第35話
『遂に前半戦最終盤!上手く抜いた鬼無里選手が更にスピードを上げて飛んでいくぞぉ!』
「ああああ、セイガのバカ―(苦笑)」
「セイガ君の爪の甘いところが出たわね…それでもまだ行ける筈よ」
「あうあぅ…セイガさん…負けないでっ!」
ユメカ達、観客席も大いに盛り上がっている、方々から各選手への歓声が轟き続けている、それは大きな渦のように…
「瑠璃さーん!気を付けてください!!」
「おお、ノエくんも意外と大きな声が出せるんじゃのう」
店主の声にふと我に返り白い頬を赤らめるノエ…あまりにその仕草は艶やかだ。
『今度はグラシオンのビームが鬼無里選手を襲う!』
『クレストはどうやら移動しながらの射撃が強い…か』
「瑠璃さん!」
「んにゃろ!」
キナさんが重力を味方にした下降でどうにかビームを避けるが、その後方にはベルクが待っていた。
【人の子よ 下がりなさい】
咄嗟に振り返りキナさんは愛用の斧を出すが…
『残念!鬼無里選手、ゴットに阻まれた!』
キナさんの一撃はベルクの拳に阻まれ、そのまま真横へと大きく転がり落ちる。
「ああっ…瑠璃さーん!」
「キナさん!…大丈夫…かな?」
その姿は既にメインモニターから外れており安否が分からない。
『これでトップはゴット選手…いや、後方から凄い勢いでセイガ選手が猛追してきたぞ! 高速剣恐るべし!』
既に実況席ではセイガの情報が入っている、だからか
『ふふふ…』
アルランカ三世は手元のセイガの資料を見ながら楽し気にしていた。
「もう…少しだ……俺の体よ…もってくれ!」
『後方からグラシオンの精密射撃が続くがゴット選手は防ぎ、セイガ選手は躱す!…これは止められない!』
『そろそろ頂上が見えてきたのぅ』
山頂には、大きなポールが立っており、その下、正三角形の配置で3つの紋章が浮かんでいた。
手前に金、左後方に銀、右後方に銅…それぞれの色で輝いている。
「セイガさん!」
遠く後方、アルテの町からメイが両手を合わせて祈る。
「決めろよ…セイガ!」
多くの想いを載せ、セイガがベルクの背後に付く…ギリギリ…あと50mを…
「高速剣!!」
セイガが駆ける!
確かにベルクは抜いた…
【遅いですね】
はずだった。
「…!嘘…っ」
金の紋章のすぐ前、現れたセイガの横にベルクは居た。
刹那その剛腕がセイガを圧し潰し、セイガは地面にめり込むほど強く叩きつけられた。
『ああっ!!』
多くの声が世界を埋める…そして
【神は…負けません】
ベルクが金の紋章を掴み、大きく掲げた!
『決まったぁ! 前半戦第1位はやはり神、ゴット選手だぁぁ!!』
『ははは、本当に圧倒的…勝利を確信しておるわい』
山頂…セイガはまだ動かない…
「セイガっ!」
ユメカの声でさえ…届かないのか。
『続いては…おおっと、クレスト選手が銀の紋章に食らいつく!』
ようやく追いついたグラシオンの白き腕が銀の紋章を受け取った。
『第2位はクレスト選手! さあ最後の紋章は誰が手にする?』
…
「セイガさん!」
メイの涙がひとつ…地面に落ちた。
「……おおおおお!」
その時、土煙を上げて、立ち上がる…セイガの姿…
大きく横っ飛びで銅の紋章へとダイブする。
そこにはもう一つの手が…
『…これは…第3位は……セイガ選手だぁぁ!!』
「ちぇっ、あと少しだったのになぁ」
同じく立ち直っていたキナさんをどうにか振り切り、セイガが紋章を手に入れていた…その右手の甲には銅の紋章が貼りついている。
「これが…紋章…なのか」
自分の手についた紋章を不思議そうにセイガは眺める。
「…よかった…セイガさん、無事だ」
メイは胸を撫でおろす…生きていてくれた…それだけで嬉しかった。
『前半戦しゅーりょーーー!』
大きなサイレンがメイン会場、及びフォートレスモノリスを通じてあちこちで響き渡る。
『これから30分はインターバル、休憩時間となります、参加者の皆様は回復や治療、後半戦への準備をお願いします、そしてこれからメイン会場では前半戦のハイライトをお届けします』
『皆、後半戦へ向けて気合を入れるのじゃぞ♪』
会場も大いに盛り上がる中、アルランカ大レース、前半戦が終了した。
続くは真の王者を決める後半戦…大レースの佳境が始まろうとしていた。




