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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第60話

 訓練4日目、大佐が特別訓練室に入ると、そこには既にセイガが立っていた。

「おはようございます!」

「おう、早いな」

 昨日までとは違う、セイガの明るい声に、大佐は少しだけ期待を持つ。

「はい、前から考えていた新しい剣を、早く試してみたくて…」

「ほう?」

 興味深い発言に大佐の尻尾もぴくりと反応する。

「絶対系の講義を受けてから、ベルクに対応するための方法自体はずっと考えていたのですが…今の自分でも扱えて、充分な効果を持てそうな剣となると……選ぶのも作るのも難しくて」

 それに、セイガは大佐の訓練で相当精神を疲労していたから…行動にはなかなか移せなかったのだろう。

「それが…出来たというのか」

 明らかに、セイガの表情が変わっていた。

「ええ…これです……来い!」

 その声に呼応して、『剣』の『真価』が出現、そしてセイガの手には刃渡り1.3m程の片刃の白い大型剣が握られていた。

 よく見ると、柄の部分から持ち手をガードするような造りになっており、逆手で構えると盾のような使い方も出来そうだった。

Shield(シールド) Sword(スォード)と言います」

 逆手から順手へ持ち替える、広めの幅を持つ片刃の剣で刃の後ろにも持ち手があり、片手でも両手でも持てる。

 かなり特殊な構造だった。

「とある世界の達人の使っていた剣です、攻撃するよりも守りや反撃に強い独特な剣術を極めていたそうです」

「なるほど、それでゴットの光を防ごうという訳だな」

 セイガの今までの持ち技は攻撃や移動に特化したものが多い。

 今回のこの選択はけして、悪くはない。

「だが、防ぐだけではゴットには勝てないぞ」

「ええ…それはこれから鍛えます、前に大佐が言ったようにベルクと同じ所まで立てないと勝負にすらなりませんから」

 セイガの瞳は、熱く燃えていた。

「あてはあるのか?」

「ええと…実はそちらの方はまだ…です」

 大佐は大きく天を睨む、それと同時に部屋は暗雲垂れ込む草原へと変貌する。

「だったら…その技は、最初から自分で作り出すことだな」

 雷雲が唸りを上げる中、大佐が断言する。

「自分で…作る?」

「そうだ、お前は確かに幾千もの達人が作り上げた奥義を知ることが出来る…だからこそ完成度の高いそれらの技を効率よく学べてはいるのだろう」

「はい」

「その為、自分が新しく何かを考えるより既存の達人の技を鍛える方がいいと思ってはいないか?」

 それを聞いて、セイガははっとした…確かにその通りだったからだ。

「そう…ですね、私は確かにそう考えていました」

「それも悪くはない、武術というのはそうして伝わって来たものだ。しかし、本当の意味で技を極めたいのならば、自分で考え、選択する部分が無いと身に付かないと俺は思っている…最後に技に出るのはその人の本性だ」

