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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幼馴染に関するお話

ヒロインの座を奪われた幼馴染は現実の世界で幸せになる

作者: 柊 風水

幼馴染シリーズ最終話。

 私の人生は普通で面白味がない人生だ。


 特別な能力も力もない。魔法や超能力も空想の世界。それが私の人生だった。


 


 


 そんな私にも一つだけ自慢出来る物がある。


 それは幼馴染の志原(しはら)蓮夜(はすや)だ。


 彼は泣き虫だった私がいじめられている度に助けてくれて、何時も私の側にいてくれた私だけのヒーローだ。


 そして成長するにつれて段々とオシャレになってカッコ良くなって他の女の子達にもその性格とかっこよさに気付いてきたから私としては毎日が気が気じゃない。

 牽制する為に毎日腕を組んで登下校して仲良しアピールする毎日だ。


 


 


「ねえねえ! 昨日のバラエティ見た? 蓮也の好きな芸人が出てたよね?」

「あーそうだなぁ。と言うかそろそろ離れろ。暑苦しくて堪らんわ」

「えーこうやってラブラブアピールしないと蓮也カッコ良いから他の可愛い子に取られちゃうもん」

「いや、俺はカッコよくないしどっちかって言うと……ほらお前のクラスに着いたから此処でお別れだ。今日は俺は委員会が遅くまであるから待たずに帰れ」

「え〜……分かった」


 


 渋々と腕から離れた私を呆れたように笑った蓮也がポンと私の頭に置いて撫でてくれた。


「偶には友達と帰ってやれよ。アイツ等何時も藍奈(あいな)を独占する俺にやっかむからな」


 それだけ言うと蓮也はヒラヒラと後ろから手を振って自分のクラスに去っていく。

 その背中が見えなくなるまで見ていた私は、ダッシュで教室に入ってふじのんとまりっちに気持ちを抑えきれずに興奮しながら報告したのだ。


「見た見た見た見た‼︎⁇ 蓮也君の無自覚イケメンブーム!! 」

「はいはい。見ました見ました」

「相変わらず志原が好きねぇーあんなモブ男の何処か良いのやら」

「蓮也君の良い所を話すなら一日は潰れるけど?」

「お断りする」

「お断りするわ」 


 異口同音に断る親友達に若干不満を持ったが、それでも昨日のドラマの話になるとそんな不満は吹き飛んだ。

 盛り上がっている私達に話しかけて来たのは同じクラスのあまり会話する事がない女子だ。


「あの......七日日(なのかにち)さん。三組の子知ってる?」

「えっ? またあの『真似っ子』がアイの見た目を真似たの⁉︎」

「その......昨日探していた髪ゴムを今日彼女も付けていたから......いや、もしかしたら同じ物をお店に探して買ったかもしれないけど、昨日は私の近くで聴いていたし、その......」

「はぁ⁉︎ あの女、遂に盗みまでやらかした訳‼︎⁇」


 


 


 


 


 


 

 一ヶ月前に三組に転校して来た子がいた。その子はどうしてか私の見た目を真似する様になった。


 彼女の顔見知りになった次の日には私の髪色と同じ藍色が混じった黒髪に染めた。(彼女の髪は茶髪だった。私は何方かと言えば茶髪が良いのだが)


 翌週は私と同じサイドを三つ編みで結ぶ髪型をしていた。態々私と同じ髪の長さまで髪を切り揃えての上でだ。


 そのまた翌週は私の鞄のキーホルダーまでもそっくりそのまま着けてたのを見た時は、流石に私もゾッとした。だって、今は入手困難となったゲーセンのキーホルダーまであったのだから。もしかしてわざわざフリマアプリで探して買ったの?


 ここまで真似をされたら偶然とは言えなくなる。そりゃあテレビとかSNSとかに出ている可愛い女の子の真似をするのならまだ分かるが、私はただの一般人だ。それに自分で言うのもあれだが、特別可愛い訳でも逆に不細工な訳でもない。しかも殆ど話しかけた事がないのにコピーした様にそっくりそのまま見た目を真似をするから、ホラー映画の登場人物になった様な気分で本当に恐いのだ。


 


 

