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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第77話

 メイはずっと…考えていた。

 自分は何をしたいのか

 自分に何ができるのか

 何度も迷い、決意しては落胆して…もう2年……

 何も分からないけれど、とにかくベルクと決着をつける。

 それだけが自分の生きる意味だと…思っていた。


(…セイガさん)

 目の前で、セイガがボロボロになりながらもベルクと1対1で死闘を繰り広げている。

 既に何度か援護の攻撃を隙を狙ってしてはいるが、ベルクはとても強く、その殆どを防がれてしまっている。

 メイは今も御業の詠唱を続けているが…せめて囮にでもなればいい方だろうか?

(あ、ボク自身が囮になったら…ベルクも手が出せないんじゃ)

 メイも気付いていた、今のベルクは絶対に自分を攻撃してこない。

(…でも、そんなことをしたらセイガさんが悲しむだろうな……)

 セイガはとても優しい、きっと自分が傷つくよりも仲間が傷つく方が何倍もつらい…そんな人だ。

(あんなに怒ってくれて…すごく…嬉しかった)

 セイガが自らの防御を捨ててファスネイトスラッシュを放つ。

 ベルクの光をかいくぐり、その一閃はベルクの首を捉える…が、傷はとても軽微で、引き換えにセイガの方はベルクの光のアッパーをまともに喰らい、花火のように輝きながら打ち上げられていった。

(!!)

 もう、何度目の風景だろう…セイガが無様に地面に叩きつけられる姿を見るのは。

 しかしセイガは大きく肩で息をしながらも再び立ち上がる。

「どうした? 邪魔者を排除するんじゃ無かったのか?」

 そして挑発…

(無茶だ、いくらセイガさんでもこのままでは…)

 メイは唇を噛みしめる。

【つまらないですね 人の子では神には勝てません 分かっているのでしょう】

 ベルクは光以外の攻撃を控えていた、吸収されると面倒だからだ。

 メイも絶対系の攻撃に関しては、アルランカから帰ってきた後、ユメカから教えて貰っていたけれど…

 メイが知る限り、ベルクには光以外にも絶対系の攻撃があるはずだった。

(わざと使っていないのかもしれない、だとしたらセイガさんに伝えた方がいいのかかなぁ…)

 メイの中でぐるぐると考えが巡る。

 そもそも詠唱中なので話すことは難しい、キナさんくらいの術者なら斉唱者以外を加えての念話は可能なのだろうが、今はキナさんも…マキさんもいない。

(自分だけだと多分無理だ)

 ベルクが再びセイガに接近する、最初の光の拳は極壁でタイミングよく防いでいるが、やはり連続で攻撃されると不利だ。

「爆札氷円撃!」

 メイの全力で練り上げた御業。

 複数の札を空に放ち、それらを回転させ氷の刃を作りベルクへと飛ばす。

(沢山あれば少しはベルクの動きも止められるかも?)

 メイの願いも空しく、氷の刃は(ことごと)くベルクの光の前に霧散してしまった。

 しかし救いとして、その間にセイガを逃がすことができた。

「ありがとう、メイ…助かったよ!」

 セイガが平気そうに明るく微笑みかける、おそらく相当苦しいだろうが、メイに心配を掛けまいとする姿だった。

 その優しさが…今のメイには痛かった。

 ふと、メイは少し前に時の神殿でミナっちに時の封印を掛けられた時のことを思い出していた。

(ゆーちゃんも…セイガさんも、前にあんなスゴイ相手と戦ったんだ)


「はい~これでおしまいですよ、うふふふふ~♪」

 あまりにあっさりと、封印は施されていた。

「これでおわり?ボク…何が起きたか全然分かんないや」

「私も…変な感じです」

 メイとユウノはお互いの顔を見合わせる。

「オレ達じゃあ気付けない程…強力な封印なんだろうよ」

 ハリュウが両手をにぎにぎしながら自分の体を確認している。

『某にも…封印は掛かったのでござろうか?』

 知的生命体ということで、マキさんも封印の対象だった。

「…それじゃあ、改めて…俺達の話をしようか…少し長くなるけれど、キチンと聞いて欲しい」

 セイガがテーブルを見渡しながら説明を始める。

 食後だったので、テーブルには紅茶とコーヒー、それからお菓子がそれぞれ置かれている。

 メイは長い話になるのを覚悟しながら、手前のクッキーを口に入れた。

 セイガとユメカが抱えていた秘密…それはメイの想像以上に大きなものだった。

 一歩間違えばこのワールド、第4リージョンが崩壊していたかもしれない事件。

 スターブレイカー事件という名前は何処かで聞いたことがあったような気がしたが、セイガがスターブレイカーと呼ばれても思い出せないくらいには他人事だったから覚えていないのも仕方がない。

