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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第63話

「油断した!!」

 変身解除を見られたリンディのことを悪くは言えない、自分もまた完全に油断をしていたのだから。

 セイガはとぼとぼとオリゾンテへと向かい先頭を歩く。

「あまり気にしなくていいですよ?私もメイも何となく予想はしていたので」

 ユウノのフォロー、セイガとユメカの様子がここ数日、ちょっと変だったので、ある程度は気付いていたらしい。

 だからか、この日のふたりの服装はいつもより華やかな感じのワンピース…ちゃんとおめかしした姿だった。

「うん、こーゆーのは完全に知らないよりも、ちょっとだけ期待できる方が嬉しいから大丈夫…ですよ♪」

 メイがセイガを追い越してから、くるりと振り返る。

 その際、右手の銀の腕輪が煌めいた。

「ホントにこれ…貰っちゃっていいの♪」

「ああ、最初から参加者のみんなからお金は預かっていて、ふたりにプレゼントする予定だったからね」

 もう、歓迎会がバレてしまったので、プレゼントのこともセイガは正直に話していた。

 ユウノの方も、左手の金の腕輪を愛おしそうに撫でている。

「ユウノ姉、絶対楽しみだね」

「そうね」

 メイが手を引き、姉妹は横に並ぶ。

『歓迎会の件は某も存じませんでしたが、心からお二方が喜んでいて…とても良かったですな』

 マキさんが手を繋いで歩くふたりを眺めながらセイガに囁く、メイの従者として、やはりずっと気掛かりだったのだろう。

 今は絵巻物の中の風景も不思議と晴れやかに見えた。

 因みに、地図に関してはマキさんが案内をしてくれたそうだ。

 非常に便利な地図機能、自らや一部対象の現在位置も表示できるものだが、防犯的な意味もあって、多くの建物やデズモスの地下基地など秘匿性の高いもの、ダンジョンや迷路など探求が必要なものはその場所の権利者のみが地図を閲覧できる。

 そういう場所でも、実際に赴きマッピングをすれば地図を作成することができるが権利者の許可なく公表することは禁じられているのだ。

 街の地図はセイガが正式に購入したもので、使用許可もちゃんと付いている。

「さて、そろそろ到着ですよ」

 案内役のセイガ、結局リンディも同伴して、岬の上に建てられた立派な洋風の建物…大衆食堂(トラットリア)「オリゾンテ」へと到着した。

 ここは基本的には食堂なのだが、主人が無類の創作好きなので、鍛冶屋と時計屋とその他諸々作成できるアトリエも併設されている。

 いつもは大人気のお店なのだが、本日は

「貸し切りにつき 本日休業」

 の看板が出ていた、これも木材を一から加工して作っていて、書体も含めてとても味のある作品となっていた。

 セイガの勧めでメイとユウノが入口に近づき、両開きの扉を一緒に開ける。

『メイちゃん、ユウノさん、ようこそ!!』

 一斉に掛け声があがり、方々でクラッカーが鳴り響く。

 店内には沢山の人達と、豪華な料理が待っていた。

「めーちゃん、ユウノさん…ビックリした?」

 代表するように先頭にいたユメカが主賓のふたりに近づく。

 この日はパーティーということで、落ち着いた桃色のドレスに袖付きの薄手のストールを羽織っている。

 髪もうなじの辺りで軽く留めていて、瀟洒(しょうしゃ)な雰囲気だ。

「あ…うん」

「そうですね…」

「…あれ?」

 予想と違うふたりの態度にユメカの頭の上で「?」が浮かぶ。

「すまない、実はここに来る前に歓迎会のことは知られてしまったんだ」

「え~~? あはは、そっかぁ……それじゃあ仕方ないね」

 一瞬、咎めるような表情を見せたが、メイもユウノも嬉しそうに微笑んでいたので、ユメカはそれで満足した。

「はいはい、それじゃあ早速乾杯と行こうじゃないか」

 オリゾンテの店主、リチアが店中に響きそうな声を上げる。

 赤茶色の髪に、ネコ科の猛獣を思わせるような金色の瞳、日焼けした肌の上に白い調理服が良く似合う、スタイルはとても豊満で横にいるレイチェルと比べても見劣りしないほど…

