第48話
ふたりがそんな泥臭い誓いを立てているとは知る由もないユメカ達は、学園の近く、ユメカの家へと帰っていた。
てきぱきと部屋を片付け、長旅の荷物を置き、ユメカがぱぱっと作った料理でささやかな夕食をすます3人。
「アルランカに行ってからはずっと外食だったから…ゆーちゃんのごはん…すごくおいしいよ♪」
メイは、まだ硬さは残っていたが安らかな笑顔だ。
「うはは♪ でっしょ?…この備蓄だけでお料理しちゃう私…とか調子に乗り過ぎちゃったかな、てへ」
「…凄いと思いますよ?、ユメカさん偉いです」
そんな言葉とは裏腹で、ユウノの方はまだ落ち込んでいるようだった。
元々そんなに心の強い娘では無いのだろう、大レース会場で結構色々な話をしていたので、ユメカには何となく理解できた。
「さぁて、もう今夜はお風呂に入って早めに寝よ♪ まずはユウノさんから入っちゃう?」
「いえいえ…私からなんて申し訳ないです」
両手を横に振りながらユウノ
「ユウノ姉、ゆーちゃんには遠慮は効かないよ?」
「そうそう、めーちゃんも最初は遠慮ばっかりだったもんね」
ほんのわずかな間だったけれど…やはりここで過ごした日々は楽しかったのだ。
「でもお疲れのユメカさんを待たせるのは…」
「だったらボクと一緒に入ろっ?それだったらイイでしょ?」
「…ふぇ?」
一瞬でユウノの頬は赤く染まるが、それでも嬉しかったのかもしれない。
「そうね、一緒に入ろうか」
顔を見合わせてから、ふたりは仲良くお風呂場へと向かった。
「~~~♪」
歌声が部屋に満ちている。
「ゆーちゃん、おふろあいたよ~…あれ?」
お風呂上がりのメイと、密やかに歌っていたユメカの瞳が合う…
「…あはは、変なトコ見られちゃったね」
流石にちょっと恥ずかしかったのか、ユメカは手でぱたぱたと顔を扇ぎながら視線を逸らせた。
「ううん…今の……ちょっとだけ聞こえたけど…いい曲だったね」
メイの後ろのユウノもうんうんと頷いている、ちなみにお風呂上がりだからかユウノの右目は髪で隠されずにいた。
「うふふ、ありがと☆ これは私の大好きなレイミアさんの作品で『鎮魂と再生の歌』って曲なの、心落ち着けたい時とかつい歌っちゃうんだよね」
ぽりぽりと顎を掻きながらユメカが説明する。
大好きな推しの話なので、つい口調は速くなってしまう。
「ときどきゆーちゃんの部屋から聴こえてくるのもそう?」
小首を傾げながらメイ、ユウノはよく分からないけど、とりあえずメイの肩に両手を置きながら話を聞く。
「そうそう!レイミアさんっていうのはとある枝世界の歌姫でね、歌も踊りも容姿も性格もトークも最高の凄い人なんだよ、超美人だけど可愛い所もあって、しかも歌の天才で行動力もあって…一言で言うと最高なの!」
「へ~…」
ちょっとメイが引いている。
「まあ、ゆーちゃんも歌が上手いもんね、憧れるのは分かるかも」
「ありがとう♪嬉しい」
その時、ユウノがメイの体を軽く前に出した。
「あの……メイも、とても歌が上手なのですよ?」
「ユウノ姉!?」
「そうなのっ?」
一緒に生活している間、ユメカはついついあちこちで歌っているのだが、メイが何かを歌っている場面を見たことは無かった。
「歌は…嫌いではない……デス」
「ううん、メイの歌は本当に綺麗で可愛くて明るくて素晴らしいのです」
「おねえちゃん!?」
恥ずかしいのかメイがもじもじと身を竦める。
一方のユウノは、よほどメイを誇りに思っているのだろう、今まで見たことのないような笑顔でメイを包んでいた。
「もう…ユウノ姉ったら……ホメ過ぎだよ」
「そんなコト無いと思う、めーちゃんの声、私も好きだもん、きっと歌ったらもっといいんだろうなぁって感じてたよ ふふ♪」
「もしよかったら…メイに先程の歌を教えてあげてくださいませんか?」
「いいの?」
喜ぶ姉ふたりに
「ボクも…歌ってみたい…かも」
メイもそう応えた。
「それじゃあ歌ってみよ☆まずはこう…~~~♪」
ユメカはソファから立ち上がり、最初から歌い出す。
「~~~♪」
それに続いてメイが歌う、その声はユメカとは違うけれど…とても愛らしく沁み入る歌声だった。
「わぁ♪ 凄くイイよ…次はこうっ」
途中からユウノも参加して…3人は『鎮魂と再生の歌』を歌った。
それはとても温かく…切ないけれど悲しさの先に希望があるような…そんなこの曲の意味と歌の力を感じさせる一夜だった。




