第61話
訓練7日目、今回の訓練の最終日である。
「まずは…よくここまで来れたな、上出来だ」
いつもの特別訓練室…ここで何度セイガは死にかけただろうか……
「大佐、本当にありがとうございました!」
セイガは大きく頭を下げる、この6日間の地獄の日々は、セイガにとってかけがえのない経験となっていた。
「感謝は全て終えて…結果を出してからにしようぜ?」
まだ、一度も大佐には勝てていない…けれども、セイガの心と体は確実に強くなっている…
「はい、今日中に…まずは大佐に一勝します!」
そう、ハッキリと宣言出来るくらいには、セイガは自信をつけていた。
「いい返事だ」
特別訓練室の景色が変わる、今日の戦場は…古代の闘技場を思わせる円形のフィールド…石造りの観客席にはご丁寧に人影まで…
「ってサラさん!?」
他にも見覚えのある顔も幾つか座っている、デズモスの構成員たちだ。
「うふふ…楽しませてもらうわよ♪」
緑色の軍服姿のサラ、その隣にはやけに身長も体格も大きい女性と、とても小さい、子供のような姿の女性も並んでいる。
「最終日だからな、ギャラリーもつけてみた」
大佐が右手を掲げると、大歓声が起こる。
「豪華ですね…緊張します」
握る盾剣(Shield Sword)に力が入る…
「それだけじゃあ無いぜ、もし暇になったら乱入しても構わないと告げてある」
再び歓声が起こる、それは先程と違って闘争本能が剥き出しのものだ。
「いい戦いを見せてよね♪ …さもないと、あたしの力も魅せることになってしまうわ?」
サラの言葉で、周囲の温度が一気に下がるのをセイガは感じた。
震える…怖い、けれど
「熱い戦いをしても…それでも乱入は可能ですよね、大佐?」
周囲を見渡し、セイガは挑発する。
「勿論だ、お前の全力をこいつらに教えてやれ…なあ…セイガ!」
大佐が翼を大きく広げる、尻尾を地面に叩きつけながらセイガを睨む…いつもの闘気だ。
まだ、勝てはしない…だけど……負けない!
「聖河・ラムル……推して参る!」
「ああっ!相手してやんよ!!」
そして、戦いがはじまった。
死屍累々、そんな言葉が似合いそうな光景だった。
闘技場には唯一人、大佐だけが雄々しく立っている。
セイガは大地に沈み…
さらにその周辺にはデズモスの構成員たちが息も絶え絶えという体で倒れ転がっていた。
幸運なことに「まだ」誰も死んでいないのが救いだがとんでもない状態である。
「おう、楽しかったなぁ♪」
大佐が牙を見せながら闊達に笑う。
『ははは…』
セイガと大佐の対決は苛烈を極めた。
何度倒れても、セイガは引かず、勇敢に攻め続けていた。
そのうち、感心したデズモスの三次長がそれぞれセイガと戦った。
それを見た構成員の面々も、セイガと勝負をし始め…
最終的には何故か、セイガを含めたデズモス構成員全員で大佐に挑むという展開になったのだが…
「まさか…全員掛かりでも大佐に勝てないなんて…思いませんでした」
セイガの言葉通り
「俺もまだまだ…強くなりたいからな」
セイガ達は本気だった、デズモスの構成員はそれぞれ連携が取れていたし、その中でもセイガはかなり奮闘している。
そんな常人なら秒殺だろうその圧倒的な条件でさえ、大佐は撥ね退けたのだ。
(ハリュウも、参加したかっただろうなぁ…)
ハリュウはまだ、任務の途中でこの場にはいない、もしこれを知ったら悔しがる光景が目に浮かぶようだ。
「俺の、大佐に勝つっていう目標は…遥か遠いのですね」
まだ立ち上がれないから、座ったままセイガは嘆息する。
それでも、セイガの表情は晴れやかだった。
「いや、お前は強かったぜ、俺が一勝与えてもいいくらい…お前は強い」
あれだけ圧倒的な実力差を見せながら、大佐は冷静にそう評した。
「…ありがとう、ございました!」
額を地面につけながら、セイガが感謝を告げる。
「さて…今日は流石にこれで終了かな…おーい、死んでる奴はいないかぁ?」
「…大佐、死んでいたら返事は出来ませんよ」
術次長、サラが立ち上がり、てきぱきと周囲に指示を飛ばしながら動けない構成員たちを運び出す。
「またサラはひとりだけポイント稼ごうとして」
「油断も隙もありませんわね」
続いて、他の構成員たちもそれぞれ仕事を始める…そんな行動力の高さもデズモスの本領なのだろう。
「おい、立てるか?」
セイガの目の前に、大佐の手が差し出される、とても…大きな掌だ。
「まだ…正直言うと難しいです」
途端、体が軽くなって、セイガは手を引かれながら立ち上がった。
「そういえば…明日はちょっとした催しがあるのですが…良かったら大佐も参加してはくれませんか?」
大佐には、感謝の意も含めて参加して欲しかった。
「ほう…それは楽しそうだな♪しかし残念ながら俺が自由に動けるのは今日までなんだよ」
そうだった、大佐の時間を全て掛けてセイガは特別に訓練させて貰えたのだ。
「そうでしたね…残念です」
「それに明日だったらどうにかハリュウも参加出来そうなんだろ?それならば仕方ない…俺は満足だよ」
予定では、明日にはハリュウも帰ってくるらしく、それで明日が選ばれたのだ。
「ハリュウとふたりして楽しんで来いよ、お前達にはその権利がある」
手を振りながら大佐が背中を向ける。
本当に大きな…とても大きな背中だ。
辛くて逃げ出しそうになった時もあったけれど…今は本当に感謝している。
だから…精一杯、思いを込めて答えた。
「はい!ありがとうございました!」




