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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第46話

『さあ!遂にこの大レースも最終盤…第1位の紋章を持つゴット選手の姿がこのゴール地点に見えてきました!』

 神を讃えようと会場の声援が大きく響く。

『セイガ達は間に合わんかったようじゃの』

『悠々とした、それでいて速い荘厳な姿、これこそまさに神!これを止められる勇者は果たしているのでしょうか!』

 ジャンキー細田の声にも熱が込められる、狼の顔なので表情は読めないが、それ以上に情感のある実況だ。

『制限時間もかなり少なくなってはおるが…ここにいる参加者では足止めにもならんじゃろうな』

 逆にアルランカ三世の方はやや退屈気だった、ジャンキー細田もこの状況は分かってはいたが、寧ろ会場を盛り上げるために敢えて煽っている風だった。

『しかし最後まで何が起こるか分からないのがこの大レース!さあ、皆様も期待してください!』

「…セイガ…お願い!」

 目を瞑って、両手を組みながらユメカが祈る。

 レイチェルも、上野下野も、ノエくんもユウノも想いは一緒だ。

『誰か……』

 その時、ベルクがその足を止めた。

 正門まで直線距離で200m程…参加者はその気迫に呑まれ、門は開いていた。

 だがひとりの男が神の前に立ち塞がった。

「神様よぉ…ここは俺っちが通さないぜ!」

 東睦太郎だった。

「え?…あの人って…めーちゃんのコトをからかった人…だよね」

 ユメカはメイから何度もメーっセージを貰っていたので、アルランカ滞在中のセイガ達の様子もある程度は知っていた。

「俺っちにも意地があるんでなぁ…スターブレイカー一行が追いつくまでここから先には絶対行かせねっぇ!(噛んだ)」

「おう、イけー! 捨て駒太郎!」

 面白そうにベレスが叫ぶ、既にゴールしているので気楽なものだった。

『太郎!太郎!!』

 会場では太郎コールが巻き起こる。

「ガンバレー!捨て駒太郎!!」

 ユメカも一縷の望みを託して応援するが

「だから何で捨て駒太郎なんだよ!?」

 太郎自身は折角カッコつけたのに台無しな気分だった。

【時間稼ぎですか 無駄です】

 ベルクが再びゆっくりと歩き始める、それはとんでもなく大きなオーラ…殺意がなくとも人には耐えられない程の威圧だった。

「…お」

 よく見ると太郎の足もガクガクと震えている、しかし歯を食いしばりながら太郎も前に出る、一歩、二歩…

「おおおおおお、力こそパワーーー!!」

 右拳に全ての力を集中させ、輝く…

 そして

 あっさりと宙を舞う太郎、一応拳は当てようとしてのだがそれはベルクの光にあっさりと負け、ベルクのパンチによって城壁まで飛ばされたのだった。

『あ~~~』

 こうなることは何となく予想がついていたので会場はまだ静か…

『東睦選手の健闘も空しくゴット選手…これでもう誰も彼を止められない!』

 ベルクもそれが分かっていたので、軽い足取りのまま片手を上げ晴れやかにゴールへと向かう。  

 拍手が起きる会場…それはスローモーションのような光景で…

 誰も気付かなかった…ベルクでさえもだ。

 遥か上空から、晴天を引き裂く霹靂(へきれき)が鳴り響いた。

 それはベルクに落とされ、流石のベルクもその衝撃で弾かれ、大地に転がった。

『何と!ゴット選手にとっては本日二度目の雷撃! そしてあのゴット選手が倒れたのは初めてではないでしょうか!』

 ベルクが右手で顔を隠し、立ち上がりながら上空を睨む。

 そこには青い鱗を持つ流麗な龍、龍亜の姿があった。

「このままではつまんないから…わたちが相手をちてあげるわ!」

 するすると泳ぐように龍亜は降り立ち、門の目の前でベルクと対峙する。

 強力な相手の登場に会場が沸き立つ。

【どきなさい】

 突風が龍亜を襲う。

「どかないわ…封神乱流!」

 龍亜も強力な風を起こす。

『これは風同士の強烈な戦いだ!城壁の防御機構がありますが、この会場まで強風が流れ込んでおります!』

 会場にも立てば流されてしまいそうな程の風が吹き荒れた。

「きゃあ」

 ユメカも慌てて白いスカートを押さえる。

『しかしこれは性質の違う風のようじゃな』

『ほう、そう言いますと?』

『ゴットの方は風自体に殺傷力がある攻撃の風じゃ…しかし龍亜の方はどうやら封印のような…人を寄せ付けない防御の風じゃな』

 確かによく見るとベルクの直線的な突風とは違い、龍亜の風は龍亜と背後の正門を取り囲みベルクを寄せ付けなくさせるものだった。

