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【第2節】その果てを知らず   作者: 中樹 冬弥
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第1話

   第1章



 呼び鈴が鳴らない。

「ん?……あれ?」

 少女は何度かボタンを押してみるが、どうも音がしていない…

 以前友達と来た時には確か呼び鈴は鳴っていたから…おそらく何かあったのだろう、少女はそう判断すると

「おはようございまーす!…うふふ♪」

 大きな声と一緒に洋館に入ることにした。

 

 彼女の名前は『沢渡(さわたり) 夢叶(ゆめか)』、見た目はまだ十代後半といったところだろう。

 今日は長い茶色の髪を頭の上でお団子状にまとめている。

 毛先は薄桃色に染めていたのでなんだかピンクの手鞠を頭に乗せたようにも見えて微笑ましい。

「へへ~、おじゃましますよ~♪」

 キラキラと輝く瞳は反射によっては紫にも見え、同時にその動きから元気で好奇心旺盛な様子が見て取れた。

 歩くたびに下地が濃い緑色のチュールスカートがひらひらと舞う。

 すると

「ああ、おはよう」

 廊下の先から男性の声がする。

 続いてドアがゆっくりと開き、一人の青年が姿を現した。

「えへへ…おはよ、セイガ」

「ああ、ユメカ、今日は朝からありがとう」

 

 彼の名前は『聖河(セイガ)・ラムル』、身長は180cm以上あるので150cmと小柄なユメカが近付くとどうしても見上げるようになってしまう。

 誠実そうな雰囲気で黒く短く切られた髪と、黒い瞳が特徴的な青年…

 ただ、それだけではない何かを感じさせる男だった。

「なんか~チャイムが鳴んなかったよ?」

 ドアを指さしながらユメカ、

「面目ない、実は昨日…隣の道場で新しい技を開発してたんだが…」

 途端、セイガの目の前に『剣』の文字が浮かぶ。

 同時に彼の右手には刃渡り50cm程の剣、アンファングが握られていた。

「雷光…つまり強力な電気を生み出すまでは良かったんだけど…それがちょっと暴走してね」

「ええ!?」

 ユメカの脳裏にはカミナリに撃たれて髪がアフロヘアになったセイガの姿が映っていた。

「ごめ…ぷふ…それって大丈夫だったの?」

 普通の人間なら感電なんてしたら大事だ。

「ああ、俺は大丈夫だったんだが…道場とこちらの家の明かりとか…パソコン等の電化製品がダメになってしまったらしい…呼び鈴まで壊れてたのは今知ったよ」

 道場だけでなく、家の方にも被害が出るとは、かなりの破壊力だったのだろう。

 ひとまずセイガ本人は問題なさそうだったのでユメカはホッとする。

 そして指を立てながら

「いくらセイガが強いからって…あんまり無茶しちゃダメなんだからね」

 そのままぷにっとセイガの鼻を指で押した。

「…気をつけます」

 この世界の人間には、『真価(ワース)』という特別な力が備わっている。

 セイガなら『剣』、様々な世界、時代の剣や剣術を扱うことが可能だ。

 ちなみに膨大な情報からセイガが好みのものを選んで使用しているため、セイガの使う武器及び技は名称などもバラバラで共通点が少ない。

 ユメカの『真価』は『夢』なのだが…今は残念ながら夢に関わる能力は開花しておらず、その力を簡易魔法という別の方法で利用するのみだった。

 ふたりはひと月ほど前にこの世界で出会い、色々な経験をしながら今の関係に至っている…

 そう、家に一人で遊びに来るくらいには仲がいいのだろう。

「でも建物にも被害が出るくらいって…隣の人がいたら近所迷惑になっちゃうトコだったね、うはは」

 セイガの家は住まいとなる2階建ての洋館と鍛錬の可能な平屋建ての道場、それから露天風呂からなっているが、その周辺は大きな木が一本立っているだけで、あとは麦畑が広がっているのみなのだ。

「確かに、鍛錬するにはいい場所だね…助かっている」

「私は近くに誰かが生活する音があった方が落ち着くかなぁ……あ、逆に防音ってくらい凄く静かな場所も欲しくなるけど」

 ユメカの家は学園(スクール)に程近く、比較的民家が集まっている区域だ。

 そして学園というのは…

「今日はいよいよ学園に集まる日、だね」

 この世界の人々がよりよい交流を持つために講義や戦闘訓練を教える場所であり

 そして

「ああ…出来るだけ全部の説明をしなくちゃいけないよな」

 世界の一部の管理権限を持つ者たちの組織でもあるのだ。

 今日は、そこの学園長から呼び出しを受けたため、ふたりはまず集まった。

 これからどうするべきか、

 そしてふたりはどうしたいのか…それを決めなければならない。

 それにはまず… 


「ところで今日の服は…何やら不思議な柄だね…これは?」

 セイガは一旦話題を変える。 

 ユメカの上着、ジャケットには星や銀河の渦がデザインされていた。

 見ると髪留めなどの小物もロケットや怪しい生命体などをあしらっている。

「へへぇ♪…コズミックな感じでいいでしょ☆」

「ああ、ユメカに似合ってる……可愛いと思う」

 照れながらも言い切った、ユメカは楽しそうにこちらを見返してきている。

 ちなみにコズミックの意味は分からなかったので、セイガは『世界構成力』で自分の世界での認識をしてみる…なるほど宇宙か…

 この世界には多種多様な人々が暮らしており、文化や常識のみならず物理法則まで食い違いがある…

 『世界構成力』はそうした違いを埋め、それぞれの世界の存在を実現させる能力であり、生活だけではなく様々な用途で必要な力だった。

「さて…まだ少しだけ時間があるから…」

 まだ剣を出したままなのを思い出し、収めながらセイガ

「もう一回…しておきたいんだ」

 真面目な表情でユメカをみつめた。

「うん……いいよ」

 ユメカも柔らかく微笑む。

 そしてふたりは2階のセイガの寝室に向かう…

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