第33話
青い軍用車が砂漠の畔を抜けようとしている。
「オレの動きはちゃんと見ていたか?」
ハリュウが確認する。
「ああ、お陰でフォートレスモノリスの攻略が出来そうだ」
「ええと…攻略ってナニ?」
事情を知らないメイが困惑するが、運転には集中している。
「ハリュウに迫るフォートレスモノリスのパターンをメイが運転している間に見ていた…アレはかなり的確にフォーメーションを組んで包囲してくるけれど…それはあくまで飛行機など慣性のある空中での相手を想定しているから恐らく地上で小刻みに動く者には対応しきれない可能性があるんだ」
元々は対空防御機構なので地上に関してはあくまで別部隊のフォロー程度でしか対応していないのである。
「動きのクセが分かれば…突破できるだろ?…なあ、セイガ!」
あくまでこの大レースの目的はベルクと決着をつけること、だけれどまずは彼に並ぶくらいの実力を見せなければベルクは相手にもしてくれないだろう。
だからこそ…
「勿論だ、メイ……ベルクを驚かせてやろうぜ」
メイは感動した…ふたりは最初から、ベルクを倒すために本気だと…気付いたから……
「うん!絶対ビックリさせてやってよ!」
ふと砂埃が入り込み、メイは片手で顔を拭う。
「それでは、聖河・ラムル……参る!」
セイガが軍用車から前へと大きく飛び出す、そして着地と同時に高速剣で奔る。
一度の使用では50mまで…だったら連続で使用すれば…
『な、な、なんということでしょう! 砂漠北部にいた、とある選手が…とんでもないスピードで移動しているぞ!』
実況のジャンキー細田が叫び、その姿はすぐに観客の知る所となる。
「セイガだっ!」
ユメカが両手を上げて歓声を上げる、その隣ではユウノが祈るように手を合わせている。
『聖河・ラムル選手…ああ、例のスターブレイカー事件…正式発表ではマケドニア大次元振での功労者ですね、空間を飛ぶように軽やかな姿だ!』
『ふむ…なかなか愛い男ではないか…これは善い』
『しかし当然フォートレスモノリスが黙っていないぞ?編隊を組んセイガ選手の前に現れた!』
メインの敵をセイガと認定したのだろう、モノリス群が文字通り壁になる。
ちなみにベルクやグラシオンの方にはアルテの町を迂回した高機動ゴーレムが追随している。
「行くぞ…精神を加速させろ…見極めるんだ!」
最初の壁に触れる直前、セイガが高速剣で空間を越え…抜かす。
50m先に現れたセイガはそのまま走り続ける。
モノリスの方はその行動を把握したのか、迫る壁を1つにして、残りは離れて様子を見ているようだ。
「そうくるか…なら!」
迫って来たモノリスをセイガは高速剣で躱す、だが出現したのは20m程前方、モノリス群が反応する前にセイガは再び高速剣で突破した。
『なんとなんと!セイガ選手、連続の高速移動でフォートレスモノリスを翻弄しているぞ! モノリスも対応しようとしているが…セイガ選手を捕えられない!!』
まさかの単体でのフォートレスモノリス突破の事実に観衆が湧き上がる。
「セイガーー!頑張れー!」
「セイガ君、その調子!」
「がんばってください…」
「ああ、ここまで女性陣に応援されるとは…セイガめ、やりおるのぅ」
「本当にセイガさんって凄いですね、僕も憧れちゃうなぁ」
それぞれが、セイガを応援している…それはメイやハリュウ達参加者にも充分に伝わっていて…
「すごいやセイガさん…これってもしかして」
「ま、ベルクには追いつくだろうな」
ハリュウの運転する軍用車は、ようやくアルテの町が見えて来たあたり、先程走り出したセイガはそれを越えもうゴールのマウラケ山に近付きつつあった。
『ふむふむ…これは是非ベッドの上で話を聞きたいものじゃのう』
アルランカ三世もうっとりした表情でモニター上のセイガを見やる。
「聖河…面白いじゃない!」
セイガよりは後方、未だ空を飛んで進む青き龍、龍亜もまたセイガの姿を捉えていた。
そんな龍亜の元にも幾つかフォートレスモノリスが近付くが龍亜はいなすように壁をすり抜け大空を進む。
「まだ…まだだ!」
フォートレスモノリスは学習を進め、どうにかセイガを捕まえようとする。
しかし構造上どうしても地上スレスレを奔るセイガに対しては分が悪かった。
再びフォーメーションの崩れが見えた隙をセイガが走り抜ける。
走りと高速剣、その組み合わせにより速度と機敏さを兼ね備えたセイガの速度はベルクをも上回っていた。
そして…




