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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第36話

 セイガはまず、へろへろになった体を頂上の岩のひとつに座り休ませながら、額窓から青い小瓶を取り出し、それを一気に飲み干す。

 喉越しがいい…そして爽やかな味と共に体全体が青く光り…体力が回復しているのを実感した。

「凄いな…このエリクサーって薬…」

『おお、だいぶ元気になったようだな』

 額窓からハリュウの声がする、ちなみにエリクサーは強力な回復薬ではあるが連続使用をすると、効果が下がるうえ、毒などの副作用が出るので用法、用量には気をつけないといけない物だったりする。

「ああ…これで何とか後半戦も戦えそうだよ」

 そう言いながら、セイガは山頂で立ち尽くすベルクを見据えた。

 インターバルの間、参加者はある程度自由に行動できるが、例外として1~3位の選手は山頂から移動することが出来ない。

 だから今、このマウラケ山の頂にはセイガとベルク、そしてグラシオンが並んでいて…正直少し狭苦しかった。

「ゴット…ベルクはこのまま後半戦に臨むつもりのようだね」

 少し離れた場所からキナさんがセイガに近付く、彼女も回復薬を用意していたようで、その顔色はかなり良くなっていた。

「そのようだ…余裕、ということか」

 ベルクは無言で山頂から麓を見下ろしている。

『それもあるけれど…山ではアイツは自然と回復できるんだと思うよ?』

 メイだ、ベルクのことは彼女が一番よく知っている。

『山に入ってからアイツの力がまた一段強くなったはず…山や禁域では…ベルクに勝てる奴はいないよ』

 言われてみると、マウラケ山に入ってから走りや使う光の威力が強くなった感じがする…その可能性があったので、最初からマウラケ山ではベルクに仕掛けない方針だった。

「セイガさん達は…予定通りって感じかい?」

 キナさんが大きく伸びをする、力強く、端正な体だ。

「ああ…色々あったけれど、後半にどうするかは決まったと…思う。キナさんは後半戦…どうする?」

「ふっ、いきなりセイガさんに挑んじゃおうかなぁ♪」

「…え?」

「冗談だよ、でもアルザスさんの様子も気になるし、まずは一度山から下りて対策を練ろうかなって思ってるんだ、だからここで一度お別れだね」

 アルザス…確かに彼はずっと上位をキープしながらも大きな活躍はしていない…それは明らかに何かを狙っているような…そんな風に思えた。

「それじゃあキナさん…健闘を祈るよ」

「お互いに、ね」

 キナさんが背を向けて飛び立つ、あれならすぐに下山できるだろう。

 山の冷たい風が、セイガを撫でた。


「そういえば…ユウノさんの服ってめーちゃんと似てるけれどもしかして?」

「はい、メイの服もこの服も私の自作ですよ」

「やっぱり!スゴいなぁ…うふふ」

 白熱した前半戦だったが、会場のユメカ達はその熱を冷ますかのようにのんびりとしていた。

「へぇ~?それは素敵ですね♪私もそんな風に作れたらなぁ」

 レイチェルが目を輝かせながらユウノを見る。

「でもレイチェル先生は絶対領域で服だって作れるんじゃなかったっけ?」

「あは、そうなのだけれど料理と違って上手くイメージが作れなくて…残念ながら美的センスが無いのかしらね」

 どうやら試してはみたらしく、レイチェルが恥ずかしそうに微笑んだ。

「私も出来上がった服をアレンジしたり、組み合わせたりはするけど、生地から作ったコトは無いんだよね…えへへ」

 ユメカはこの日のシャツにもアクセサリを幾つか付け加えていた。

「あの…私は里でも機織(はたお)りの仕事をしてましたし、こちらに来てからはこれで…もっと楽になりましたの」

 ユウノが『衣』の『真価』を呼び出す。

「なるほど、生地なんかはこれで作っちゃえるの?」

「はい、それだけではなくデザインが出来ていれば服を丸ごと完成させることも出来るんですよ、大切な服はちゃんと自分の手で縫いたいですけどね…ってすいません、私ばかりこんな偉そうに」

 急に恥ずかしくなったのかユウノが顔を赤らめて俯いてしまう。

「ダイジョブだよ、ユウノさんの話、聞きたいもん」

「ええ、そうね」

 ユメカもレイチェルも本当に楽しそうに、ユウノに微笑みかけた。

「…僕も、実は洋服作りが趣味だったりします…だから」

 ノエくんの『真価』、それは『服』だった。

「うわぁ♪なんかみんな趣味が合いそうだね☆私も趣味に特化した『真価』にすれば良かったかなぁ?」

「ユメカさんは今の『真価』でいいと思うがの」

 事情を知っている店主が口を挟む。

「ユメカさんの『真価』って?」

 事情を知らないユウノとノエくんが首を傾げる。

「あはは…それはまた今度…いや、隠すようなものじゃあないんだけどねっ」

 やっぱり、まだちょっとだけ恥ずかしい気持ちが勝ってしまうユメカだった。



『…』

「…じゃあ、あとはよろしく」

 セイガは通信機を使って話をしていた、そして手元にあるカプセルを水と一緒に飲み込む。

 そろそろ30分が過ぎようとしていた。

『連絡します、そろそろ各参加者の額窓の機能を制限させて頂きますので、ご用のある方はお早めに対応お願いします、繰り返します……』

 山頂からアルランカの街の方を見下ろす、山の付近には既に幾つかの人影が見えている、これは紋章狙いの参加者だろうか…

 強い風が吹き荒ぶ中、セイガはもう一度気合を入れる。

「ここからが勝負だ…」

 すぐ横にベルクの姿…前半戦で見たその力は圧倒的だった。

 今も、強烈なオーラを纏い立つその姿は神々しく、並の人間では近付くこともできない威圧を感じる。

『セイガ、こっちはもう少しでポイントに到着する、そうしたらいつでもサポートするからな…負けるなよ?』

 通信機からハリュウの明るい声がする。

『セイガさん…ベルクはとんでもないから…気を付けてね?』

 一方メイの声はいつもより…か弱かった。

「大丈夫…」

 メイを励まそうとしたその時

『セイガ?…あ、まだ通じた、良かった♪ うふふ』

 額窓にユメカが映る、その笑顔を見て、セイガの緊張が少し解ける。

「ユメカ…どうした?」

『ふふっ…えっと…繋がらなくなる前にもう一度声をかけようと思って…まずは3位おめでとう♪…惜しかったけど最後はカッコよかったよ?』

『あの…ユウノです……セイガさん、とても素敵でした』

「ありがとう…とても嬉しいよ」

 本当に、それだけで体の内から力を感じるセイガだった。

『…ゆーちゃん?』

『あ!めーちゃんも聞こえる?前半お疲れ様っ大丈夫?元気にしてる?』

『メイ…怪我とかしてない?』

『うん、ボクは大丈夫だよ、今はハリュウもいるし』

『ユメカさーん、ユウノさーん、レイチェルさーん!オレも頑張ってますよ!』

『ハリュウ、うるさい!』

 どうやら軍用車の方も問題無さそうだ、額窓にはそちらの様子も同時に映し出されていた。

『それじゃね、…せ~~の!』

『3人とも ガンバレ!!』

 画面いっぱいにユメカ達5人の応援の姿が見えた。

「ありがとう…俺も全身全霊をかけて、戦うよ」

『うん…って、画面が…!』

 どうやら時間切れらしい、ユメカ達の姿が霞んでいく。

『それじゃね!』

 その言葉を最後に額窓の方は沈黙した。

『…力、出たな』

 通信機の方からハリュウの声がする…

「ああ、そうだな」

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