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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第66話

 轟音と、振動がオリゾンテ全体を貫く。

「ななななにっ?」

「爆撃か!?」

 急いで数人が店の外に出る。

 セイガも高速剣の移動を使って門の脇に待機する、敵襲ならばこちらの動きを知らせるわけにはいかない…

 音の正体…

 それは完全に包囲されていた。

 実力者揃いの集団だ、不意を突かれたとはいえ、対応力の高さは折り紙つきだ。

 もくもくと空気が揺らぐ中、そこにいたのは…

「…よっ♪」

『…ハリュウ?』

 所々汚れた緑色の軍服、頬にも何かに切られたような傷跡がある。

 どうやら、高所…ウイングから直接降りて来たのだろう…着地するまで流石に誰も気付けなかったわけである。

「いやー、最速で戻って来たぜ!…まだパーティーは終わってないっすよね?」

 きょろきょろと自分を囲んでいる面々を見渡す。

『……』

 周囲は無言…というか呆れてものも言えない。

「ええと…ほら、主役は遅れて到着するとも言うじゃあないですか…あはは」

 流石にハリュウも状況を理解し始めたのか口調も丁寧になる…

「…ダメ、ですかね?」

 最初に動いたのは直属の上司だった

「迷惑を掛けるんじゃないわよこの豚野郎!」

 ハリュウだけを狙った爆炎が彼を大空へと跳ね上げ

「アタイの店を無断で跨ぐんじゃねぇ!」

 タイミング抜群で上空に現れたリチアが巨大なハンマーで海へと弾き飛ばした。

『ははは』

 2HITコンボ、ハリュウのKO負けだった。

  

「いや、ホントスンマセン」

 海から引き上げられ、服を着替えたハリュウはオリゾンテの入り口脇に正座させられている。

「まあ、アタイは別に構わないんだけどさ あはは」

 リチアは頭を掻きながら闊達に笑っているが、後ろの給仕ふたりは汚物を見るような目でハリュウを見下ろしていた。

(…う~ん、護衛策としてやはりこういう時は念の為バリアのひとつでも張った方がいいのかしらね…)

 上司であるサラが今回の反省点と改善点を思案しながらハリュウを問い質す。

「…で、どうしてこんなテロ紛いの登場をしたわけ?」

 答えは予想できたが、責任者として聞かないわけにはいかない。

「ははは、ようやく任務が解かれてハイになっていたのと、一秒でも早く会場に着きたかったのと…ちょっとした茶目っ気…ですかね」

 サラには嘘も言い訳も効果がないのでハリュウは正直に自分の気持ちを伝える。

「そういう馬鹿な真似をするとデズモス全体の評価とかあたしの監督責任に支障が出るのよ…分かる?」

 言葉と同時にハリュウが苦悶の表情になる。

「うぐぐ…はい」

 どうやら、何か魔法を行使しているらしい。

「ええと…ハリュウも悪気は無いんだし…そろそろ許してあげてもいいんじゃないかなぁ…ね、サラさん♪」

 心配顔のユメカがサラの腕を止める。

「俺からもお願いします」

「ボクも…ハリュウが間に合ってちょっと嬉しかったし、おねがい!」

 セイガとメイもハリュウを庇うように立つ、そんな4人の姿をみて…

「はいはい、分かりました…折角の楽しい歓迎会をしらけさせてしまったのも問題ですし、今回はこれでおしまいです…立ちなさい」

「はい!」

 即座に敬礼するハリュウを見ながら、サラが微笑む。

「それじゃあ主役、景気良くするために何か面白いことをしなさい」

 ずびしと指差す、ハリュウは一瞬きょとんとするが

「えええええ!?」

 オーバーなリアクション、周囲も笑いと共に期待の拍手を送る。

「ええぞ~」

「おもしろいことって楽しみです、わくわく♪」

「そうですね~ 丁度いいタイミングに来れて嬉しいですね~」

 …

 全員の視線がハリュウの少し前方に集まる、そこには輝く金色の髪に、銀色の瞳、真っ白いドレスに身を包んだ女神…

 時紡ぐ聖名が体を屈ませながら両手に顎をのせ…期待溢れる目でハリュウをみつめていた。

「ミナっち?」

「はい、ミナっちです☆ セイガさん…お久しぶりですね~覚えていてくれて嬉しいですよ~♪」

 立ち上がり、突然セイガを抱きしめる。

「え?」

 女神の抱擁にセイガは動けない…(かぐわ)しい匂いと蕩ける感触…これが天国にいるような気分というものだろうか…

「あのっ…ミナっちがどうしてここへ?」

 ミナっちがユメカの問いに反応すると同時にセイガを離す。

「うふふふふ~ 実は大事な用事があったの、セイガさん達には早めに伝えようとここまでやって来たのだけれど…丁度いい時間だったわ♪」

 少女の如き満面の笑顔…しかし

「貴女の場合、丁度いい時間は偶然でも何でもないでしょうに」

 秘書のリンディが声をこぼす。

 時紡ぐ聖名…時間を自由に操る女神にとって、タイミングを合わせるなんて造作もない…最初からこの時間に来るつもりだったのだ。

「うふふ、リンちゃんは意地悪さんですね、私だっていつも時間に干渉しているわけでは無いんですよ~ ぷんぷん」

 特に怒ってはいない表情のミナっち。

「それじゃあ今来たのは偶然だとでも?」

 数瞬の沈黙…そして

「うふふふ~?」

 彼女は笑うだけだった。

「それで…大事な件というのは?」

 セイガが改めて聞く、セイガさん達ということはおそらく自分に関わる事案なのだろう…不安はあるが早く知りたかった。

 そんなセイガの真っ直ぐな視線を受けながら

「あのね…」

 ミナっちはメイとユウノ、ふたりの方に手を伸ばす。

「メイちゃんとユウノちゃんの故郷…過去のエルディアの場所が分かったの」

 メイの体が震える。

「エルディアの場所が分かったって…それってもしかして」

 ユウノも気付いたのだろう、目に涙が浮かんでいる。

「…ええ、枝世界…エルディアに帰ることが出来るわ」

  

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