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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第54話

 体が熱い、これは自分の体が急激に熱を生み出している感覚…

 突如目の前に黒い手と白く鋭い爪が襲い掛かり、ブラックアウト。

「!!!」

 セイガは目が覚める。

 朝の日差しは温かく眩しい…けれどもセイガはカーっと火照り、体中から汗が吹き出ていた。

「…嫌な、夢だった」

 起きた途端、内容はほぼ忘れてしまったが、おそらくとても怖い夢だった。

 間違いなく、昨日の訓練の影響だ。

 昨日は家に帰ってから、どうにか晩ご飯を食べ、風呂に入って、読書やゲームとかはせずに早めに休んでいた。

 元々一度寝たら朝まで起きることは少ない体質なのだが、やはり心身ともに無理をしていたのだろう、泥のように深い眠りだった。

「…用意を、しなきゃな」

 敢えて声を出して、セイガはベッドから降りる。

 今日も午前中から地下基地で大佐と訓練だ、セイガのためにスケジュールを開けてくれたので、あと6日…大佐が直々に戦闘訓練をしてくれる。

 折角のチャンス、なのだから頑張らないと…なのに、セイガの心は昨日までのように喜ぶことは出来なかった。


「うわぁ~…空の上ってこんなに青かったんだぁ…ふふふ」

 ベッドの上で、もぞもぞと体を動かしながら、ユメカはまだ夢の中だ。

 とんとん

 ドアからノックの音がする、ユメカはその音に導かれるように体を起こす。

「ふぁぁぁあい」

 まだ、覚醒していない。

 髪を両側で三つ編みにして、薄紫色のパジャマ姿、最近暑くなってきたので数日前に新調したものだ。

 窓から差し込む朝日がそんな可愛らしいユメカを照らす。

「ゆーちゃん、起きた?」

 ドアが少しだけ開いて、メイが覗き込む、こちらもまだ黄色いパジャマ姿だ。

 ちょっと屈んでいるので結われた長い黒髪が床につきそうになっている。

「ん…今おきた♪」

 ユメカは胸の横で両手を曲げ、大きく体を伸ばした。

 今日は朝からとある人物との打ち合わせの用事があったので、念のためメイにも起こしてくれるよう頼んだのだ。

「ふわ~ぁ、それは良かったです、ボクはもうひとねむりするね」

 メイは、起きようと思えば早く起きれるが、基本的にはギリギリまでベッドにいたい派で、寝てていいなら午前中まるまるのんびりしたいタイプだった。

「うふふ、めーちゃん、ありがとね♪ あ、あともういっこ頼んでいいかなぁ」

 ユメカがベッドから降りる、白い靴下ごしにひんやりとした床の感触が伝わる。

 ふらふらとタンスへと向かい、ごそごそと何かを取り出す。

「なに?」

「えっとね、おつかいに行って欲しいんだよね♪ふふ~」

 ふにゃりと微笑みながら机に置いていた紙をメイに手渡す。

「おつかい?」

「そう、良かったらユウノさんも一緒に港町の方へ、どうかな?」

 まだ怪訝そうなメイの両肩にユメカがそっともたれる。

「お・ね・が・い☆」

 耳元でそっと囁く、メイはくすぐったかったのかふるふると震えた。

「うわ、わかったよぅ…でも、もうひとねむりしてからでもいい?」

 寝る子は育つ、まだそんな言葉が似あうメイだった。



 港町ファルネーゼは今日も賑やかだ。

 早朝からの市場も終わり、人々はお昼に向けて忙しく動いている。

 メイとユウノは手を繋ぎながら通りを進む、ふたりのいた里に比べるとここは人が多いのでちょっとだけ不安なのだろう。

 町の外れまではメイが青い軍用車を運転していたのだが、人通りも荷馬車や車も多くなってきたので運転にそこまで自信のないメイは歩きを選択したのだ。

(一応助手席に経験者がいないときは運転を控えろって言われてるしね)

 メイはハリュウに釘を指されていたのを思い出す。

 ふたりのお使い、その目的地はメインの通りから少し外れた、坂の上にある小さな民家のようなお店だ。

 ちっちゃな木製の看板が飾っており、「楽多堂」と書かれている。

 しかし、ドアは閉められていて、呼び鈴らしきものもない。

「…あれ?どうしようユウノ姉?」

「お店…お休みなのかしら?」

 ふたりして顔を合わせる、静かで人のいる気配もしない。

「ごめんくださーーい!」

 メイが大きな声で呼びかける、しかし声は返ってこない。

「ごめんくださーーーーい!」

「ニャ!?」

 再び大声を上げるメイ、それに驚いたような猫の鳴き声が続いた。

「あら?」

「あ、にゃんこだ♪」

 建物の影に、もふもふとした灰毛の猫がちょこんと立っている。

 興味に駆られて、メイがそっと近付く、人に馴れているのか警戒しつつも猫は動かない。

「あぅ、ダメだよ、そこはお店の敷地内でしょ」    

 ユウノが止めるが、メイは構わず猫へと忍び寄る。

 途端、猫は背中を向けると角へと逃げた。

「あ」

 ついメイも追って角へと曲がる。

「メイ!?」 

 それを止めようとユウノもついていく。

 その先は庭になっていて、縁側から建物の中も見える。

『…あ』

 ふたりはそこにいた、作務衣に袢纏を着こんだ男と目が合う。

 男はいきなり現れた姉妹に驚きはしたが、顔には出さないまま

「おう、いらっしゃいませ」

 そう挨拶をした。

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