「…」

 セイガは何も言い返せない。

「難しい話だが、考えて見るといい、折角お前には沢山の知識があるのだから、そこから組み合わせたり、変化させたり…自分なりに望むものがきっとある筈だ」

 だから、もっと考えろ。

 そう大佐は言っていた。

「……望むもの、それならば…あるかも知れないです…考えてみます!」

「よし、ならばここで俺にいくらでも試してみるといい…勝負だ」

 雷鳴が大佐の背後で轟く、稲光に照らされたその表情は…とても恐ろしかった。

 しかし

「それじゃあ…参ります!」

 セイガはその恐怖を振り払うように大佐へと立ち向かった。


 それから一時間後。

「なかなかに面白い技だな」

 立ち尽くす大佐に対して、草原にうつ伏せで倒れ込むセイガ…

 さすがにまだ全然、大佐には勝てない…けれど

「これならばゴット相手でも…確かに立ち回れるかもしれない」

 大佐にそう評価されて、セイガは嬉しかった。

「今日は、初めて使ったので…タイミングがまだ難しいですけど、それは今後磨いていきます」

 立ち上がり、再び剣を構える。

「おっと…訓練中の私語はいかんかったな、まだ時間は十分あるぞ!」

 今日の訓練はまだまだ続く、セイガは目の前の戦闘に再び集中した。



「セイガさん…大丈夫…かなぁ……」

 ボクは、ひとり部屋のベッドに横たわりながら、天井を見つめていた。

 おととい、楽多堂の店主さんからセイガさんの状況を聞いて、すぐに額窓からメッセージを送ったのに、なんの反応も無かった。

 直接通話を試みる選択もあったのだけれど…どうしてもそれが出来ない。

 そんな憂鬱な時間が、ずっと続いている…

 ゆーちゃんは今日もお出掛け中、家には自分と、となりの部屋にいる筈のユウノ姉だけ…ユウノ姉ともこの二日間は殆どお話していない。

 多分ユウノ姉もセイガさんのことが心配なのだろう…

 出来ることなら今すぐ大声を出して、迷いなんて捨てて、セイガさんに会いたい。

 いや、そうじゃなくて…

 ボクは……

「ねえ…マキさん、話を聞いてくれるかな?」

 机の上の巻物に問い掛ける。

如何(どう)かしましたかな?メイ殿』

 マキさんがふわふわと浮きながら話を聞いてくれる。

「うんとね…絶対…絶対内緒にして欲しいんだけど」

『承知しました』

「ボクね…多分嘘つきなんだ……自分が思ってもないコトを本当だと思ってる」

『人間は、誰しも嘘を抱える生き物ですよ』

 きっとマキさんなりの励ましなんだろう…

「そうかもね…だとしたら、ボクはどうしたらいいのかなぁ?」

 何を言っているのか、きっとマキさんには通じていないだろう。

 けれども、マキさんは答えてくれる。

『メイ殿は、きっと答えをもう知っていると、某は思いますよ?あの時、あの境内で某を救ってくれたように…どんなに迷っても戻る場所が…メイ殿にはあります』

 そうだ…ボクにはそんな心の支えが…あったんだ。

「そうだったね…ありがとう、マキさん」

『お礼を言うのは某の方ですよ…某に生きる意味をくれて、感謝しております』

 マキさんは基本的に出しゃばらない、いつもボクの傍で、一歩離れた場所に控えている、それがきっとマキさんなりの心遣いなのだろう。

「でも…ボクは……自分から前に出るのは…疲れちゃった…かも」

『メイ殿…』

「もう…父さんも母さんも帰って来ないんだし……全部忘れて、穏やかに暮らすのも…悪くないかも」

 自分で口にしながら、呆れていた。

 今更、何を言っているのだろう。

『メイ殿…それがメイ殿の本心ならば、某は反対しません』

「…マキさんならそう言うと思ってた」

 マキさんはボクをけして否定しないから…

『だからどうか心安らかに…今は休んでくださいまし』

 沈黙が続く、もしかしたらマキさんはボクが隠しているところまで気付いているのかも……

 たった数日、会えないだけでこんなに不安になるなんて…

(やっぱり……あいたい…な)

 言葉に出来ないけれど…それでも

 その時、ふと額窓が現れた、通信だ。

「ええと…どなたですか?」

『ああ、ゴメン……セイガです、メイは今大丈夫かな?』

「セイガさんっ!?」

 大声になってしまう、確かに額窓をよく見てみるとセイガさんの名前と顔が表示されていたけれど、ボクは寝転がっていたのでちゃんと見えてなかったのだ。

「あのその…はい、ボクの方は問題無いです」

 乱れた髪を直しながら、ボクは平気そうなフリをする。

 本当は大問題なのだけど、

『ああ、それは良かった…まずは謝らせて欲しい……一昨日、折角心配のメッセージをくれたというのにすまなかった! 完全に言い訳なんだが、つい今さっき気付いて…メイを不安にさせてしまって本当に悪かった』

 セイガさんはどうやら本当にボクからのメッセージに気付いてなかったようだ。

 無視されたわけじゃなかったのはちょっと嬉しい。

「セイガさんもそれだけ大変だったってことですよね……話は店主さんとゆーちゃんから聞きました」

 画面の向こうのセイガさんの表情が、少しだけ和らいでる。

 けれども、やっぱりスゴイ特訓なのだろう、気配というか…凄く疲れているように感じた。

『どうにか…死なずに済んでいるよ』

「死んじゃうっ!?」

 反動で体が起きる。

『あ、いや……ただ、今は手応えというか、訓練の意義はちゃんと出てきたんだ、だからきっと大丈夫…だと思う』

 情けなさそうに微笑むセイガさんを見て、改めて嬉しさと一緒に申し訳なさが溢れてくる…

(ボクが…ちゃんとしないと)

「あんまり、無理はしないで下さいね」

 心とは別の言葉だったけれど、これも本心だ。

『ありがとう、もう少し頑張ってみるよ』

 そういえば、横を見るとマキさんはいつの間にか紐を縛って休んでいる…

「それならいいです。もしかしてセイガさんは謝るためにわざわざ連絡をくれたんですか?」

 真面目な人だ。

『ああ…それともう一つ、ユメカから既に聞いたかも知れないが……4日後、空けておいて欲しいんだ』

 ボクは特に用事は無いのだけれど、どうしたのだろう。

 セイガさんの表情も心なしか緊張しているようだ。

「それも問題無いですよ…何かあるんですか?」

『ああ、詳しくは当日に話すけれど、メイとユウノと3人で街まで出掛けたいのだが…付き合ってくれるかい?』

 首を傾げながら優しく微笑むセイガさんの姿…

「あ、ハイ…ダイジョブ……です」

 う、うまく言えただろうか?

『それは良かった、あとはユウノの方にも今から連絡するつもりなのだが』

「あぅ、それはボクからしておきますよ!」

 ちょっと意地悪かもしれないけれど、つい咄嗟に口から出てしまう…ユウノ姉だってきっとセイガさんから聞いた方が嬉しいはずなのに。

『そうか…いや、ユウノにも直接お礼を言いたいからこちらから掛けるよ、本当ならふたりに会えるのが一番なのだが…ちょっと今は難しくてね』

「その気持ちだけで嬉しいです…それじゃあ、また四日後によろしくお願いします♪」

『ああ、それでは…おやすみなさい』

「おやすみなさい…」

 通信が切れる、ボクは再び寝転がり、ベッドの上で足をバタバタとさせた。

 これからユウノ姉とお話するのはちょっとだけモヤモヤするけれど、ボクの方へ先に連絡をくれたこと…

 そもそもセイガさんの声が聞けただけで、ボクはこんなにも元気になっている。

(早く、会いたいなぁ……)

 そんな風に思いながら、この日

 ボクは、いつもより早くすっきりと眠れたんだ…

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