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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第34話

『マウラケ山の中腹、マウラケ大滝の前で、遂に、セイガ選手がゴット選手に追いついたーー!』

 山肌を半円に切り取って、豪快な水量を誇る大きな滝がふたりを讃えるように眼前に広がっている。

『クレスト選手は川下からまだ現れないので、このふたりが今のトップです!』

 ふたりが並び、セイガも一度足を止めたためか、フォートレスモノリス達は一旦その場から離れた。

【ほう 人の子よ…ここまで来ましたか】

「ああ…全力で挑むと言っただろう?」

 セイガは激しく痛む肺で呼吸をしながら、それでも静かに言う。

 高速剣の連続使用は想像以上にセイガの体力を奪っていたのだ。

 滝の荒々しい水音だけがその場に流れる…

『さあ、刮目せよ…前半最大の見せ場、じゃぞ?』

 その時、太陽を切り取るように、黒い影が上空に現れ…

『来ましたーー!』

 身構えるふたりの前方、100m程高い滝の上に…

『これぞ参加者を苦しめる最強のモンスター!!』

 その片首は赤く、もう片首は青く…大きな翼を持ち、堅牢な赤青の鱗を煌かせるそれは

『ツインヘッドドラゴンだぁぁぁ!』

 体長10m以上の巨体を震わせ、双竜が咆哮する。

 同時に大地と水面が衝撃に打ち据えられた。

「くっ」

 セイガもまた、ダメージを受ける、離れていてもこの威力…これはルーシアの聖竜にも匹敵するかも知れない…セイガはそう感じた。

【おもしろいですね…戦い甲斐がありそうです】

 ベルクも拳を合わせて双竜を睨んだ。

 セイガは狼牙を手にする、巨大な敵と戦うのはまだ慣れてはいないが、ここは戦うしかない…とはいえ、隙があれば逃げることも視野に入れていた。

「ギャオオオォ!!」

 双竜が声を上げ、両方の口から火と氷のブレスをそれぞれ振り撒く。

 それが戦いの口火となった。


 双竜の攻撃は比較的単調だ。

 翼から放つ真空波、赤い方のファイア・ブレス、青い方のアイス・ブレス、両方が使える咆哮…それだけなのだが……

『ツインヘッドドラゴンの猛攻が止まらないぞぉ!』

 高台から嵐のようにそれらの攻撃が絶え間なく襲い掛かる。

 セイガも、ベルクでさえそれを凌ぐので手一杯だった。

「くっ…フルで高速剣が使えれば良かったのに…」

 今のセイガの高速剣での移動は1回50mまで、双竜に届かせるためにはもう1回以上使用しないといけないが、この過酷な攻撃の中、連続で使用するのは困難だ。

「ギャオーーーン!」

 咆哮でセイガの体が一瞬怯む、それと同時に炎の壁が両者に迫る。

 ベルクは手を振るい炎をかき消すが、セイガの方はギリギリの所で後方に飛んで躱すので精一杯だった。

 双竜は悠々とこちらを見下ろしながらも、けして攻撃の手を緩めない。

 これはかなり厳しい戦いになりそうだった…


 一方、メイ達の軍用車はようやくアルテの町に着こうとしていた。

「セイガさん…大丈夫かなぁ」

 メイが心配そうに自分の額窓でセイガ達の様子を見る。

「まあ、まだオレが出る番じゃないだろうな…あと数人参加者が駆けつければあの攻撃にも隙が出来るだろうよ」

 あくまで双竜は参加者、特にトップのふたりを足止めするために波状攻撃をしているので、後続が合流すればそれだけ倒すのも容易になるのだ。

「うん、そうだろうけど…、あれ?」

 メイが怪訝な声をあげる。

 視線の先には町の方から出てくる大きな装甲車、東睦太郎の姿があったのだ。

「タロさんじゃん、どうして戻って来たの?」

 そう、太郎はゴールのマウラケ山とは反対、アルランカへ向かおうとしている。

「お、お前さん達か…俺っちはもうアルテを凱旋して十分ポイントも稼いだからな、後半戦に向けて準備に入る所さぁ☆」

 禿げた頭を手で擦りながら太郎は豪快に笑う。

「なるほど、ゴール直前で紋章を奪おうって腹かい」

「うーわー…セコいなぁ」

「セコいってゆーな!」

 メイのジト目に耐えきれず太郎が両手を振る。

 町のすぐ近く、他にも多くの参加者が行き交う街道だったのでこの会話も周りに知れてしまうのだ。

「ま、毎年ゴール前は大量の参加者が待ち構えるのが定番だからな」

「そういうこった、お前さん達だって後半にゴットを狙うんだろ?」

「確かにそうだね……ハリュウ、ボクたちはどうしたらいいんだろう?」

 メイが後部座席のハリュウを振り返りながら尋ねた。

「おいおい前を見ろよ」

「これくらい大丈夫だよ」

