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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第69話

 続いて現れた空間、それは今までと少しだけ雰囲気が異なっていた。

 とても綺麗で大きな寝室、厳かな雰囲気のするその部屋の中央に、少女がひとり…ちょこんと割り座をしていた。

 白銀の長い髪、天色の瞳は虚空を見つめている。

 年の頃は8歳ほど、白くて煌びやかなドレスがとても似合っている。

 高貴で神聖な雰囲気を感じる少女だった。

「あれ?ここどこだろ?」

 メイがユウノを見つめるが、ユウノも首を振る…どうやらふたりとも馴染みのない風景らしい。

「…」

 どういうことだろう、セイガも何か言葉が無いかと周囲を見渡していると…

 ふと、少女と目が合った。

「?」

「…セイガたん?」

 驚いたことに、少女はセイガの名前を呼んだ。

「俺達が見えているのか?」

 セイガの言葉に少女は小首をかしげる。

「セイガたんはひとりだよ?」

「私達は見えないってコト?」

 そんなユメカの言葉にも少女は反応していない、どうもセイガの姿だけ認識しているようだ。

「どうして…俺だけ…それに俺の名前を君は知っているのかい?」

 セイガの困惑した姿をみて

「うん、セイガたんはわかったの♪」

 少女は輝くような微笑みをみせた。

「うわ~~可愛い!お人形さんみたい♪」

 見えないのをいいことに、ユメカが少女のすぐ傍まで近付いている。

「いけません、離れてください」

 そんなユメカを制止する声がした。

 5人が声のした方を振り向くと、そこにはミナっちが立っている。

 直接姿を現すということは何か重大なことが起きたのだろうか…

「この子は危険です、過去の存在が私達に気付くはずがない…つまりこの子供は人間ではない別の何かです…セイガさん」

「はい」

「この子供を斬ってください」

 ミナっちが平然とした声でそう告げた。

「…え?」

「おそらく時を渡る魔物だと思います、私は皆さんを守るために力を割いているので貴方が代わりに倒すのです!」

 ミナっちの強くなる語気に少女が微かに震える、セイガは心を落ち着かせつつ、緊急に備えてアンファングを取り出した。

 そのまま少女とミナっち…双方を軽く向いてみる。

「セイガたん…」

「セイガさん、早く!」

 ふたりがそれぞれセイガを見つめる…そして

「……あなたは、誰ですか?」

 セイガはミナっちの首元にアンファングを向けた。

「な、何をするのです無礼者!」

 文字通り、神に刃を向ける行為…しかしセイガは冷静だった。

 ユメカ達4人もセイガを信じてミナっちの周りに陣取る。

「あなたは俺の知っているミナっちでは無い、それにこの少女からは悪意は全く感じないが、あなたからは隠された敵意を感じます……アンファングの光がその証拠だ!」

 アンファングの光が増す、この剣は常に薄く発光しているが…セイガの意思で光を急激に増すことも出来るし、敵意や悪意に反応して光の質が変わるのだ。

 先程、ミナっちと少女の両方に剣を向けたのもその為だった。

「…私は時紡ぐ聖名…神だ」

『でもそれは私ではありません~~!』

 突如、大きな声が響く、急いでいながらもどこか間延びした声、ミナっちだ。

「ミナっち!」

『それに邪魔をされて追いつくのが遅れました~ 事情は後で説明しますがまずはそれを追い払いましょう~』

「戦うんですか!?」

 セイガが少しだけ焦る、相手がもし神ならば…相当厄介な筈だ。

『だいじょ~ぶ、それはここに居るのに力を使い過ぎているので今はたいして強くありません~ 特別訓練の成果、見せていいんですよ…うふふふ~♪』

 声だけだが、ミナっちの相当な怒りを感じる。

 一方時紡ぐ聖名(それ)は明らかに狼狽していた。 

「時を操る神に勝てると思っているのっ!?」

「あは、自分で手の内を威張っている時点でこけおどしだってバラしてるようなもんじゃん」

 時紡ぐ聖名の背後に立つハリュウだ、風林火山を構え、戦闘態勢は既に整っている。

「ユウノ姉、ゆーちゃん、危ないから後ろに下がって」

 メイがユメカとユウノの手を引き、壁際へ移動、少女の方はマキさんが守るように浮かんでいる。

「さあ…勝負だ!」

 セイガの声と共に、セイガとハリュウ、ふたりの攻撃が時紡ぐ聖名に届く。

 当たろうとした瞬間、時紡ぐ聖名の姿は消える。

 続いて、セイガの背後にその姿が生じるが…

「高速剣『 空刃(うつは) 』!」

 そこにセイガの剣閃、彼女の動きは完全に見切られていた。

「ぎゃあああ!」

「くると分かっていたら…背後であろうと対応はできる…ホントその通りだな」

 振り返ったセイガはそのまま攻撃を続ける。

「時を止められないのも分かったぜ、もしそれが出来るのなら今のなんて恰好のタイミングだったろうしなっ」

 また消えて逃げようとした時紡ぐ聖名だが、再び出現した瞬間にハリュウが待っていた。

 ハリュウの突きを喰らい、壁に叩きつけられる時紡ぐ聖名。

「く…私を…なめるな!」

 時紡ぐ聖名が両手を上げると同時に周囲の時間が重く…干渉される。

 セイガ達には時紡ぐ聖名が時を止めたように見えたかもしれない…

「死ね!」

 時紡ぐ聖名を中心に大きな火柱が広がる、それは躱せない…筈だった。

「ナ、ナニィ?」

 時紡ぐ聖名の眼前にはセイガの姿。

 その手には別の剣、大きな片刃の両手剣が現れ…

 その一閃は火柱をかき消すと、即座に時紡ぐ聖名を切り裂いた。

「ぎゃああああ!」

 悲鳴を上げ、みるみると姿が薄く消えていく…

「糞め…この恨み忘れはせぬぞ…」

 最後に悪態をつくと、そのまま何も無かったかのように時紡ぐ聖名は虚空へと還った。

『…ありがとう、たすかったわ~~』

 ミナっちの声は少しだけ悲しそうに聞こえた。

「あれは…何だったのですか?」

『あれも…私、別の枝世界の時紡ぐ聖名…よ』

「同じ…存在なのですか」

『すこし違うの…でも同じように時を渡り、時の隙間に存在できる者…だから過去の世界といえども安全では無いの…』

「でも、性格は結構ミナっちと違う感じでしたよ?」

 ユメカの意見も頷ける。

『うふふ~ でもそれも仕方ないの…それよりもこの子を』

 とてとてと少女がセイガに近付いてきた。

「ありがとう…ございます♪」

 ぺこりとセイガと、あちこちに頭を下げている、まだセイガ以外は見えていないようだ。

「くらはは、クラハといいます、助けてもらった人にはきちんと名乗ってお礼を言わないといけないのです♪」

「こちらこそ…怖い目に遭わせてすまなかった」

 セイガが頭を下げようとすると、少女は首を振りながらセイガに抱きついた。

「いいんです…っ…」

 やはり少女にとってはかなり怖かったのだろう…急に実感を伴い、ふるふると震えながらセイガのズボンに顔を埋めた…

 そこからじんわりと少女の温かみが伝わる。

 すると、また世界が色を変える。

 せめて少女が泣き止むまでセイガは傍に居てやりたかったが仕方がない。

 静かな…セイガ達が去った寝室で、少女はひとり。

「…また、あえるよね? セイガたん」

 少女は天へ手を振りながらようやく微笑んだのだった。

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