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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第37話

『ああ、そうだな』

 通信機からセイガの嬉しそうな声がする、メイはその声を素直には喜べなかった。

(…やっぱりセイガさんは…ゆーちゃんのコトを……)

「おい、メイ坊どうした?」

 通信機を向けていたハリュウが変化に気付いたのか問い掛けてくる。

「ううん、何でもないよ?…もうすぐポイントだね…なんかあそこは廃墟っぽくてボクは苦手なんだけどなぁ」

『仕方ありませんな、あの場所が今回の作戦では絶好の戦場です』

 マキさんが活動を始めている、後半で全力を出せるよう、前半は力を温存してもらっていたのだった。

「そうだよね…遂にこの時が来たんだもの…へんなことに気を取られてちゃ…ダメだよね…うん」

 なんだろう、色々な感情がごちゃまぜになったような…取り留めのない想いで潰されちゃいそうな気分だった。

 メイはきゅっと唇を結ぶと、振り返り、マウラケ山を遠く見上げた。


『さあ!いよいよ後半戦が始まろうとしております!今年は本当にレベルの高い展開が続きますね、陛下』

『うむ、例年も勿論見所の多い大レースじゃが、今年はまた一段と面白いのぅ』

『さて、今年の優勝はどうなると思いますか?』

 ジャンキー細田に聞かれ、アルランカ三世が顎に指をやり口角を上げる。

『うふふ…そうじゃな……我の予想じゃと、つまらんがやはりゴットが一番よの。あとはグラシオンとアルザス…このふたりが本領を発揮するじゃろうの』

『剣聖…アルザス選手?…ああ、確かに前半戦では目立った動きはありませんでしたが…やはり後半に向けて実力を見せなかったと?』

『あとは品定めじゃろうな、アレは確実に戦いたい相手を選んでおる』

 剣聖アルザスの名前が出て、会場は騒めく。

 知名度で言えば、今回の大レースでは恐らく一番有名だからだ。

「アルザスかぁ…確かに凄く強かったもんね」

 ユメカが感慨深く呟く、因縁もあってどちらかと言えば苦手な相手なのだが、何故か不思議と怨めないというか妙な親近感を感じるのだった。

『セイガ選手はどうですか?』

『おお、無論期待しているぞよ?しかし前半飛ばし過ぎたからのう、しかも話に拠るとゴットと戦うつもりなのじゃろ?』

『はい、今は上位同士で直接戦うことは出来ませんが、セイガ選手とその仲間達は大レース前に宣言していますね、なかなかの見物でしたよ』

『うむ、それは我も見たかったのぅ…ま、セイガ達は目的が少し違うようじゃからの、予想からは外したのじゃ♪』 

 心底楽しそうにアルランカ三世が笑う、こうして見ると少女のようなあどけない姿だった。

『他にも、だれが最後に笑うかは本当に分からない、だから大レースは面白い!闘う実況者としては本当は参加したいくらいですよ』

 ジャンキー細田はその異名通り、自らも戦士として大会に出る場合もあったりするのだ、表情の読めぬ狼の顔が不思議と楽しそうに見える。

『ここの実況はお前様しか頼めぬのだから我慢するのじゃ』

『ははは、お褒めの言葉ありがたいです……それでは、時間になりました!』

 前半とは違い、メイン会場には参加者がいないため、静けさが走る…

『5…4…3…2…1… スタートです!!』

 それと同時にあちこちでサイレンのような音が鳴り響いた。

 額窓の制限が掛かっているため、全参加者に開始を伝える為の合図だ。

 そして、上位3人が動き出す!