「あの女もう我慢出来ない! もう一回締め上げよう‼︎ 今度は私の部活の先輩も一緒に説教するのに協力するって‼︎」

「や、止めてよ......そんな事したら、ふじのんの部活が停止しちゃうよ......」

「それにあのイカレ女に何を言っても馬の耳に念仏、糠に釘よ」


 あんまりにも真似をするのが恐くって一度ふじのんとまりっちに連れ添って貰って、彼女に私の真似をするのは止めて欲しいと頼んだ事があった。

 だけどあの時の彼女は全く耳を貸してくれなかった。それ所か。


『貴女が私の真似をするのを止めたら?』


 

 とキッパリと言われてしまった。


 流石に私も唖然としてしまったし、短気なふじのんは掴み掛からんばかりにばかりに激怒したし、そんなふじのんを止めながらまりっちは化け物を見る様な目で彼女を見ていた。


 この時まりっちの助言で人がいるお昼休みで彼女のクラスに直接出向いてこの話をしていたから、何とか穏便に済ませた私の味方になってくれる人が増えた。


 学校の方も私達の事を報告してくれた人達がいたのか、それぞれ事情聴取をしてくれた。勿論学校も私の方の味方で、彼女は学校のカウンセラーさんのカウンセリングを受ける事となったが、そのカウンセラーさんも『精神科への受診を勧める』と匙を投げられてしまう程、かなり可笑しな事を言っていた。


 曰く、「私こそがヒロインなのに偽物がいる。このままでは世界を救うヒロインになれない!」と一貫としてそう主張している。因みに偽物というのは勿論私の事だ。

 まりっちは「厨二病を拗らせに拗らせた馬鹿」と言うが、どうもその一言では片付けられない何かが有る様な気がする。それ位の迫力を感じるのだ。


 それでも私の格好の真似をされるのは物凄い不快だ。


 


 


 


 

「もうヤバいって! 盗みまでやらかすとかもう犯罪じゃん!」

「いや盗みをした証拠もないし......偶々同じのを見つけて買っただけとか......」

「それにしてはアイが無くしたタイミングとアレが同じのを着けて来たタイミングとか偶然にしては出来過ぎじゃない? ......先生に報告しましょう」

「う〜ん。証拠がないからもうちょっと様子見しよう? もしかしたら冤罪かもしれないし......それにあんまり大事(おおごと)になって保護者を呼ばれるのはちょっと......」

「あ〜 アイツの親ねぇ。何であんなマトモな親からあんなヤバい奴になったんだろうな?」





 彼女がカウンセリングを受け始めた辺りで一度だけ保護者を交えた話し合いをした事があったのだが、彼女の両親はずっと低姿勢で謝ってて、全く反省の色がない彼女を叱り飛ばしたり諭そうとしたりしていた。

 私の両親はそんな二人を見て、彼女の両親の育て方が悪かったんじゃなくて、彼女自身に問題がある事を理解してくれた。

 そもそも彼女は三人姉妹の真ん中で、お姉さんはアメリカの大学に通っているし、歳の離れた妹ちゃんと同じ幼稚園に弟君を通わせている同級生の話だと、可愛くて友達と仲良く遊べる優しい子らしい。つまりあの両親の育て方が悪かったと言う訳じゃなさそうだ。



「兎も角、今日一日だけ様子を見て何か進展があったのなら先生に言ってみるよ」

「......アイがそうなら部外者の私達が言う事はないけど、なるべく早く報告した方が良いわよ?」


















 ーーー放課後



 蓮也君と一緒に帰らない放課後は、ふじのんとまりっちと一緒に帰るのだが、ふじのんは大事な試合が近い為追い込み練習、まりっちはお家の事情で結局一人で帰る羽目に。面白くないのでコンビニでお菓子を買って家でやけ食いをしようかと考えていた時だった。



「あれ? 藍奈か?」


 振り返ると私に話しかけてきたのは従兄弟のラミト(にぃ)。ラミト兄が兄弟の中で末っ子で親戚の最年少である私の事を実の妹の様に可愛がってくれるので親戚の中で大好きな人だ。でも確かラミト兄の大学も住んでいる家も(なんと大学生なのに自分の持ち家を買ってDIYをして綺麗にしたとか!)此処じゃないのに何でいるんだろう?




