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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第64話

 この歓迎会には、主にユメカとセイガの知り合いが呼ばれている。

 なので、セイガも実は初めて会う人たちもいたりして…

 メイとユウノはユメカとその友達の女性陣(ルーシアも含む)に囲まれて、華やかな雰囲気で談笑していた。

 セイガはその空間にはちょっと入れずに、今は久しぶりに会ったエンデルクと話をしていた。

「エンデルクの方は…無事に旅の目的を果たしたのかい?」

 招待はしたものの、送った時点ではまだ帰れるかどうか未定だったのだが、今のエンデルクの表情を見るに、きっと上手く行ったのだろう。

「無論だ、しかし予定外の事項にも沢山遭遇したから…大変ではあったな」

 銀色の王杓をみやる、これが目的のトレシア王家のもの…

 上部には翼を持った猫の彫像が付いている。

「…ん?……だと?」

 エンデルクが珍しく、小声で何かを言っている、それは誰かと話をしているようで…テーブルを見返しながらオルタナに

「猫に食事を与えても構わないか?」

 そう尋ねた、オルタナは少し戸惑いながらも

「ええと……はい、結構ですよ」

 リチアの顔色を見ながらそう答えた。

「だ、そうだ」

「…やったニャ♪」

 すると、王杓の猫に生気が灯り、灰色の綺麗な毛並みの猫がするりとテーブルに降り立つと、音もなくスープを舐め始めた。

「え?」

「…ほう、そちらの猫も再誕した存在でしたか…興味深い」

 驚くセイガの脇から、リンディが手を伸ばし、翼持つ猫を撫でた。

「これも予定外のひとつなのだが…トレシアの猫、ミーコだ」

「はじめまして、ミーコ・トレシアですニャ」

 猫の声色のまま、、ミーコが丁寧に挨拶をする。

「びっくりです…猫に羽が生えていたり、喋ったりするなんて…エンデルクの世界ではこれが普通なのですか?」

 セイガもここに来る以前、おそらく猫を飼っていたのだが、人の言葉を使ったりはしなかったはずだ。

「王は、面倒を嫌う…ミーコはかなり特殊な存在だ」

「話せば長くなるので、あとでまた顛末はお話しますよ、因みにミーコさんも再誕した存在なので『真価』を持っているのですよ」

「へぇ…そうなのですね」

 憮然とした態度のエンデルクをフォローするようにテヌートが現れた。

「ふぅん…折角ならもうひとり、ゲストを呼んでみようか」

 リンディが茶色い本を開く、よく見るとそれは額窓だった。

 額窓はその色だけでなく、大きさや形も変更が出来るというが、こんな風に額窓を使用する人を見るのは初めてだった。

『ねえ、面白そうだからミュアもこちらに来なよ…美味しいご馳走もあるからさ』

『…仕方ないなぁ』

 リンディの目の前でキラキラと青い光が降り注ぎ…

 すっと、ミーコに相対するようにテーブルにはちょこんと黒猫が座っていた。「どうも、ぼくの名前はミュア、リンディの相棒にして使い魔でもあるマジカルキャットさ☆」

 ミュアは二本足で立ちながら前足で器用に挨拶をした。

「おお!」

 またしても喋る猫の登場にセイガの心も弾む。

 一方ミーコの方は不満そうだ。

「マジカルキャットが何様かは知らニャーけれど、猫風情がミィより偉そうにするニャんて許せないニャ」

 翼を広げて、威嚇のポーズを取っている。

「ふん、ぼくはただの猫じゃないよ、魔法で生み出された猫型使い魔、珍しいだけの猫とは違うのさ」

 ミュアも前足を構えて、臨戦態勢だ。

 一触即発…そんな雰囲気の中

「王の前で、くだらない争いは…許さん」

 エンデルクがミーコの後ろ首を掴み、持ち上げる、そこを掴まれると猫は無理には動けない。

「止めないで下さいニャ」

「これでもトレシア王家の家宝なのでな…大人しくしろ」

 そして王杓に乗せられると、ミーコは借りてきた猫のようになった。

「ごめん、喋る猫同士仲良くするかと思ったのだけれど…どうやらふたりともプライドが高いから…急には無理か…ミュアも生意気だしね」

 リンディの言葉に合わせるようにミュアがリンディの肩に乗る。

「生意気は言い過ぎだよ、ぼくはきみより1年先輩なんだからね」

「はいはい、分かってますよ」

