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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第42話

 アルザスとグラシオンがまだ戦っている頃、古戦場では

「ベルクがどんどん迫ってくるよぅ…もうあと5km切ってる」

 メイは双眼鏡を見ながら、ベルクを補足している、距離は双眼鏡で測ることができるのだ。

「メイ坊達の攻撃で一番射程が長いのは何だ!?」

 目線はベルクに向けながらうんうんと考えるメイ、

「多分2kmくらいかなぁ?そんなに遠くに使ったコト無いけど」

「まあ上出来か、それでセイガの方は?」

 ハリュウはこの間もエネルギー弾とミサイルによる妨害攻撃を続けていた、それが無ければもっと早くベルクに捕まってしまうだろう。

「…ええと…8kmくらい離れてる…」

「ああ…こりゃもうちょっと足止めしないと間に合わないかもしれないなぁ」

『恐ろしい…やはり神なるものは恐ろしい存在です』

「マキさん…ごめんね…やっぱり神様とは戦いたくないよね」

 マキさんは元々、付喪神…みずからも神とは名がついているがそれはさておき、とある神に仕える神職の持ち物が長年愛用されて意志を持った存在だった。

 身近に神と、その信者がいたせいか神への尊敬は高い。

『気にしないで下さいメイ殿、今の某はメイ殿に尽くす為に存在しております故』

 自分を救ってくれたメイへの、それが精一杯の恩返しだった。

「ありがとね、マキさん♪ それじゃあ…いっしょにいくよ」

『承知』

 メイは双眼鏡をしまい、マキさん、つまり巻物を両手にする。

 そして御業を放つべく、呪文を唱え始める。

「そうだ、とびっきりおっきいのをアイツに喰らわせてやれ!」

「へぇ…面白いね、ふたりは御業を使うんだ」

『キナさん!?』

 いつのまにか、3人の横に背の高い鬼の少女、鬼無里瑠璃が立っていた。

「よっ♪」

 明るい表情で手を上げて挨拶するキナさん。

「どうしてここに!?」

 メイとしては、てっきりゴールの方へと向かっていると思っていたのだ。

「前に、手助けできるような状況にあったらうちも一緒に戦うって言ったろ?だからそれを果たしに来たんだよね♪」

「キナさん…ありがとう」

 その気持ちが、メイにはとても嬉しかった。

「ほらほら、斉唱するから続き、やろ?」

 御業は、複数の術者で詠唱してその威力や効果を高めることが出来る、それを斉唱と呼んでいるのだ。

 3人は静かに斉唱を続ける…そして分かったのはキナさんが相当の術者だということ…その淀みない力の発露はメイを励ましているようだ。

『発動はメイちゃん、お前さんがやりな』

 斉唱中なので、念話でキナさんが話し掛けてきた、御業ならではの行動である。

『ええ?でも一番強いのはキナさんだし』

『ううん…一番アイツに対する気持ちが強いのはメイだよ?』

『そうですな、ここはメイ殿が一番相応しいです』

『みんな…』

ここまできたらやるしかない、メイも覚悟を決めた。

『うん、ボク…思いっきりやってみるよ』

 ちなみに、以上の念話は3人だけの共有なので、となりのハリュウはこの状況を知らない、なので

「おい、そろそろ2km切るんじゃないか?」

 と、やきもきしながらベルクを攻撃し続けるのだった。


 明るかった空に、不意に黒い雲が生まれる。

 それは局所的なものであり、メイ達とベルクの間の天、そこだけが墨を落としたように黒く揺らめいている。

 同時に温かい風と、ゴロゴロと深く響く音が周囲を渦巻く…

 その不穏な変化は会場にも届く。

 丁度アルザスとクレストの戦いが決した後だけに、観客の興味が一気にそちらに向かったのだ。

 ユメカやレイチェル達も同様で

「あれって…めーちゃん達のいる方、だよね?」

「そうね…おそらくハリュウ君達かベルク…どちらかの影響でしょうね」

 そう話しながら空を仰ぐ。

 メイン会場のモニターからは詳しい状況が分からない…ユメカは祈るように手を合わせる。

「どうか…めーちゃん達に幸運を……」 


 ハリュウがスコープでベルクを確認すると、ある異変に気付いた。

 これまではただこちらの攻撃を防いでいただけの両腕だったが、今は片方、右腕を前に突き出している…それはまるで……