 ハリュウの方は一応デズモスの一員として事件にも出動していたので、セイガ達の事情はある程度知っているようだったが…

「ほえ~…ゆーちゃんってワールドで一度死んで…生き返ったんだねぇ」

「死んだ方まで生き返るだなんて…信じられませんわ」

 …

「え?じゃあ父さんと母さんも生き返らせることができるの?」

 メイの素朴な疑問、セイガは軽く首を振った。

「すまない…俺はもうあの時の力が使えないんだ…それと、ユメカの場合、魂の欠片を見つけることができたから可能だったのであって…」

 もう、二年前にこの世を去ったふたりは…もうダメなのだろう。

「そっか…ごめんね、セイガさんを困らせるつもりはなかったんだよ」

 ユウノも頷いている、きっと同じことを思っていたのだろう。

「それにしても…ゆーちゃんにそんな力があるなんて…羨ましいな」

 メイは、何処かで戦闘では守られるだけのユメカに対して、優越感のようなものを感じていた。

 ところが、セイガの最大のピンチを救ったのが…ユメカだと知り…

 暗い感情が生まれるのを意識した…これは、嫉妬だ。

「あの時は…ただね、諦めたくないって……それだけだったんだ、でもきっとセイガが奇跡を見せてくれたから…私も奇跡を信じることができたんだと…思う…ふふ♪…セイガと同じで私も今は全然…『真価』をつかいこなせてないんだけどねっ」

 あの時のユメカの微笑みが…メイを現実へと引き戻した。


(セイガさんは今も諦めてない、ゆーちゃんはきっと今もボク達を心配してくれている、ハリュウは…多分いつも通り、だよね)

 白い山の下、禁域ではずっとセイガとベルクの死闘が続いている。

 もう…どれくらい時が流れたのか…メイには分からなかったが…禁域でほぼ無限に力を引き出せるベルクに対して、セイガの限界はおそらく…

 そう遠くないところで訪れるだろう。

(だったら…ボクに出来ることは…なんだろう?)

 ユメカみたいに、『真価』を覚醒させて…セイガの力になる…

 そんな力は、メイの『真価』には無い。

(だって…ボクの『真価』は地上に花を咲かせる…それくらいのものだもん)

 ここは禁域、眼下には時の神殿と青い湖が見える。

 まだ暗い、朝は来ない。

 禁域の地面は、土ではなく透明な力場、そして白い雲が台地のように包んでいる…世界から隔絶された場所だ。

 でも…

 もし山の神ベルクツェーンの為だけのこの空間に花を咲かせることができたら…

 この世界に…咲く花の自分を生み出すことができたのなら?

【…メイなら……きっと出来るわ】

 声がした、忘れることのない…あの優しい声だ。

【だって…私達の大切な…愛する子だもの】

 ベルクのいる方、そこから聞こえる、幻聴じゃあない、神語…

 意志を空間に出現させ対象に伝える手段 

 ベルクの中の…とある意志が、メイに囁いていた。

「……おねえちゃん……ボク、やるよ」

 メイは白き山の方を向き、目を閉じて、心を鎮める。

 御業もそうだったが、神と対する時、教わった心の込め方だ。

 そして自分の心の中、それからこの禁域に花が咲く姿をイメージする。

(ベルク…父さん…母さん…ユウノ姉……)

 一緒に再誕したみんな、今は別れてしまったけれど

(マキさん…親父さん…女将さん…アルザスさん……)

 旅の間にも色々な出会いがあった、優しい人たちだけじゃないけれど

(ハリュウ…ゆーちゃん…キナさん…歓迎会のみんな…)

 本当に大事な仲間、やっとこの世界でも生きていけると思ったけれど

(…ボクは、セイガさんを助けたい)

 こんなのはじめてだった…自分以上に大切な存在なんて…きっと嘘だと心の底では思っていたけれど…そうじゃあなかったんだね……

「やぁぁぁぁぁあ!!」

 メイは目を開けて、気合を込めた声をあげる。

 その先には『花』の『真価』が浮かび、メイを中心に七色の光が禁域を隅々まで照らす。

【何が起きたというのですか】

「メイ!」

 セイガとベルクの動きも止まる。

 白い雲と、遠くの白い山…その上に…

 赤、青、黄色、様々な種類の花が浮かび、咲き乱れる。

 花弁が宙を舞い、紺碧の空に七色の吹雪を生み出した。

【こんなことが】

(ボクは戦うことは出来ない…けれど)

「メイ…すごく……綺麗だ」

 メイの目の前に駆けつけたセイガが見たのは、花々に溢れた世界の中心で祈る少女の姿…それは…花咲くその姿は幻想的で、とても美しかった。

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