【どうしてそこまでするのですか、己が命を削ってまで】

 ベルクが進めない、ということは…とんでもないことだった。

 それを可能としたのは、龍亜が必死でこの技を使っているという結果だ。

「龍の眷属のほこりにかけて…想いにはこたえるの!」

 さらに風の圧力が強くなる、ベルクは突風を止めて、今度は両手から例の光を放つ…それは少しずつだが龍亜の結界を壊し、ベルクの足取りを助けた。

『ゆっくりだが、ゴット選手、進んでいるぞ!』

 会場も息を呑む、お互いの力比べ、じりじりとした空気の中、ベルクは進む。

「くそぅ…あれだけの力を持つ龍でも止められねえのかよ…」

 もう立つこともできない、城壁の下でだらんと足を伸ばしながら、太郎は体を壁に預けその勝負を見守っていた。

「俺っちが…も少しうまくやれてれば…って?」

 その時、風の流れが変わった。

 龍亜の体が金色に光ると、風が大きくなり、ベルクを後方へと押し返したのだ。

 しかし、それが最後の力だったのか、龍亜は人間の姿、幼い少女へと戻ってしまっていた。

【これで終わりですね】

 立つのもやっとの龍亜が、儚く笑った。

「そうね…わたちのやくめは果たちたわ♪」

「ベルク!!」

 ベルクの後方から叫ぶ声、それは一瞬でベルクを抜き去ると龍亜の傍らに立つ。

「これが…最後の勝負だ!」

「セイガっ!」

 ユメカが歓声をあげる、それが聞こえたかのようにセイガは微笑みながら、手にした剣、アンファングを構える。

 ベルクを照らすようにアンファングがさらに大きく輝く。

【人の子よ まさか間に合うとは思いませんでした】

「みんなのお陰だ…俺達を想ってくれる人達の力がここまで届いたんだ」

 会場中が拍手と大歓声を起こしていた。

「ねえ?だいじょうぶ?」

 見ると太郎の近くにメイがいた、ひとりだ。

「ああ…おせえじゃねぇかよ」

「えへへ…ゴメンなさい、話は大体パルタさんから聞いたよ…ありがとう、捨て駒太郎さん♪」

 ベレスの通信機をパルタが使って、今までのゴール前の状況を逐一セイガ達に伝えてくれていたのだ。

「おい、お前さんまで捨て駒太郎っていうなよな」

「え?捨て駒太郎っていい意味じゃなかったの?」

 意味も分からないまま使っていたメイだった。

「まあいっか、それじゃあ…いくよ!」

 キナさんを先頭に、四方に散ったメイ、ハリュウ、マキさんがそれぞれ斉唱を始める、それは一瞬で形を成し、セイガとベルクを囲んだ四角形の結界が完成した。

『神域結界!』

『うわぁぁ…凄い力が持ってかれるよぅ』

 メイは教わってはいたが、実際この技を使うのは初めてである。

 術中は敵の力を相当奪うが、それに応じて術者の魔力もかなり消耗する技なのだ。

『短時間でいいから…とにかく全部くれてやるつもりで踏ん張れよ!』

 念話でハリュウが檄を飛ばす。

『頼んだよ…セイガさん!』

『ああ!』

 4人の念話はセイガにも、ベルクにも聞こえていた。

 ベルクの力を抑え、セイガの力を高める、それが今回の結界の効果だ。

『聖河・ラムル…参る!』

 万感の想いを込めて、セイガが突き進む。

【この程度で***の力を封じられると思わないことです】

 ベルクが拳に力を込める。

 セイガは大きくアンファングを振りかぶり

魔  性  天  切(ましょうてんぎり)  !!』

 強力な力を内包したアンファングが眩く光りながら打ち下ろされる。

(リヒト)!!】

 ベルクの拳から強烈なアッパーが繰り出される。

 ふたつの絶対的な光がぶつかり合う、今回は無力化されない!

『やった!?』

 力の均衡…その一瞬は永遠のようにセイガには思えた。

 だが、勝敗は…

【終わりです】

「あああああぁ!」

 ベルクの拳がさらなる光を放ち、セイガ諸共全てを空へと還した。

 同時にキナさん達の神域結界も破壊され、その反動でメイ達4人も大きく吹き飛ばされた。

 ほんの少しの沈黙、それから

【神こそ勝者である】

 その神の声が大レース全ての関係者の耳に響き、右手を大きく掲げたベルクが燦然と正門をくぐった。


『ゴーーール! 第349回、大レースの優勝者はゴット選手!圧倒的な力と雄姿で勝利を手にしました! これはまさに神!神の凱旋です!!』

 割れんばかりの歓声の中、栄冠を手にしたベルク。

 一方、セイガ達にとっては信じたくない結末…もしかしたら…そんな期待も全て神の前に消え去ってしまう。

 そうして、アルランカ大レースは終了したのだった。

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