 みんなと別れることをハッキリと…告げたんだ。 

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