第39話
『なんとここで速報です! 3位のセイガ選手が何者かに狙撃されました!!』
会場のメインモニターに青い上空で撃ち抜かれ、ゆっくりと宙を舞うセイガの姿が映し出された。
『セイガっ!(さん!)』
悲しみの声が、響く。
「うそっ?セイガさんっ…いやぁ!」
メイも通信機越しに、セイガの貫かれる大音量を聞いた。
「ふ、これで3位はいただきだ」
男が自分の下に来るだろう紋章を確認する…しかし
「な、なにい?」
それは来ない、相手を戦闘不能にすれば紋章が移動する筈なのに…
『…セイガ選手…動いたぁ!!』
会場の実況の声がする、男は慌てて『狙』の力、未来視でターゲットを確認する。
セイガは着地する直前に目を開き、受け身を取っていた。
ダメージはかなり大きいが…なんとかまだ動いている。
「ま、まさか…拙者の一発で死なないとは…失敗したな」
男はすぐさま次弾の準備をする、次こそセイガを殺すために。
「……許さない」
所定のポイントに着いた青い軍用車、メイとハリュウの姿がある。
「セイガさんっ、生きてるの!?返事してっ!!」
メイの悲しい叫びが木霊する。
ハリュウは待機させていたウイングを呼び出す。
「…天衣変身」
『アクセプト』
ウイングからアーマーが射出、それを身に着ける。
「セイガさんっ!!」
『…メイ……』
「セイガさんっ?」
白いアーマー、しかしそのデザインは以前セイガと戦った時のものと若干デザインが異なっている。
体を大地に固定するための脚立のようなパーツと、長い砲台を思わせる装備が槍と足元についている。
『只今情報が出ました!狙撃をしたのはスナイパー・ロー選手、どうやらずっと正門の上で準備して好機を窺っていたようですね』
『名前にスナイパーと付けるとは余程の自信家じゃろうな、だが実力は確か…90km先の人物を狙い撃つなど神業に等しいのぅ、そして紋章を奪ったら即ゴールという算段だったのじゃろう』
会場の目がスナイパー・ローに集まる、彼はその身長程ある大きな設置された銃を構え、急ぎチャージと照準を合わせている。
「セイガさん…大丈夫?どんな感じなの!?」
切迫した状況は変わらない、姿が見えないから余計にセイガの様子が心配だ。
『何とか…意識はあるんだが、体がまだうまく動かせない…っ…あの狙撃が何処から来たのか俺には見えなかったけれど…ちょっと身を隠すのは難しそうだ』
つまり、セイガを守るものは…無い。
「安心しろ、まず狙撃手の方はオレが潰す」
ハリュウの眼は遠く離れたゴール地点、正門の上を確実に捉えている。
「ハリュウ?何をしてるの?」
メイの瞳にはセイガの姿も、遥か先のアルランカの街も当然見えない。
だから…
「よく見てろよ?」
そう呟くハリュウの意図が読めないでいた…
『それにしてもなんて恐ろしい攻撃でしょうか…どうやらセイガ選手はまだ充分に動けそうにありません…これは万事休すかっ』
『しかし、気付かれないままゴールという作戦は失敗してるからその後はどうなるじゃろうな♪』
漁夫の利を狙おうと、ゴール近くで待機していた参加者のうち、何人かはスナイパー・ローに接近していた。
(面倒な事になったな…)
スナイパー・ローはこの場合も計算していたとはいえ、やはり近接戦はあまり好きではないので憂鬱に感じていた。
そもそも、ゴットやグラシオンなら一撃で倒せない可能性はあったが、セイガがまさか戦闘不能になっていないのが癪だったのだ。
(集中せねば…)
雑音を排し、山肌に仰向けになっているセイガを見つめる。
彼の未来視は遠く離れた場所でも見ることが出来、さらに数秒先を感じることも可能だった。
この力と超高速の狙撃銃…これさえあれば自分は最強だ。
心を整え、再び確認をしようとした時、未来視がありえない事実を見せた。
それは…
突如爆音が会場に鳴り響く。
狙い違わず、スナイパー・ローとその銃に強力なエネルギー弾が直撃したのだ。
「ぐはっ!」
スナイパー・ローは一瞬早く退避していたのでまだダメージは少なかったが狙撃銃の方は完全に壊れていた。
『なんと! 今度はスナイパー・ロー選手が狙撃されたぞ!』
『ほほう、これはこれは♪』
『観客の安全のため、会場への攻撃は禁止されていますが、今のエネルギー弾はそれも考慮しているかのような精密さだ!』
(そんな…ば、馬鹿な!?)
