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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第83話

 空が白く光を受け入れている。

 瑠璃色の西天、もうすぐ東から日が昇る…

 山の神、ベルクツェーンは干上がった湖の上で、立ったまま気絶していた。

 死んではいない…何故なら

『「必ず敵を倒すが、必ず敵を殺さない」技か…それがセイガ…お前の考えた技なんだな……見事だ』

 大佐がセイガの肩を叩く、もう覚醒変身は解いていたので、セイガはその勢いに耐えきれず地面に倒れ込んだ。

『おっとすまない』

「ははは、セイガったら…大丈夫?」

 ユメカが手を引いて、立たせてくれる。

「アレってセイガのオリジナル技なんだ…なんて名前なの?」

「あ、ええと…まだ正式名称ではないのだけれど…」

 セイガが恥ずかしそうに指で手の甲を掻く。

「『倒剣アンキリング』…なんてどうかな?」

「え~? なんかダメじゃね?」

 間に入ったハリュウが早速ケチをつける。

「や、ほら漢字の熟語と英語のカタカナ表記を組み合わせるとか珍しくていいと思うのだけれど…ダメ…かなぁ?」

 セイガは拘りというか細かい説明をはじめた。

「う~ん、私は悪くないと思うけど、もっと色々考えてもいいかもね☆」

「そうか…」

 セイガは一息つくと、ベルクの方を見た。

 まだ、動かない…傍らにはメイがいて…切なそうに見上げていた。

「めーちゃん…」

 ユメカがメイの方へと…てくてくと歩く。

 すると

【人の子らよ】

「うわぁ!?」

 ベルクが目を覚ました、ビックリしたユメカは尻もちをつきそうになる。

「ベルク…起きたんだね」

 メイが囁く、とても優しい声だ。

『メイ すまなかった』

 ベルクが神語ではなく直接、メイの名を呼んだ。

「へへ…直接話すのは…久しぶりだね…ねえ教えて…どうしてこうなったの?」

 ベルクが沈黙する…何か考えているようだ。

「今更…約束を違えたりしないよなぁ…神様よぉ」

 約束というのは、大レースの時交わした…セイガ達が勝った時には 全て言うことを聞くというものだ。

 メイの話では、エルディアの神、特にベルクは約束に対してとても忠実で、一度も破ったことは無いのだという。

【勿論です 何でも聞いてください】

 メイ以外には神語で話すベルクだった。

 メイは頭をあげて、うんうんと首を振りながら思案する。

「気になることから気軽に聞いていいと思いますよ~♪」

 ミナっちが後ろからメイの肩をポンと叩いた。

「それじゃあ……まずは教えて? どうして父さんと母さん…それにユウノ姉は殺されなきゃ…食べられなきゃいけなかったの?」

 もし、殺すにしても食べる必要は無い…メイはそれが気掛かりだった。

『それは 守るためです』

「…え?」

 全く想定していなかった答えにメイの声が詰まった。

『人の子らは死にましたが ***の体内にいる限り 時が来れば再び生きることができます』

「え?え?…なんでそんなことを!?」

 ベルクの言いたいことが全然分からない。

『もしかしてメイは ***が親愛なる人の子らを害すると思っていたのですか? それならば悲しいですね』

 ベルクは心底悲しそうに首を垂れる。

「だって!? あんなコトしたら絶対おかしいもん」

「そうですねぇ…これは神の常識に縛られたベルクツェーンさんが悪いですね」

 ミナっちがフォローに入る、どうやら致命的な齟齬が発生しているようだ。

「じゃあ!わざわざ食べてまで何から守ろうとしたの?」

 メイの疑問はもっともだった。

『それは…憎むべきは 「祟り神フルーフ」…う!』

 その名を呼んだ時、ベルクに異変が起きた。

【ヨウヤク 妾の名前をヨンデくれたねぇ ベルクぅ】

 影が、ベルクを包んだ。

 触手のように蠢きながら、ベルクを黒く、昏く染めていく。

【やはり お前か!】

 ベルクは全力で抗うが、影はベルクにピッタリと貼りつき、侵食していく。

『退け!』

 大佐が念動でその影だけを払おうとしたが、影はベルクの体内にもいるのかまたすぐにベルクを取り囲んでいった。

【どうやら 今の***には これを倒す力が残っていないようですね】

 セイガ達との激戦で、ベルクの力はかなり低下していた。

 その機会を…『祟り神』フルーフは待っていたのだ。

【***は隠遁します 必ず回復して ヤツを滅します】

 ベルクが最後の力をふり絞って、禁域を発生させようとする。

「ベルク!」

 メイが手を伸ばす。

『メイ…また会いましょう…』

「ベルクーー!」

『愛しい 人の子よ』

 その言葉を最後に、ベルクは消えてしまった。

 ようやく登った神々しい朝日が、メイの涙を拭っていった……

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