第44話
「ぐげぇぇぇあ!」
正門の近く、森の中から大蛙が絶唱したような音が鳴った。
続いて巨大な車に乗り込んだ禿げ頭の大男、東睦太郎が颯爽と現れる。
「アイツだ!アイツが紋章を奪いやがったぁ!」
太郎を追うようにベレスとパルタのホバージェットも森から出てくる。
『おっとぉ?ゴール前ですがここでどうやら3位の紋章を持つ選手が現れたようだ!!』
ゴール前に控えていた大量の参加者の目が一斉に注がれる。
ゴツゴツとした大きな車が爆走しているが先程のグラシオンやアルザスに比べればまだ怖くない…つまり恰好の的だ。
参加者は我先にと太郎へと押し寄せる。
『うむ…どうもセイガを狙ったのはあのベレスとかいう小鬼のようじゃが紋章を太郎に取られてしまったのじゃな』
「小鬼ちゃうわい、可愛い妖精さんだぞ!」
「あはは」
始まったばかりの神対セイガ達の戦いも気になる所だが、実況としてはこの3位争いを優先したようだ。
ちなみに観客は自分達で額窓を使い、別のフォートレスモノリスの撮影している映像を切り替えて見ることも可能だ。
ユメカの場合は額窓でセイガの状況を見つつ、こうしてメインモニターの方も反応しているのだ。
太郎はアクセルを踏み込む、エンジンが高い音をあげ、車は黒い弾丸のように参加者に突っ込む。
「うらぁぁぁ!」
車は最初こそ参加者を吹き飛ばしたが、その勢いも多くの参加者の体と技に阻まれて、少しずつ衰えをみせる。
同時に参加者の数名が車の中、太郎へと忍び寄る。
「おりゃぁぁぁ!」
太郎は大きく右へハンドルを切り、車は沢山の参加者を振り撒きながら進むが、無理な荷重が祟ったのかそのまま横転した。
「はりゃぁぁぁぁ!」
太郎が車から参加者を投げ飛ばしながら出てくる。
そして再び正門へと向けて必死のランを続けた。
そこに覆いかぶさる参加者たち…
「力こそパワゎぁぁぁぁぁ!!」
禿げた頭が強烈に発光して、『力』の『真価』が発動、藻掻きながらも太郎はまだ進む…しかし参加者はまだまだ多く、その両手両足、体中に巻き付き、圧し掛かりその歩みを阻む…そして
『東睦選手、遂にその動きを封じられたぁ!』
完全に押さえつけられ、倒れる太郎、その上にさらに参加者が殺到して、そこは人の山になってしまった。
「渡さん、渡さんぞぉ!」
この状況では誰が太郎を倒したのか、誰が今紋章を持っているのか分からない。
会場に沈黙が走る…
『ええと……乱戦が続いて紋章の確認が取りにくいこの場合、実況の方で現在誰が紋章を持っているか説明できるのですよね?』
『そうじゃの』
ゴール前ではこの手の乱戦が起きやすいので適時実況が公開していいこととなっている。
会場が固唾を飲む…
『現在3位の紋章は……ベレス選手が持っています!!』
「……は?」
「よくやったぞ~捨て駒太郎~!!」
ベレス達のホバージェットは既にゴール手前、太郎が紋章を奪ったというのは最初から演技だったのだ。
一気にゴールを目指すベレス、だがまだ正門前には少しだが参加者が残っていた。
「…激運!!」
パルタが叫び、ホバーが参加者を躱す。
「まだだぁ!」
大男の参加者がホバーに体当たりを仕掛ける。
「なにくそ!」
『飛んだぁ!…しかし空中からではゴールしたことにはならないぞぉ!?』
あくまで正門をくぐらなければゴールとは認められないのだ。
ほぼ垂直に飛んだベレス達、そこにはまだ敵がいた。
「ほーーほっほっほっ、紋章はあーしが頂きますわぁ♪」
空飛ぶ絨毯に乗ったニムエだ、何とかあの砂漠の混乱から生き残っていたらしい。
掴みかかる、嬉々とした顔
「これでも喰らえや!」
そこにベレスの紫色の毒息が吹きかけられた、堪らず仰け反るニムエ、それを尻目に落下するホバー、下にいた大男の頭にぶつかり、転がった先…そこは
『ゴーー―ル!! 第3位はなんと、なんと大穴、ベレス選手だぁ!』
ホバーは会場へとどうにか辿り着いたのだった。
「へっ…これが俺様の実力…やっちゅーの」
「流石親びん、カッコいいっす♪」
抱きつくふたり、パルタと太郎はベレスと協力関係にあるので、この場合、賞金やポイントの一部が渡されるのである。
『パルタ選手と東睦選手の方はまだ継続して参加することが可能ですがどうしますか?』
ジャンキー細田がふたりに問い掛ける。
「おいらはもうへろへろですんで辞退するっす」
「俺っちはまだまだ行くぜ…まだしたいことがあるからなぁ…というか捨て駒太郎ってなんだそりゃ!」
「わはは、お前にゃお似合いだってな、この俺様の引き立て役、ご苦労さん♪」
「うわぁ…何だかなぁ」
ユメカが項垂れ、会場中に微妙な拍手が流れる中、こうしてベレスの3位が確定したのだった。




