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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第32話

『さあ、街道組はいよいよ中間地点とも言えるアルテの町に差し掛かろうとしています!!』

『うふふ…易々と通れれば…だけどねぇ』

 不敵な笑みをアルランカ三世が浮かべる…彼女はこの大レースの最高責任者でもあるので先の展開が読めるのだ。

『おおっと、それはどういう……なんと!先頭集団の前に大きな壁があるではないですか!!』

 ちょっと大仰に叫ぶ実況、ジャンキー細田も関係者なのである程度障害について聞いているのだ。

 街道には、巨大なバリケードが壁の如く立ち塞がっていた。

 さらにその前には何台もの特殊なモンスターがいた。

 機械の体に迷彩色の鋼鉄の装甲を付け、足はキャタピラ状のものが4脚、頭の辺りには鎮圧用のスタンガン、両手に各自武器を持つ4m程の機動兵器…

 アルランカ軍の主力兵器のひとつ、高機動型ゴーレムだ。

 動力と制御を魔法で、構造と武器を機械で賄うアルランカ自慢の存在だ。

『今年はさらに兵装と思考魔法を高めたからのぅ、どれだけ参加者がもつか愉しみじゃな』

 アルランカ大レースは、観光の目玉イベントではあるが、同時にアルランカの国力と戦力を示す意味合いもある。

 万能防御機構であるフォートレスモノリスと汎用機動兵器であるゴーレムは大レースによって毎年進化し、その脅威はかなりのものになっていた。

 そんな高機動ゴーレムが待ち構える…

『さあ、先頭のクレスト選手はどうするっ!?』

 流れるように進んでいた騎装兵機グラシオンが更にスピードを上げる、待ち構えるゴーレムが各自の武器を発砲した。

『飛べ!グラシオン』

 グラシオンは大地を蹴って空へと舞う、同時に足と背中に配置されたバーニアが起動する…それは雄々しい鷹のような鋭い飛翔だった。

『飛んだっ?…グラシオンが空へと駆け上がった!』

『だが、それは想定済みだよ』

 そう、ここの守りはもう一つ、空中には既に幾重ものフォートレスモノリスの壁が展開されているのだ。

 グラシオンは右手のランスからビームを撃つ。

 撃ち抜けはしないが、壁もグラシオンに近付けない、グラシオンは回避行動を取りながら空中で渡り歩いていた。

 一方地上ではゴーレムと参加者との戦いが始まっていた。

 何台かはバリケードに激突しつつ、追うゴーレムと逃げる参加者という流れが生まれる。

『アルテまで入れればゴーレムなどの障害は一時停止します!果たしてそこに最初に辿り着くのは誰なのか!』

 市街地ではさすがに戦闘は禁止されているので、ある意味安全地帯なのだ。


「…そろそろ、だね」

 北部の森林地帯、ここは移動が難しい上にカメレオンドラゴンという厄介なモンスターが配備されていたため、ここを選んだ殆どの参加者は思うように動けないでいた。

「あーー、鬱蒼としてるのぅ」

「仕方ないっすね」

 ベレスとパルタのホバーはこちらを選択していた。

「…っと『激運』!」

 パルタが叫ぶのと、カメレオンドラゴンの長い舌が伸びるのが同時だった。

 的確に向かっていたそのピンク色の舌をホバージェットがすり抜ける。

 パルタの『真価』は『運』、瞬間的にだが幸運を招き、自らに有利な状況を作り出せる…ただし何が起こるかまでは選べないので使ってみないと分からない面があったりする。

「もうちょい速く走れるとええんじゃが…」

「これ以上はおいらも消耗が激しすぎて無理っす」

 そう、この荒れ道を上手く進めているのも『運』の力の賜物だ。

「そろそろトップ集団はアルテに辿り着きそうだから…それまでにもうちょい距離を稼ぎたいんやが…って何じゃありゃ!」

 ベレス達のホバーのすぐ脇を、とんでもない勢いで何かが飛び上がる。

 それは…

『おおっと!ここで森林地帯からホットニュースです! 一気に飛翔しているのは…イーズミ選手です!これは速い!』

 大きな翼を広げて、鷹の姿をしたイーズミが森林上空を進む。

『うむ、フォートレスモノリスの多くがグラシオンと交戦中じゃからの、これは狙っていたタイミング、ばっちりじゃろうな』

『そうですね、そしてそうなると…やはり空中戦に強い選手が続々と空に上がり始めた!さあ、フォートレスモノリスを突破できる選手はいるのか!!』

 砂漠のセイガからでも、その光景は見えていた。

「…よっし、オレもちょっくら飛んでくるぜ!」

「…え?」

 ハリュウがハンドルを離し、立ち上がる…そして

「とぅっ!」

 背後に向け大きく飛び跳ねた。

 屋根が付いていない軍用車ならではだったが…無茶すぎる。

「ええええ?」

 驚くメイ、急いでハンドルを握るセイガ…ハリュウを待つように、高速の翼、ウイングが青い軍用車を抜き、飛び去る。

『あとは任せたぜ~』

 いつのまに搭乗したのか、ハリュウの声が通信機から流れる。

『ははは…行ってこい、どうせならトップを目指せよ!』

 運転席に移動して、セイガがどうにか軍用車を立て直す。

「もう…勝手なんだから」

 メイも文句は言っているが、不思議と楽しそうだった。


『続々と空域では戦闘が続いています、先頭は一気に抜け出したイーズミ選手、それを追う形で鬼無里選手や…あの戦闘機はハリュウ選手ですね、それぞれ違う方向からフォートレスモノリスを躱す算段だぁ!』