「あれ?そちらはお客さんかい?」

 リチアの目がリンディに注がれる。

「あ、わたくしはここの学園長の秘書を勤めているリンディ・ルルクと言うものです、さきほど偶然聖河さんと会いまして、お誘いを受けたのですが…わたくしも同伴してよろしいですか?」

 首を傾げて、許しを乞う。

「勿論、大歓迎だよ!」

「ありがとうございます」

 ちなみに、メイ達とは先に挨拶を済ませていたのだが、魔法少女との関係性については何とか有耶無耶にすることが出来たので、たまたま入れ違いで出会ったということになっていたりする。

 メイなどは特に、見た目だけなら歳が近いこともあって、かなり友好的だ。

「はいはい、それじゃあグラスを受け取ってね、お酒がダメな奴はちゃんと言うんだよ?」

 リチアの声に合わせて、傍らに控えていた男女、共に給仕だろうふたりが手際よくシャンパンの入ったグラスを渡していく。

「わたし…おさけはのめないです……しゅん」

 小さな緑髪のメイド服を着た少女が代わりにシャンパンに似せたジュースを貰っている。

「ルーシア!…ということは?」

 セイガが驚く

「無論、王も招待を受けたからな」

 エンデルクだ、どうやら無事に帰って来たのだろう。

「エンデルク!よく……、おかえり♪」

 親愛の情を込めてセイガが手を伸ばす

「セイガよ、どうやらまたひとつ、強くなったようだな」

 今日は正装だろうか、いつもよりさらに高貴な服装で、長い王杓を握手をしていない方の手に持っている。

「話はまた後で…お互い楽しみだ」

 セイガがにやりと微笑む、そんな姿をメイは眩しそうに眺めていた。

「はい、めーちゃんの分のジュースだよ☆ユウノさんは?」

 ユメカがふたりに近付く、わくわくが溢れ出そうな表情だ。

「シャンパンを頂こうかと…」

「ふふ…了解♪」

「ねえ?ゆーちゃん?」

 引き返そうとするユメカをメイが留める…気になっていたことがあるからだ。

「んにゃ?なに?」

 首だけくるりと動かして、屈託ない表情のユメカ

「…ん、ゴメン、なんでもないや」

 メイは言葉を濁した、本当は聞きたいことがあったのだが、それを聞いてしまったらきっとユメカを困らせてしまうと…思ったからだ。

「みんなー! グラスは回ったかい?」

 ユウノの分は気が付いた女性給仕が渡していた。

『は~~い』

「それじゃあ乾杯の言葉は……上野下野」

「儂じゃな☆」

 いつの間にか、「メイちゃん・ユウノさん 歓迎会」と書かれた横断幕の下に黒い紋付の着物を来た上野下野が変なポーズを取りながら立っていた。

「皆様、この度はエルディアから来られた美しい姉妹、ユウノとメイの歓迎会にお集まり頂きありがとう御座います」

(…あれ?エルディアの話ってしてたっけ?)

 メイの心を知ってか知らずか、店主が意気揚々と升に入ったシャンパンを掲げる。

「…そしてユウノさん、メイちゃん…どうかこの地で幸多からんことを願いまして……乾杯!」

『かんぱーーい!』

 グラスの鳴る音が方々で響く。

「あ、これ美味しい♪」

 甘さと酸味が丁度いい、とても良質なシャンパンだ。

「さ、どんどん食べてくれよ♪ 料理はアタイが腕によりを掛けて作ったもんだ、それからこちらはプログレとオルタナ、今日の給仕を任せたんで、要望はどしどし言ってくんな♪」

 リチアが誇らしそうに給仕を紹介する。

「プログレです、本日はようこそオリゾンテへ、心ゆくまでお楽しみください」

 爽やかな笑顔を見せながら男がお辞儀をする。

「オルタナです、いつもオリゾンテをありがとうございます♪マスター共々心からおもてなしいたします」

 女もスカートを軽く摘まみながら丁寧にお辞儀をする。

 まさに美男美女という雰囲気を魅せている。

 さすがは人気店といった風情がここにはあった。

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