「おいおい、ベルクの奴も攻撃するつもりじゃないよな…早くしないと」

「分かってるよ!」

 メイが大声を上げながら右手を高く挙げる。

 既に斉唱は終わっている、あとは放つだけだ。

 メイはようやく肉眼でも見えるようになった彼方の敵、ベルクを見つめる。

 不思議な気分だった、物心ついたときからずっと慕っていた…傍で見守ってくれていた神に…全力で逆らおうとするなんて。

 あの日からずっと怨んではいたけれど、禁域で一度戦いはしたけれど、今は不思議と冷静で…ただ、悲しい。

「ボクは…戦うよ」

 狙いをつけて

「ヒンメル ドナ ブレシェン ロフト …」

 天雷を 落とす


『これはっ!なんという大きな稲光でしょうか!』

 会場のモニターには黒雲から発せられた強大な雷が、狙い違わずベルクへと撃ち付けられる光景が映し出されていた。

 大音量と強烈な光、全てを砕くような攻撃だった。

『どうやら複数人で強力な魔法を使ったようじゃのう…くわばらくわばら』

『流石の神、ゴット選手もこれには反応できず立ち尽くしているぞ!』

 確かに、ベルクは動かない…そもそもあれだけの攻撃をまともに受けたら消し炭になっていてもおかしくないのだが…その形を未だ保っている。

『今の攻撃は御業…「天雷破天」…直接攻撃したのはメイ選手……あのっ、ゴットを倒すと宣言したメイ選手だっ!!』

「スゴイよ! やったね、めーちゃん♪」

 会場では小さな少女への感嘆の声援が溢れた。

「メイ…あんなに…強くなって」

 ユウノにとって、メイの成長は驚くべきことだった、いつも元気で明るいけれど…人と競ったり争うのは苦手な子だった…

 そんな喜びに沸く会場に対して、ベルクのいる場所はとても静かで…

 沈黙が続く中、その声は聞こえた。

【…人の子よ……】

 ベルクの声、神語がメイ達だけでなく、全ての参加者と会場中に届く。

 神語は指定した全ての相手に伝えることが可能なコミュニケーション手段なのだ。

 モノリスを通して、ベルクの姿が映される、彼はほぼ無傷だった。

 そしてその表情は、微かに笑っているようにも見えた。

 ベルクは大きく首を振ると、再び走り始めた。

「これは足止めできただけでもヨシとするしかないか!」

 ハリュウも攻撃を再開する、メイは少しだけ呆けた表情を見せたが、気を取り直すと額窓から弓を取り出す。

「うん、そうだよね……まだまだ、頑張らなくっちゃね!」

『異邦の神に、目にもの見せてやりましょうぞ』

 マキさんの声にも気合が入る、キナさんはメイ達を守るように前衛へと立ち位置を変えた。

「来るよ!」

 ベルクが構えていた右手を突き出す。

突風(ヴィントシュトース)

 それに合わせて、メイ達とベルク、その間の風景が歪む…それは巨大な空気の流れが生み出したものだった。

 轟音を上げ、暴れる風が古戦場に届く。

 悲鳴もかき消されるほどの風力で周囲の建物だったものは次々と崩れる。

 青い軍用車も転がり壁に打ち付けられてしまった。

「……大丈夫…かい?」

「うん、アリガト…キナさん」

 キナさんが防壁を張ってくれたおかげでメイ達3人はどうにか無事ではあったがまだ脅威が去ったわけではない。

「ああ…車の方はもうダメか…こりゃそろそろ散開して戦った方がいいか」

 ハリュウが地面に固定していた台座を一度取り外す、それに呼応してメイとマキさんが左へ、キナさんが前方へと動く。

 ハリュウも右側へ移動しながら砲撃を続ける、精度は落ちている筈なのだが、恐ろしいほどの命中率でベルクを抑えている。

【小賢しいですね 神を相手にする意味を教えてあげましょう】

 ハリュウの攻撃は悉くベルクの発する光によって消されている。

『ゴット選手、再び速度を上げて古戦場へと突入だぁ』

『ゴットは先程の突風のように遠距離攻撃もあるのだろうが、どうやら接近戦が得意のようじゃからのう、このままでは吾奴らもどうなることやら』

 できることなら古戦場に辿り着く前に少しでも多くダメージを与えたかった。

 しかしというか、やはりベルクは圧倒的だったのだ。

 廃墟の中でも目の前の全てを壊しながらベルクは3人を狙う。

 まずは一番近い、鬼の少女を目指す…キナさんも愛用の大斧を構え…  

 その距離がいよいよ近付いた時だった。

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