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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第45話

 それは、絶望的な時間だった。

「はぁ…はぁ……」

 セイガの息が荒い。

 この数分間、セイガも、ハリュウも、メイも、マキさんも、キナさんも……一生懸命戦っていた。

 しかしその攻撃は全てあの光の前では無力…そして

突風(ヴィントシュトース)

 再び烈風が一同を襲う、触れるだけでダメージを与えるそれは確実にセイガ達の体力を削っていった。

「くそっ…ここまでやるのかよ」

 どうにか風を防ぎ、近付いたハリュウの槍から大気滅殺拳、黄色い皇波が放たれるがそれもベルクは打ち消す。

「……うう」

 メイは廃墟の陰に身を隠しながら座り込む、どうにか力を蓄えるために…

【人の子らよ、攻撃はもう終わりですか】

 ベルクは両腕を組みながら雄々しく立つ。

 その筋骨隆々な肉体と白いキトンには傷ひとつない、先程セイガが浴びせた顎での出血もまるで無かったかのように修復されていた。

「終わりは…しない! 俺達は最後まで諦めたりしないぞ!」

 セイガの言葉は自分自身を奮い立たせるため、それからみんなを鼓舞するため…

 再び狼牙を構え、ベルクを見据える。

 怖くはない、しかしこのままでは勝てない…それも何処かで理解していた。

【それも面白いですけれど、時間がもう、あまりありませんね】

 太陽を見上げるベルク、日は西に傾きつつある。

 制限時間はあと1時間を切るかという位だろう。

「通しはしないぞっ ヴァニシング・ストライク!」

 一気にベルクを狙う、しかし

雪崩(ラヴィーネ)

 セイガの前方には高さ5m、幅は20m程の雪が波のように現れ、一気に迫り来る、危険を感じて瞬時に上へと逃げるセイガ、その間にベルクは雪崩と共にアルランカの方へと駆け出した。

 雪の波が障害物を全て飲み込み、その上をベルクが悠然と駆け進む。

 その苛烈な行軍によって、遂にベルクを逃してしまうのだった。


『ゴット選手、凄まじい走りを見せております!このペースだとゴールまで充分に間に合いそうだ! 一方のセイガ選手たちは街道を青い軍用車で追いかけるがこのままだと果たして追いつけるのか微妙なスピードですね』

『うむ、最短距離を進み森など障害物をものともしないゴットに対して街道を迂回する形で進むセイガ達では差が出るのも当然じゃな』 

 アルランカ三世が言う通り、セイガ達は現在、ベルクからは離れ、ハリュウが運転する青い軍用車(三台目)で街道を爆走していた。

 4人の顔色は全て暗い…

「どうしよう…もう‥…ダメ、なのかな?」

 メイがその重い口を開く、ハリュウは険しい表情のままハンドルを細かく動かす。

「時間切れを狙うって手もあるけれど…メイちゃん達が倒すっていうのはそういう意味ではないんでしょ?」

 キナさんも体力温存のため、乗車させて貰っていた。そんな中、セイガはずっと目を閉じて思案している…

「勝つ可能性…一瞬でも戦闘不能に出来れば紋章は移動する筈なんだ」

 自分の時もそうだったから、セイガにはその感覚が分かる。

「完全に超えることは出来ないかもしれない…でも、その一瞬だけでもベルクを上回れれば…」

「どうそれを成し遂げるって言うんだよ」

 ハリュウが冷たく言い放つ、あれだけ考えて、全力で挑んで全く歯が立たなかったのだ、諦めてはいないがその苛立ちは相当なものだった。

「それは今考える、必ず方法はある、俺はそう信じている」

 深く集中しながら、自分の『真価』に問い掛ける。

 今の自分でも扱えて、ベルクを倒せるほど強力な技…

「あと、うちの考えなんだけどさ、セイガさんに攻撃を任すとなれば残りのみんなはサポートというかベルクの力を削ぐ方に回った方がいいと思うんだよね、多分波状攻撃よりもそちらの方がセイガさんの技が生きる筈」

