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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第47話

   第3章



 セイガ達がアルランカから帰って来たのは大レースの3日後のことだった。

 当初はすぐに帰還する予定だったのだが、アルランカの王族にとある用件と滞在を請われたのだ。

 その滞在中も、セイガがおそわれたり、思わぬ人物に会ったりと様々な出来事があったのだが、それはさておき…

 ベルクとは結局なにも話せなかった。

 元々完敗だったのだが、ベルクは表彰式だけ顔を出すと、その後は風のように消えてしまったからである。

 メイとは顔すら合わせなかった。

 そんなメイは大レース後、ずっと元気がなかった。

 話し掛けると無理して笑うが、それが限界で…メイも、見ている方も辛かった。

 ユウノも暗く塞ぎこんでしまった。

 そんなふたりは改めてユメカが預かることとなり、ようやく一行が帰って来たのは日が暮れる頃だった。

 全員を乗せたハリュウのウイングは、学園の駐機場へと着陸する。

「なんだか…すごく時間が経った気がするなぁ……」

 セイガが遠くの建屋を見渡しながら呟く。

「ふふ…そうだね……セイガ達は特に色々…あったもんね」

 ユメカが優しく傍らのメイの体をさする、因みに上野下野は仕事の関係で大レースの次の日には帰っていて、キナさんとノエくんも気遣いながらも後日ふたり仲良く去って行った。 

「大変だったとは思うけれど…これで終わりではないのだから…あまり気落ちしないでね…今日はゆっくり休みましょう♪」

 レイチェルはセイガ達、特にメイを気にしてか、本来なら講義などもあったのだろうに…ずっと傍にいてくれた。

「うふ、それが一番だね♪ めーちゃんたちの部屋もどうにかしないとだもん」

「…うん」

「ありがとう…ございます」

 …

「セイガ君、明日なのだけれど…特別な講義をする予定だから…必ず来てね」

 レイチェルが静かだが、しっかりとした口調でセイガを誘う。

「?…はい、大丈夫ですよ」

 セイガはよほどの用がない限りはレイチェルの講義は出席するのでわざわざ彼女がそう言うのは不思議ではあったが、きっと「特別」というくらいだから何らかの意味があるのだろうと思った。

「それじゃあ…また、ね♪」

 ユメカが右手でメイ、左手でユウノを掴みながら家路へ赴く。

 多分、ユメカならふたりを支えてくれるのでは?…そう考えるとセイガの気分も少しは晴れていくようだった。

「私もここで失礼するわ…明日の準備もありますからね」

 レイチェルが学園の方へと、軽く手を振ってから…去る。

 おそらく今夜は学園で夜を過ごすのだろう。

「オレは…どうすっかな?」

 ここにはふたり、セイガとハリュウだけが残った。

「デズモスに報告に行かなくて大丈夫なのか?」

「あ~~、まあ、それもそうなんだが…ホラ、今まで一週間近くみんな一緒だったからさ…少しは寂しいだろ、お前」

 ハリュウがなすり付けるように弁明する。

「あはは…そうだな……残念な経験もかなりあったけれど、少なくとも俺はみんなに救ってもらった気がするよ…ありがとうな」

 素直な気持ちだった。

「よせよ、男相手に気持ち悪いぞお前」

 そんな風に言いつつ、なんだか嬉しそうに見える。

「……やりなおし、だ」

 ハリュウが地面を睨みながら呟く。

「やり直し?」

「そうだ、悔しいけれどオレ達の力はベルクには全然届かなかった…でもここで諦めるなんて到底できないだろ? だから最初から考えてやるんだ」

 ハリュウも…いつもは飄々としていたが…心の奥では悔やんでいたのだ。

「俺も…もっと強くなる、大佐やハリュウ…お前と一緒に訓練して必ず…ベルクとちゃんと戦えるくらい強くなる!」

 ハリュウはそんな言葉に感心しながらも意地悪なことを言った。

「大佐に頼むっていう選択は無いのか?」

 確かに、大佐とデズモスの力を借りれば…問題は解決するだろう。

「本当ならそうだな…メイやユウノの不安をいち早く取り除くのならそれが一番だと思うよ…だけど、我儘だろうけど…俺は、俺の手でメイとユウノを救いたい…それではダメかな?」

 泣きそうな、笑顔だった。

「いいんじゃないの? メイだっておそらくそれを望んでいるんだろうぜ」

「…そうかな?」

「賭けてもいいぜ♪」

「それじゃあ…改めて、やりなおそう…どうか、宜しくな」

 セイガが手を伸ばす、ハリュウはそれを躊躇いなく握り返す。

「オレ様に任せておけよ、絶対ベルクの奴泣かしちゃる!」

『おーーっ!』

 強く、握った手を離さないまま…一番星にふたりは誓う。

 それがどんなに過酷でも、成し遂げられるよう、強く……

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