「あっはは、わ~い! キナさん、ハリュウ!頑張れー!」

 ユメカの綺麗な声がメイン会場に響く。

「瑠璃さん…格好いいです…がんばれ~♪」

 隣のノエくんも彼女の活躍に瞳が輝く、そしてそれを見てうんうんと頷く店主。

「ええのぅ…とてもええのぅw」

「何を言ってるんですかね、この人は」

 レイチェルはそんな店主に呆れてはいるが、自分の生徒が活躍する姿はやはり見ていて悪いものでは無かった。

「…皆さん、大丈夫でしょうか?」

 ぽつりと、ユウノが呟く。

「うむ…フォートレスモノリスはかなり厄介じゃからのう」

「え?でも、もう抜いたんじゃないの?」

 グラシオンが大量のモノリスを引き付けてくれていたお陰で、後発の飛行組は殆ど無傷で付近のモノリスを越えていた。

 しかし

『さあ、ここからがうちの守護神の本領発揮…じゃよ?』

 大空に、大量のモノリスが発生している。

 それは再び整列し、態勢を立て直して…いた。

 仕切り直すように全てのモノリスが瞬間移動をしたのだ。

『千変万化、絶対防壁…それがモットーなのでな』

『今度はトップのイーズミ選手に主力が集中、同じく抜け出ようとしていた選手たちの前方にもモノリスが迫る!』

 グラシオンの方にはモノリスは減ったが新たに高機動型ゴーレムが追加されていた。

『イーズミ選手、迫るモノリスを引き付け…更に上昇した!流石に鳥人だ!』

 しかし、次々にモノリスが連携しながらイーズミを追い込む。

『どうするイーズミ選手、このままでは網に捕まるか後方へと追いやられてしまうぞ?』

『網に捕まると数分の拘束を受けるからの、うまく躱したいところじゃろうが』

 イーズミは上空からその体を翻して、斜め下へと落下飛行する。

 空気抵抗を抑えながら、重力と自らの『鳥』の『真価』を使った飛行を足し合わせたそれは、雷にも迫る速さだった。

『だが、それでも前方に壁が迫る!』

「うおおおおおお、『疾風五連脚』!!」

 イーズミが落下速度のまま、両足を使い、連続キックを繰り出す。

『無駄じゃよ』

『あーーっと、イーズミ選手の疾風五連脚、モノリスを止められません!』

『速さと飛行能力はとびきりじゃが、戦闘力はまだまだじゃったな』

 イーズミは壁の衝撃をまともに受ける、更にモノリスはスタン攻撃を加える。

「うがぁ!」

『これはイーズミ選手、万事休すか?』

 動きの鈍ったイーズミにフォートレスモノリスの網が掛かろうとする。

「オレは…負けん!」

 イーズミは最後の力をふり絞りその網を抜けるが…その先には既に別のモノリスが待ち構えていた。

「…ぐふ」

『ああっイーズミ選手、網に捕まってしまいました…さらに無理に逃げようとした際のダメージも大きい模様…おっと、只今イーズミ選手、リタイヤ宣言だ』

 それ以上、大レースを続けることが困難になった場合、参加者自身がリタイヤ宣言をするか、主催者側から退場処分を受けるかになる。

 ちなみに、大きなルール違反や不正などが発覚した場合も退場処分が課される場合がある。 

『無理をし過ぎたのう、今回は残念じゃったが今後に期待じゃの』

『イーズミ選手、フォートレスモノリスによって救護班のもとへと運ばれて行きます、そしてモノリスは他の参加者へと分散していきます!』

 モノリスは少しずつ、参加者を捕え始めていた。

 そうなると、各自に分けられるモノリスの数も増えていくわけで…制空権は再びフォートレスモノリスが奪い取る形となった。

『そして…今!アルテの町に最初の通過者が現れた!それは~』

『ゴット選手!…凛々しいのう…とても楽しい夜が過ごせそうじゃ』

 アルテの町は大歓声に包まれる。

【神は ここに来た!】

 ベルクも右手を大きく掲げて観戦者の声に応える。

『アルテの町が拍手と歓声に包まれています!まさに神々しい姿を見せながらゴット選手の行進が続きます!』

 アルテの町は戦闘禁止区域なのと同時に、速度制限もあるので、ベルクは悠々としながらもスピードを落として走っていた。

『続いて、クレスト選手のグラシオンも到着だ!』

『この辺りは順当と言えるのぅ』

 キナさんやハリュウは、空中戦はこれまでと、一度地上に降りていた。

「まあ、十分距離は稼いだし…こんなもんだよね」

 相変わらずベルクの近くをキープするキナさんに対して、ハリュウの方はわざわざセイガ達のいる軍用車の方まで戻ってきていた。

 ちなみに、今はメイが運転している。

「よ~~お待たせ~、行けるかなと思ったけどダメだったよ」

 ハリュウがそう軽く言いながら後部座席の方にドスンと降りる。

「もう、降りてくるのはいいけれど…どうしてボク達の所まで戻ってくるのさ」

 折角距離を稼いでいたのにもったいない、そうメイの目が訴えていた。

「そりゃあ…」

 ハリュウが前方の相棒、セイガの肩を掴む。

「ここからがセイガの出番だからだよ!」

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