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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第43話

「待てっ!!」

 ベルクがその声に反応して振り返る、そこには

「セイガさんっ♪」

 青い軍用車に乗ったセイガがようやく現れたのだ。

 急ブレーキで車を停め、セイガはゆっくりと降り立つ、視線は当然ベルクを射貫いたままだ。

【人の子よ、何をする気ですか】

 セイガは紋章を持っているので同じ紋章持ちであるベルクとは戦うことが出来ない…具体的に説明すれば相手に攻撃をしようとすると強制的に紋章の力によって止められる仕様なのだ。

 これについてはセイガもベルクも承知している。

 しかしセイガは無言のまま狼牙を構えると囁いた。

「高速剣……『 顎 』」

 そして一気に間合いを詰める、ベルクも咄嗟に反応するが疑問を感じる中で少しだけ油断をしていた。

 そう、光による防御を取らなかったのだ。

 ふたりが交差する瞬間、紋章は…反応しなかった。

 セイガのふたつの斬撃が左右「同時に」ベルクへと浴びせられた。

 一度に両側からの攻撃を可能にする高速剣の技、それがこの『顎』である。

【これは如何なるものでしょうか】

 ベルクの両腕から鮮血が吹き出す。

 セイガは振り向きざま次の攻撃へと移ろうとするが、ベルクの表情を見て、動きを止める…あまりの気迫に攻撃が出来なかったのだ。

『なんということでしょう! セイガ選手の攻撃、高速剣『顎』がゴット選手に見事に決まりました! ルール上、紋章持ち同士は戦闘が出来ない筈なのですが…陛下はどう思います?』

 ジャンキー細田にもどういう訳なのか分からなかった。

『そうじゃのう…これがセイガの作戦…罠だったんじゃないかのう?』

【人の子よ、説明してください】 

 ベルクの神語、口調は静かなものだったが、目の前にいるセイガには分かった。

 彼は…明らかに怒っている。

 セイガは観念したように右手を上げる。

 そこには紋章が無かった。

「ここに来る前に車の中で紋章は奪われたんだ」

【奪われた、そのような時間があったとは思えません】

 ベルクは、セイガの動きも実は見ていた、龍亜との戦闘以降、ずっと車をひとりで運転していた筈だ。

「紋章は譲渡は出来ない、でも不意に取られるか、ギブアップに近い状態なら移行することが出来る…俺は車内で何者かの遠隔毒攻撃を受けたんだよ」


 運転中、セイガは集中しないといけない状態だった。

 しかし突然、セイガの体に異変が起きる、これは…麻痺と激痛を伴う毒、このままでは運転にも支障が出るだけでなく命にも関わる。

 セイガは仕方なく紋章の放棄を選択した。

 だが勿論、それはセイガが最初から仕組んでいた作戦だった。


 ゴールである、アルランカ正門の近くにある森、その一角に彼等はいた。

「へへへぇ、コイツが紋章かぁ…イイじゃねぇかよ」

 緑色のその掌には銅色の紋章が現れていた。

 ベレスである。

「上手くいきましたねぇ親びん、それじゃあセイガさんの毒の方は解除してあげるっすか?」

 子分であるパルタが紋章をしげしげと眺めながら聞いた。

「あほぅ、わざわざ約束を守る義理は無いわい、それより問題はここからだ…どうしたもんかいなぁ」

「うわ、親びんは相変わらず酷いっすねぇ」

 パルタは遠い空のセイガに向けて手を合わせ謝る。

 一方のベレスの視界の先にはゴール前の様子が映る、そこにはアルザスとグラシオンが熱戦を繰り広げていた。

「この隙にこっそりゴールを狙うのも手だが…正直近付くのも怖いわい」

「おいら達なんてプチっと潰されそうっすよね」

「まずはアレが収まってからどうやってゴールするか考えるか…」

 そんな思案をしている二人の背後に人の気配がする。

「ほほう、なんだか面白い話をしてるじゃねぇか」

「……あ」

 その十数分後、森の中で大きな悲鳴が上がることとなった。


『なんとセイガ選手、車内で何者かに紋章を譲渡…もとい強奪されていた!』

『ふふふ…考えたのぅ…これはどうなるか見物、じゃの♪』

 会場とその周辺、つまり正門近くの参加者が色めき立つ、参加者は額窓を通しての実況は見ることが出来ないが、ゴール近くでは直接聞くことが可能なので、遠くの状況も把握できるのである。

 現在3位の紋章は誰かが持っている…その事実が一気に広まったのだ。 

「あはは…毒と言ったらアイツしかいないけどね」

 会場ではひとりだけ、事情を知ったユメカが呆れた表情で笑った。

「…毒の方はなんとか自力で治すことが出来たけれど、残念ながら紋章は取られてしまったんだ」

 セイガが右手を軽く振る、どうにか先制の一撃は与えた…あとはこれからだ。

 後方のセイガ、前方のキナさん、そして左右にメイとハリュウがいる…つまりベルクは四方を囲まれた状態なのだ。

 ここか先は打ち合わせは無い、ただ全力で向かうだけ…

【神を騙したのですね、許しません】

 赤い血が滴る両腕…だらんと下げたまま立ち尽くすベルク…だがその直後、セイガの眼前に現れ光を纏った拳を突き上げた。

「くっ!」

 セイガは咄嗟にそれを受け止めようとするが、それは間違いだった。

 今まで何度も傍で見てはいた、その光…実際に喰らって感じたのは、絶対的な力だった。

 防御も何も通用しない、純粋な力がセイガを無力なまでに飛ばしていった。

 受け身も取れないまま地面へ落ちる。

「今のは…何だ?」

 単純に威力の高さで言えばヤミホムラの攻撃の方が上…しかし何か別の抗いようのない力をセイガは感じていた。

 よろよろと立ち上がると、再びベルクが突進してくる。

「っ…ヴァニシング・ストライク!!」

 躱しつつすり抜けざまに攻撃しようと赤い奔流で立ち向かう。

 しかし

「!?」

 ベルクの光の前に赤い奔流も黒い重力の軌道もかき消されるように無くなり、そのせいでスピードを落としたセイガは再びベルクの鉄拳をまともに喰らい、大地を転げまわった。

「セイガさんっ!」

 メイが光の矢を数発、ベルクへと放つ、それも例の光の前には無力だったがベルクはそれで興を削がれたのか、セイガへの追撃は止める。 

「くそっ…そういえばセイガはまだこのワールドに来て間もないんだったか」

 ハリュウは一度、砲撃用のアーマーを解いて、セイガと戦った時のアーマーに切り替えていた。

 その機動力でまずはセイガに近づく。

「ハリュウ…」

 セイガは何が起きたのか分からない、そんな表情だった。

「時間が無いからよく聞けよ、ベルクのあの光、お前の攻撃は全て防がれるし、お前の防御は全て無力だ」

「な…」

「あの光は全部躱せ、そして攻撃は光る前か後にずらすしかない…お前の『とっておき』なら効果があるだろうが…今は使えない、だろ?」

 それだけ告げるとハリュウは再びベルクを包囲するように離れる。

 『とっておき』というのはあの技のことだろう…セイガも何かに気付き始めてはいたが…あれは今の自分には遠すぎて…使うのは無理だ。

 歯噛みしながらセイガはベルクを睨んだ。

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