 マウラケ山を同時に駆ける3人、まずは真っすぐアルランカの方を向くベルクに何人もの参加者が襲い掛かる。

 インターバルを含めてではあるが、山頂近くまで移動できた面々だ、勿論それなりの実力者である。

『おおおっと! ゴット選手、襲撃をものともしないぞ!』

 ベルクの走りは止まらない、一瞬で敵を薙ぎ払う。

 グラシオンを駆るクレストは敢えて急傾斜の山肌を飛ぶ、追撃から逃れるためであり、それは見事な策でうまく敵を寄せ付けなかった。

 そしてセイガは…

『セイガ選手にはマークが付きませんね?』

『おそらくアレじゃ、この斜面で高速剣の移動を使われたら捉えきれないと踏んだんじゃろ?』

 セイガ自身は普通に走っているが、いつでも高速剣は使えるため、周りの警戒が大きいのだ、結果…最初はベルクだけが集中して狙われていた。

 それでもベルクの速度は抑えられない…



 アルザスは滝の上、岩肌が向き出た縁に立っていた。

 既に背中の大剣、絶剣アウグストゥスは放たれ、その手に握られている。

「…来たか」

 その見据える先には、紋章を持つ者がいる。

『ついに上位3人の行く手の先にアルザス選手が現れた!はたして誰を狙っているのか!?』

『資料によるとセイガとは過去に二度対戦しているらしいの…だから我の読みとしては残りのふたり…』

 三者が三様にアルザスを見る、位置的にはベルクが一番近い…

 アルザスは剣を大上段に振りかぶる!

「勝負してもらうぞ…」

 剣閃、巨大な衝撃波が発生し、流れる水を巻き上げる、その狙いは

『グラシオンの盾がアルザス選手の一撃を防いだぁ』

『おお♪そちらかえ…面白いのぅ!』

 アルザスは一気に間合いを詰め、グラシオンに迫る、クレストも牽制の射撃を与えるが容易く躱されてしまう。

『全長15mのグラシオンに人間としては大きいがたった2m程のアルザスが挑みます! これは面白い戦いになりそうだ!!』

 グラシオンはあくまでゴールを目指し、河の急流、渓谷部を飛翔しながらアルザスを攻撃する。

 アルザスはそれを躱しながら、時には剣撃を飛ばし、攻撃を緩めない。

『凄いチェイスだ!グラシオンのランスを受け流し、アルザス選手の剣が届くか!?いやっ…装甲に届く前にクレスト選手、一気に飛翔して躱したぞ!』

『あそこまで間合いを詰められたら普通なすがままじゃが、うまく躱しおったのぅ…これはクレストの操縦士としての経験とスキルが高い証拠よ』

 上空に逃げたクレストは真下のアルザスに向けて高出力のビームを撃つ。

 アルザスは崖の上に移動して躱すが、ビームの威力で渓谷の一部が崩れ、アルザスの足場も落とされる。

 間一髪アルザスは飛び退くが、その間にグラシオンは一気にバーニアを吹かせて移動した。

『逃げられるか?グラシオン!』

 しかしアルザスも逃がすつもりは元から無い、大きくジャンプしてそのまま高速飛行を開始する。

『これは…アルザスの方がちと速いのぅ♪』

 アルランカ三世の言う通り、アルザスは少しずつグラシオンに近付いている。

 クレストもこのままでは追いつかれると踏んだのか振り返り、背面飛行をしながらアルザスを狙い撃つ。

 それすらも飛行しながら躱し、アルザスが放物線を描きながらグラシオンに飛び掛かる。

 再びの交錯、勝負は…

『おお!両者ともヒットだぁ! グラシオンの右腕部に断線が生じている!だがアルザス選手も弾かれ地面に叩き込まれたぁ!』

 クレストは驚いていた。

「ふぅ…このワールドは凄いなぁ…騎装兵機と渡り合える人間がいるなんて思わなかったよ」

 クレストのいた枝世界は、科学が発達した世界だったが、それに超古代から存在するという高エネルギー物質「エレメンタル・コア」を使った騎装兵機という兵器が戦闘の中心だった。

 人間の身体能力はそこまで高くない、人間は騎装兵機には絶対に勝てない、それがクレストの知る常識だった。

 銃器を使ったとしても、人間一人が持てる銃器の火力では騎装兵器の装甲を破るのも難しい…そもそも対応する場所が違うのだ。

 だからこそアルザスという存在はクレストにとって別次元の脅威だった。

「でも…彼がいくら強くても、この特別なグラシオンには及ばないよ」

 だが

「え?」

 クレストの気の緩んだ、その一瞬の隙をついてアルザスの天を衝く剣閃がグラシオンに浴びせられる。

「うわぁ!」

 破壊するほどのダメージでは無かったが、エレメンタル・コアの出力が一時落ちるほどの大きな攻撃だ。

『なんと!アルザス選手、見事に復活&反撃だ!』

 土煙の中、大きく立ち、上空を見るアルザスの姿は、とても雄々しかった。

(どうしよう?このまま回避しながらゴールを目指すか…それともここで彼と決着をつけようか…)

 クレストは悩んでいた。

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