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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第59話

 地下基地(ホーム)の地上部分は大きな岩々で囲まれていて、合間には草花が茂っている。

 外からならば、人の手の入っていない無人島に見えるだろう。

 セイガ達のいる場所も床面は石のようにカモフラ―ジュされており、人工物だとは到底見抜けない。

 一段高くなっている丘のようなその場所で、セイガとユメカは休んでいた。

「昔は…よくこんな見晴らしのいい丘に、家族みんなでピクニックに行ったりしたなぁ…ふふ」

 その頃のことを思い出しているのだろう、ユメカは綻ぶように笑みを漏らす。

「家族か…ユメカの家はどんなだったんだい?」

「家族構成? えっと、お父さんとお母さん、それから妹がいたよ…弟もいたような…あれ?いなかったっけなぁ…ふふ」

 再誕の影響で家族との大切な記憶ですらも完全には思い出せない。

 それでもユメカは笑顔だった。

「そうか、ユメカはお姉さんだったのだな…確かにメイと一緒に居るのを見るとしっくりくる気がするよ」

「セイガは? 確かお姉さんが…いるんだよね?」

 セイガがゆっくりと頷く。

「姉は…家族のことを大事に想ってくれていたと思う…父は自らの使命というか仕事に熱心な人で、母はみんなのために尽くしてくれた…俺はみんなのことを…とても尊敬していたよ」

 きちんと思い出せないのが歯痒い…けれどもかけがえのない存在だった、それだけは確かだ。

「そうなんだ…今もご存命……なのかな?」

「それは覚えていない…元気でいて欲しいな」

「そうだね…私もね、ワールド(こっち)に来てからの方が素直に家族に感謝しているというか、存在を大切にしていたって実感できるんだよね」

 セイガも、ユメカもひとりで再誕したので…このワールドに家族は居ない。

 しかし、だからこそ家族の絆をより強く感じているのだと…セイガは思った。

「直接は伝えられないかもだけれど…本当に感謝している…今の自分があるのは出逢ってきた人々…特に家族のお陰だ」

 そして、横を見る。

 そこにはユメカが、優しい瞳でこちらを見ていた。

(そうだ、俺が恐怖に打ち勝とうとしたのは……)

 心が解けている、こんな簡単なことでまた笑顔になれる…単純だけれど、とても大切なものをセイガは思い出した。

「…ありがとう」

「うふふ…それは家族に言う言葉でしょ♪」

「ああ、そうだな…だけど今は居ないから、ユメカに言うよ…本当に、居てくれてありがとう」

 それがセイガの精一杯の言葉。

「ふふ…それじゃあ私も…ありがとう…私は今ここにいるけれど…ちゃんと、生きているから…心配しないでね」

 お互いに、届かないかもしれない言葉を相手の向こうに見通しながら…

 ふたりは家族に感謝したのだった。


 それからも、ふたりは他愛のない話をした。

 アルランカでの出来事、ユメカの作曲のこと、それぞれ知らない事情をピースを埋めるように話して伝えた。

「私の想像より、めーちゃんが馴染んでくれてて…安心したな」

 ユメカは友達のように、と思っていつつも…つい姉目線でメイを案じてしまう…

「メイは…俺が最初に思っていた以上に強い子だ」

 だから

「どうして…セイガはめーちゃんを助けようと決めたの?」

 改めてセイガに聞いた。

 セイガには少しだけ、迷うような間があった。

「はじめて…メイをみつけて、目が合った時に感じたんだ」

 空中で彼女を助けようと抱えた時だ…

「この子を見捨ててはいけない…と」

 空を見上げる、夕雲色に染められた…綺麗で儚い景色。

「とても純粋で、とても脆くて…これ以上傷つけたら消えてしまいそうな……メイの姿はそんな風に見えた、だから俺は初めて出逢った子だったけれど…心から力になりたい…そう思ったんだ」

 それがセイガの一連の行動原理であり

「とはいえ、今言ったように…メイは俺の予想とは違ってとても心の強い娘だったんだけれどね」

 今もセイガを動かす理由だ。

 それを聞いたユメカは、軽く首を振る。

「きっと…セイガの見立ては正しかったんだよ……人の縁って、不思議だね」

「…ああ」

「あ、セイガは正義が嫌いだから正しいってのも嫌かな? あはは」

「どうだろう?…別にそこまでは気にしていないつもりなのだが…」

 キョトンとした顔のセイガを見ながらユメカは意地悪そうな笑みを(こぼ)す。

「…どうした?」

「ふふふ…ううん、なんでもないよ?」

 実は、セイガを励まして欲しいと、ユメカはサラに頼まれていた。

 この場所を教わったのは別の時だったが、ちょうどいいと思っていたし、ユメカ自身、ここ数日のセイガの様子は気掛かりだった。

「それより、大佐に勝つ手段はもう考えたの?」

 でも、ついさっきまで頼まれていたことを意識していなかったし、多分…セイガなら大丈夫だと心の何処かで思っていた。

 それよりも先程の会話から気になることがあったので、つい微笑んでしまったのだが、ちゃんと方向修正をしておく。

「目標、なんでしょ?」

 セイガの瞳をじっくりと見上げる、そこにはもう、躊躇いは無かった。

「ようやく…一歩だけ前に進めそうなんだ」

「そっか」

「今の俺には、まだまだかも知れないけれど、それでも試したい…せめて明日にはどうにか形にできるといいのだが」

 大丈夫…セイガなら、きっと上手く行く

「うん…がんばってね♪」

「ありがとう…頑張るよ」

 日が沈み、辺りが急速に暗くなりつつある中…

 そう、ユメカは確信していた。

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