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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第81話

 ベルクと大佐の争いは、苛烈を極めていた。

『爆縮!』

突風(ヴィントシュトース)

 大佐の必殺の爆縮がベルクを捉えようとした瞬間、突風がベルクを攫うようにその場所から退避させた。

 突風も空間に作用しているからこその方策だろう。

 それにしても初見で爆縮を躱すベルクのセンスは相当なものだ。

 そして大佐へも攻撃の風が送られるが、軽く念動で落とされてしまった。

 睨みあう両者…そこへ

『…おう、遅かったじゃあないか』

 これを予期していたのか、大佐が口を開けて牙を見せながら笑う。

 飛行したまま、セイガとハリュウが到着したのだ。

【加勢ですか 愚かですね】

『いや、そうじゃあない、お前の相手はこのふたりに任せたってことだよ』

 その言葉に、流石のベルクも驚いた。

【馬鹿ですか 人の子らよ】

『俺は本気だよ…なあ、お前達!』

 大佐が黒と白、其々の装備に身を包んだふたりの肩を叩く。

「はい、俺達で決着をつけます…今までありがとうございました!」

「絶対に泣かしちゃる!」

 ふたりが空中でベルクの前に進む。

 ふたりとも装備の力で浮遊が可能なのだ。 

『それじゃあ、俺は下でミナっち達を守るとするか』

「お願いします」

 振り向くことなく、大佐が退散する。

「さてと…最初に言っておくがオレは援護しかできないからな」

 ハリュウがセイガに耳打ちする。

 今のハリュウの実力では、ベルクを倒すことはできない、けれども

「ああ、お前が背中を守ってくれるなら、これ以上の安心はない」

 セイガにとっては最高のパートナーだった。

巫山戯(ふざけ)るな】

 ベルクが苛立たし気にセイガを見下す。

「ふざけてないさ…お前こそ今のセイガの実力が…見えないのか?」

「…」

 セイガは無言のまま…しかし挑発するように盾剣を振るう。

 ベルクは考える、この人の子は先程の戦闘で体力を使い果たした筈、誰かに回復して貰ったのだろうが、黒い鎧を着ただけで力は変わっていない。

(考えるまでもなかった)

 そう、ベルクは判断した。

「…あ、ハリュウ…言い忘れていたが…この変身、そう長くは持たないと思う」

 これも小さい声でセイガ

「…は? それじゃくっちゃべってないで早く戦った方がいいんじゃないか!」

 びっくりしたハリュウがつい大声になってしまう。

 先程までの余裕はどこへやら、ウイングから射出された追加武装、遠距離ライフルを手に取るとベルクから遠ざかった。

【邪魔者よ 消えなさい】

 ベルクが光を纏わせた拳で殴ろうと襲い掛かる。

 それは完全に油断している。

「高速剣『 (あぎと) 』」

 セイガが盾剣を構える、と同時にベルクの肩から先、右腕が切断された。

【な】

 極めた『顎』は見てからでは躱せない、神速の刃だ。

 ちょうど光が掛かっていなかった肩を、セイガは的確に切り裂いたのだ。

 ベルクは落とした右腕を拾おうと大地へ降りる。

 だがそれを逃がすわけもなくハリュウの射撃がその動きを邪魔する。

【邪魔です!】

 そして再びセイガが迫る。


「うわぁ♪…セイガ達、押してるね」

「そうだな、ベルクには深淵の力が見えて無いんだろう…だからセイガの力に対応できない」

 神殿の縁、そこでユメカ達はセイガの戦いを見守っている。

 メイは、信じられなかった。

 こんなことが起きるなんて…できればユウノやマキさんにも見せたかった…

 そう思っていると、ふと自分の右手が微かに光っていることに気付いた。

「なんだろ…これ……」

 よくみると、何かの破片が掌に付いている、それを払おうとした時…

『メイ殿…待ってくだされ』

 とても小さい声だが…確かにマキさんの声だった。

「マキさん!?」

 首を大きく振る、巻物の姿は見えない。

『ここです…この欠片に皆様の神気を与えてくだされ』

 メイは頷くと自分の神気を破片に与える、状況を知ったのか、ミナっちも力を分けてくれた。

 すると…

『じゃあ~~ん、新緑山水鳥獣絵巻、復活です!』

 マキさんが元の状態にまで復元されたのだ。

「どうして?マキさん…あの時」

『実は、メイ殿達まで騙すようになってしまいましたが、あの時…身代乃術(みがわりのじゅつ)を使って、何とか命までは奪われずに済みました』

 身代乃術というのは御業の一つで、自らの分身を作成して、ダメージを肩代わりするものだ。

 ただし、連発が出来ない上に、自身の回復にも時間が掛かるという危険な側面があり

『ベルク殿にそれを悟られると万事休すだったので、あの場は死んだように見せかける必要があったのです』

「馬鹿!」

 メイがマキさんを大きく振り回す。

「ばかばかばか! マキさんの…うぅ…」

『真に申し訳ない』

 マキさんがシュンとしているように見える。

「…もういいよ、マキさんが、生きてたんだもん」

 そのままメイはマキさんを抱きしめた。

「良かった♪ マキさんは無事だったんだね」

 ユメカがゆっくりとメイの肩を撫でる。

『それで…戦況は如何しましたか?どうやらここは禁域では無いようですが』

 マキさんは回復するまでの意識が希薄だったらしい。

「セイガさん達…頑張ってますよ~」

 ミナっちが紺青に色づき始めた空を指差した。

 そこではセイガとハリュウがベルクを追い詰めはじめている所だった。

『なんと!』

 遠くから、ハリュウの精密射撃がベルクを乱し、セイガの剣がひとつ、またひとつベルクにダメージを与えていった。

「その果てを知らず……か」

 そんなセイガの姿を見ながら大佐が独り言ちた。

『…え?』

 メイとユメカ、二人同時に大佐とセイガを見比べる。

「聖河・ラムル…アイツはどこまで強くなるんだろうなぁ…楽しみだよ」

 たった七日間だったが、セイガとの特別訓練は大佐にとっても有意義な時間だった…いつか……そう遠くない何時か、セイガは大佐と本気で戦うかも…

「とはいえ、そろそろ決着をつけないと…時間切れになるぞ」

 覚醒変身、あれはそう長い間維持できるものじゃない、それに大佐は気付いていた。

「セイガ…」

「セイガさん…」

 心配そうなふたりの声が明けようとする空に響いた。

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