『成程、それは妙案ですな…御業で言うなら「神域結界」あたりでしょうか』

 マキさんが呼応する、神域結界という技は複数人の術者で囲んだ空間に結界を作り、その中にいる敵の力だけを封じるもので、かつてヤミホムラとの決戦の時にも使用したのだった。

「そうそう♪今ならうちとメイちゃん、マキさんの3人で」

「ああ、それならオレも力を貸せるぜ」

 ハリュウだった、神域結界の詠唱はひとりでも可能で、残りは力を貸すだけでも大丈夫なのだ。

「うん、それは助かる…けれど今回は折角御業が使えるメンバーだから斉唱した方が効果が上がるんだよね」

「それも問題ないさ、前に一度見ているからオレも詠唱は出来る」

 ヤミホムラとの戦い、ハリュウはデズモスの一員として離れた場所からセイガ達の姿を見ていた…とはいえ、一度見ただけで使えるのは普通ではない。

 特に半年以上御業の修行をしているメイにとっては信じがたい言葉だった。

「ほんとにぃ?いくらハリュウが器用だからって御業はそんな簡単なものじゃあ無いんだからね」

 するとハリュウが返事をする代わりに詠唱を始める。

「……神域結界の詠唱…ホントに一度見ただけなのかい?だとするとこりゃ相当な才能だね」 

 キナさんが褒めるくらい、それは文句のない詠唱だった。

「むぅ…なんかハリュウって何でも卒なくできて…なんかムカつくぅ!」

『メイ殿も、ハリュウ殿も素晴らしいと某は思いますぞ』

「あはは」

 少しだけ、場の空気が和んでいた。

 風を切り、青い軍用車は走り続ける。

「…うん、やはりこの技…だな」

「セイガさんっ…何かいい技を思いついたの?」

「ああ、俺にはまだ使いこなせないかもしれないけれど…この技ならベルクにも届くかもしれない…いや、ベルクを倒す」

 強く言い切る、成功を信じる瞳だった。

「そっか、それじゃあ教えてくれよ…作戦を詰めていこうぜ」

 微かな…ほんの微かな希望だった、でもそれは一同の心を照らす光になる。

「絶対上手く行くよ♪」

「そうだよね、ただ…誰かうちらが辿り着くまでにベルクを足止めをしてくれるといいんだけど…」

『……あ』

 そう、このままでは間に合わないのだ。


「アルザスさん、本当はゴット選手とも戦ってみたかったのではないですか?」

 ゴール地点、ひとり静かに佇むアルザスに話し掛けてきたのはまだあどけなさを残す少年、グラシオンのパイロット、クレストだった。

「…そうだな」

 その手にはまだ大剣が握られたまま、彼方を眺める。

「だが、自分はお前のような優れた騎士と戦えたこと、満足している」

「僕もです、まさか生身の人間に負けるとは思いませんでしたけれど…とても楽しかった…こんな戦闘は初めてでした」

 やや虚ろな瞳のクレスト、彼にとっての戦闘は戦争であり、既に数多くの人間を殺してきた…忌むべき行為…兵士として、大切な仲間を守る騎士としての心構えが無ければとっくにおかしくなっていただろう。

「…そうだな」

 あの状況なら、紋章を奪わずにグラシオンだけ止めることも可能だった。

 しかしそれをしなかったのは全力で戦ったクレストへの敬意であり、自分の戦いはこれで終わったという決意からだった。

 メイの件は確かに気掛かりではあったが、これがアルザスなりの精一杯の配慮だった…今回の標的をグラシオンにしたというのも含めて……

 彼方の空が揺らぐ、赤さを見せ始めた太陽の下、遂にベルクの気配を感じる距離まで来てしまった。

 ゴール傍の参加者たち…最早これが最後ではあるのだが…あまりのベルクの神々しさに、戦う前から圧倒されている様子だった。

 もう結構な数が戦線離脱している。

 このまま…大レースは終わってしまうのだろうか……

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