「ああもう!」

 ハリュウが片手でひょいと自らの体を支え助手席に移動する。

「ひとまずオレ達はセイガのサポートが出来るくらいの位置をキープだな。そんで合図があったら例の場所に集合だ」

 指を振りハリュウが軽く説明する。

「例の場所?」

 太郎の眉が動いた。

「アンタも乗るかい?ベルクを釣るために考えた案だ、人手は多い方がいい」

「ほうほう、それは一口乗ってもイイかもなぁ」

 太郎は装甲車を停めて、メイ達に近付く…


『さあさあ!どうやらそろそろ後続の参加者が近付いて来ました!トップのふたりは一体どうする?』

『男なら玉砕覚悟で突っ込んで欲しいのぅ…うふふ♪』

 なにやら嬉しそうにアルランカ三世は口を曲げ舌を出す。

『…もうつまみ食いはしないで下さいね?』

『我は何も悪い事はしてないぞよ☆』

 しれっとウインクするアルランカ三世に呆れながらもジャンキー細田は再び実況に戻る。

『はいはい…もうすぐ滝に辿り着きそうなのは…クレスト選手、それに鬼無里選手、あとは目立った動きは見せていませんがアルザス選手と龍亜選手も射程圏内と言えそうです…果たして前半戦、最初にこの難関を突破するのは誰なのか!』

 セイガは機を狙っていた。

 消耗戦になりつつあるが、双竜の動きの癖は既に見切った。

 あとはタイミング次第なのだが…

【…時間が来たようですね…】

 ゴット…ベルクが目を見開き、滝壺へ向けて走り出す。

 その間も双竜の攻撃は止まることを知らないが、それはベルクに届く前に淡く光り霧散していった。

『ゴット選手!その姿が霧の舞う滝の下に消えていくぞ!』

 セイガの目からもベルクの姿は見えない、しかしこれはチャンスと見て、高速剣で高さを稼いだ。

 双竜は真下のベルクと前方のセイガと別々に対処しなくてはいけない。

『む…これはゴットの大技が出るぞ?』

『陛下それは?…な、なにぃ!?』

 滝壺が眩い光に包まれる、それは一旦収束すると、爆発するかの如く滝の水全てと共に双竜へと貫き輝く剣となった。

『凄い、凄い一撃がツインヘッドドラゴンを撃ち抜いた!』

 双竜の巨体が滝の上から弾かれ、宙を舞う。

 しかし翼でどうにか体勢を整えた双竜が反撃とばかりに一条の高エネルギーのブレスを放つ。

『これがダブルブレス、双竜波だぁぁ!』

 ふたつの首が同時にブレスを出し、それらが融合した結果、強力なエネルギーと化す…まさに双竜の必殺技…

 微かに水が残っていた滝壺は一瞬でベルクと共に焦土と化した。

 双竜波はさらに放射を続け、次はセイガに向けてこれを薙ぎ払おうとする。

 上空のセイガが躱すために高速剣を使おうとした時

 空を裂き、別の金色のビームが双竜を貫いた。

『これは!グラシオンのランスによるビームだぁ!』

『ほう、なかなかの命中率じゃ…素敵よの』

 グラシオン、クレストはまだかなり遠くにいたが、その槍からの強力なビームが双竜の翼に当たったのだ。

 堪らずバランスを崩す双竜。

「今だ!合わせるよセイガさん!」

 この声は…キナさんだ。

 声のした方向をセイガが確認すると、蒼い流星のような力を纏ったキナさんが突撃を掛けている所だった。

「行くよ! 凶星烈波!!」

 それは双竜の赤い首を狙っている、セイガはそれに反応し体を捻り青い首に向けて渾身の一撃を当てる。

「ヴァニシング・ストライク!!」

 セイガの紅き奔流と、キナさんの蒼い流星が同時に双竜を切り裂き、その首は共に千切れた。

「ギャオオオオオオォン……」

 最期に悲鳴を上げ、意志を失った巨体が滝へと堕ちていく…

 そこに

【消えなさい】

 ベルクがいた。

 彼の拳が双竜だったものを捉えた瞬間、眩い光と共に爆発が起き、それは木っ端微塵になった。

『すごい!怒涛の連続攻撃でツインヘッドドラゴンは完全に消滅だぁ!』

 キラキラと光の粒子が大滝を包む、トドメとしてはセイガとキナさんが決めたのだろう、セイガの目の前に赤と青の光を放つ球体が出現する。

 ツインヘッドドラゴンのドロップアイテム、「双竜のオーブ」だ。

『もうちょっと足止めしてくれると踏んだのだがのう、今年の参加者はなかなか手強いわい♪』

『さあ、順位ですが…鬼無里選手が凶星烈波の勢いのまま山頂を目指しているぞ!続いてゴット選手が走る!』

「…あ!」

 セイガはオーブに気を取られて、走るタイミングが遅れてしまった。

「ああああ、セイガのバカー!」

 脳裏でユメカが叫んだ気がするがそれを振り払い、最後の力をふり絞って高速剣の移動を開始する。

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