スナイパーの特性だろう、一瞬自分を狙い撃つ気配は感じた…しかしこの自分を凌駕する狙撃手など…いる筈がない。
会場から、ハリュウのいる場所はまだ60km程離れていた。
しかし…彼は見事にその一撃を狙って与えていたのだ。
「逃がすかよ…こちらは連射が効くんだ」
ほんの数秒、再びハリュウがエネルギー弾を放つ!
その恐ろしいまでに精密な攻撃は逃げようとするスナイパー・ローを撃ち抜いた。
『再びの狙撃!スナイパー・ロー選手、正門から落とされたぁ!!』
『うむ、これはもう戦闘不能のようじゃの』
その通り、スナイパー・ローは完全に沈黙していた。
歓声に沸く会場、まだ見ぬ英雄を讃える音が続いた。
『…判明しました、先程の射撃はセイガ選手と仲間関係にあるハリュウ選手!…こちらも会場から約60km離れた場所からの超長距離射撃だぁ!』
『おおおおおぉぉ!』
「ハリュウ君って…そんなすごい技を持っていたのね…驚いたわ」
素直にレイチェルも感嘆していた。
「ほっほっほっ…面白いのぅ」
『面白いのぅ…我も撃ち抜かれてみたいのぅ♪』
店主と、アルランカ三世の声が被っていた。
「ははは…よかった♪」
その光景に、ユメカもようやく胸を撫でおろしたのだった。
「…スゴい……」
目の前で起こったことだけれど、メイには信じられない光景だった。
メイも弓を使う以上、狙い撃ちは得意な方だが、ハリュウのそれはレベルが違い過ぎる…分かるだけにその圧倒的な実力に驚くしかなかった。
「さて、あとはこっちだな」
ハリュウは足場をくるりと反転させ、今度はセイガのいるマウラケ山の方を向く。
そこには動けないセイガに近付きつつある参加者が見える…
それらを数発の攻撃で黙らせるハリュウ。
『今のは…ハリュウか?』
通信機からセイガの声がする。
「安心しろって言ったろ? まあ、オレが本気を出せばこんなもんだ」
「…ハリュウ……」
ずっと見ていたメイだから分かる、ようやくハリュウの表情から怒りが消え、いつもの自信満々な顔つきに戻っていた。
それまでは本当に怖いくらい…ハリュウは怒っていたから…
『助かったよ…ありがとう、ハリュウ』
セイガの声にも安心感というか労りがこもっている。
「……まずは無事で良かった…っ」
『ああ…でもまだ無事かどうかは断言出来ないな』
セイガの目の前には巨大な青き龍、龍亜の姿があった。
『あ!?いっけね』
安心したのか龍亜の接近にハリュウが気付いて無かったのだ。
『ハリュウのバカー!!』
『待ってろ、今』
通信機からふたりの慌ただしい声がする。
「いや…大丈夫だから…撃つな、ハリュウ」
セイガは龍亜の目を見ながら通信機に告げる…すぐ傍にいる龍亜には殺気が見えなかったのだ。
「龍亜…」
「興醒め…でち…今回はこれくらいにちてあげますわ」
龍亜がくるりと舞い上がると銀色の光の雨がセイガに降り注ぐ。
すると、セイガの体がみるみる回復して、傷も痛みも殆ど消えてしまった。
「龍脈快癒…また今度たたかいまちょう? セイガ」
龍亜はそのまま天に還るかのように飛び去って行く。
「ありがとう龍亜…これでまだ戦えるよ」
両手を振るセイガ、それに呼応するように龍亜が一瞬吠える。
降りしきる心地よい雨の中、セイガは再び走り出したのだった。