 肩をすくめるリンディに胸を張るミュア、どうやらふたりの付き合いは長いらしい…とてもいい関係に見えた。

「ところで…秘書殿に聞きたいことがあるのじゃが」

「ええと…上野下野さんですか…何か?」

 猫同士の争いの辺りからテーブルに来ていた上野下野がリンディに耳打ちする。

 微かにだが、リンディの顔色に影が落ちる。

「ふふ…そうですね…あなたの推測、正しいですよ」

「すまんのぅ、気になることはその場で聞きたい性分での」

 話の内容が気になるセイガだったが、わざわざ隠すのはきっと事情があるのだろうと深く考えないようにした…のだが

「儂は…秘書とひしょひしょ話をするのが長年の夢じゃったんじゃよ……感無量じゃ☆もう思い残すことは無い!」

 魂が抜け出しそうなほど満足そうな店主の笑みを見て、実は大した話はしてないのかもしれないと思った。


「うはは、あっちの席、猫がいるよ♪ すごいね…二匹でお肉を食べてる」

 それに最初に気付いたのはユメカだった。

「ホントだ、あっちも楽しそうだけど…会食で猫っていいのかな?」

「どうなのでしょう?」

「マジカルキャットと再誕してきた猫…と言ってたわ、言語を解する知的生命体ならば問題は無いといえるわね」

 魔法で聞いていたらしい、サラの説明に場は更に盛り上がった。

「ところで、あっちのテーブルに座っている男の人って…」

 ユメカの友達のひとりがユメカの肩を軽く叩きながら視線を送る。

「…ああ、アルザスさんだよ」

 そこには剣聖、アルザスがひとり食事を取っていた。

「やっぱりそうだよねっ…誰かの友達だったりするの?」

「あはは、一応私も知り合いなんだけどさ」

 流石に、一度自分を殺したことのある相手とは言えない。

「めーちゃんも知り合いなんだよね♪ふふふ」

「はい、前に助けて貰いました」

 意外な繋がりに一同、唖然とする、さらに

「どーしてベレスまでいるの?ゆめかっちの敵じゃなかったっけ?」

 小声で別の友達が囁く、そちらのテーブルには邪妖精のベレスが部下のハーフリングのパルタと共にすごい勢いで肉を頬張っていた。

「うはは…アレはいつの間にか参加してたんだけれど……セイガ的には知り合いだし構わないだろうって話になったんだよね」

『セイガさんらしいですね』

 フェルステン姉妹が同時に頷いている。

 そうこうしていると、今度は猫二匹がキナさんの彼氏である、ノエくんに撫でられて可愛らしい声をあげ始めた。

 あまりに尊い光景に皆の熱い目が注がれる。

「…あ、ボクちょっとアルザスさんの所に行ってくるね」

 そんな人だかりから外れるように、メイがひとり、アルザスのいるテーブルへと向かった。


 ふとセイガが横を見ると、オリゾンテのマスターであるリチアが立っていた。

 その横にはうっすらと顔を赤らめるレイチェルの姿も…

「流石に…これ以上飲んじゃダメよ…レイチェル、しっかりなさい」

 聞こえているとは思っていないのだろう、レイチェルがひとりごとを呟いている。

「楽しいな、セイガ☆」

 レイチェルとセイガ、両方の肩に腕を絡ませながらリチアが笑う。

 心なしか、給仕ふたりの目線に敵意みたいなものを感じたが…目が合うと普通に微笑み返してくれたので、気のせいだったのだとセイガは思った。

 皆がそれぞれ、楽しんでいるようで…セイガもすごく嬉しかった。

 ただいま中央のテーブルでは、何故かサラとリンディが

『どちらが魔法使いとして実力が上か』

 を競うべく、余興ともいえる派手な幻影魔法を見せあっている。

 光と音、香りと触覚までもが(いざな)われる両者の魔法による演出…

 その幻想的な光景にみなうっとりとしている。

 歓迎会の最初の方はやや表情の硬かったユウノもくすくすと笑っていた。

「…あれ?メイは……」

 部屋の中にメイがいないことに、セイガは気づいた。

「どうも少し前に外に休みに行ったようだね…ちょっと気になるからセイガ、見てきてくれるかい?」

 セイガにだけ聞こえる声で、リチアが囁く。

「あ、はい」

 柔らかいリチアの腕をすり抜けて、セイガは外…バルコニーの方へと向かう。

「…セイガ君…しっかりね~♪」

 分かっているのかいないのか、今にも倒れそうなレイチェルが手を振りながらセイガを見送った。

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