「ラミト兄、何で此処にいるの? ラミト兄の家と大学ここら辺じゃないよね?」

「ちょっと買い物をしていてよぉ。店の場所が分からなくて困っていた所に藍奈を見つけた訳」

「買い物? 何を買うの?」

久美子(くみこ)には世話になっているからアイツが買うのを悩んでいたワンピースをプレゼントしようと思って。そのワンピースが売ってる専門店を探しているんだけど、地図を見ても分からなくて困っていた所」


 久美子ちゃんはラミト兄の家で居候しているお姉さんで、最近特別養子縁組になって私の新しい従姉妹になったお姉さんだ。最初に会った時は男の格好で名前も男の名前だったから女の人だとは分からなかったけど、どうやら久美子ちゃんの実の両親から男の様に振る舞わないと酷い虐待を受けていて、ラミト兄が久美子ちゃんを助けて一緒に暮らす様になったとか。


 因みに久美子ちゃんの血の繋がった両親は久美子ちゃんが出て行った後にヤバい事件に巻き込まれて父親は議員辞職と余罪が見つかって逮捕、母親は世間からのバッシングから身を守る為に山奥の一軒家に引っ越したとか。

 後、その原因を作った久美子ちゃんの異母兄に当たる人が執行猶予無しの懲役刑を受けて、何十年も刑務所暮らしになったのをニュースで知った。


 それを転機に呪縛から解かれた久美子ちゃんは女の子のオシャレをする様になった。


「それでこの店なんだけど、藍奈分かる?」

「え〜......このお店、真反対にあるんだけど?」


 ラミト兄の目的のお店は住宅街の反対側にある繁華街の丁度入り口にあるビルにあるお店だ。一体何処を見たらこんな所まで来るのやら。



「えっ⁉︎ ............マジだ」

「も〜道案内してあげるから何か奢ってよね」

「ごめんごめん。ついでに小物も良いのがあったら買う予定だから藍奈も一緒に探してくれるか?」

「勿論! 久美子ちゃんの為なら幾らでも協力するね!」













 ーーー次の日




 あの後目的の服屋に辿り着いた私達(幸運な事に繁華街に入って直ぐだった)はお目当てのワンピースとそれに合うアクセサリー等の小物を買う事が出来た。プレゼントを貰った久美子ちゃんは子供の様にはしゃいで嬉しそうに何度も私達にお礼を言って本当に買い物して良かったと心底嬉しく思えた。


 そう言えばラミト兄の家の周辺地域が再開発が進んでいるのか人の出入りとか多くなってきた。

 それに何か巫女さんとか神主さんとかお坊さんとかラミト兄の家に出入りしているみたいだし、ワンピースをプレゼントした日もスーツ姿の男の人と女の人が沢山来て何でかラミト兄に泣いて土下座して感謝されていた。


 久美子ちゃんに理由を聞いたら「アイツがスペクトロフィリアになったお陰で周りの影響が無くなった事に感謝されているんだよ」と言われたけど、スペク? なんちゃらの意味が分からないくって頭に? を浮かべるしかなかった。


 ただ、今はそんな事に頭を悩ませている暇はない。


 今の絶賛のお悩みは()()()()()()()()()()()()()()()()



 朝に蓮也君の家に迎えに行ったら先に出て行ったとおばさんに言われ、学校にいても明らかに私を避けていて顔を見る事も出来なかった。放課後、蓮也君のクラスにダッシュで向かうが、蓮也君の姿がなかった。


 まりっちは「一人の時間が欲しくなる時があるのよ」と慰められ、ふじのんが「私が明日とっちめてやる」と怒ってくれた(暴力沙汰になるのは止めたけど)


 ただ、まりっちに言われた言葉には少々ショックを受けた。確かに恋人同士じゃないのにあんまりにもベタベタし過ぎたったのかもしれない。......もしかして他に好きな人が出来た?





「............え〜い! 悩んでも仕方が無い‼︎ こうなったら今日中に蓮也に会って告白をっ」


『しよう』と続けようとした時だった。




 目が眩む程の眩しい光が突然踊り場の階段で光りだし、私の足元にアニメや漫画で見た事がある様な紋章がどう言う原理なのか分からないが浮かび始めたのだ。


 突然の事に私は混乱したが。







 ()()()()()()()()()()()()()()、階段から突き落とされた。頭から落ちた私が意識が遠ざかる時に最後に見たのは悍ましい笑顔で目を爛々と輝かせて光を見ていた彼女だった。

























 目が覚めるとそこはギリシャ神話の様な神殿だった。


 痛む頭に眉間を皺を寄せながら周りを見回すと。



『大丈夫ですか?』


 心配そうに私に声を掛けてきた人がいた。声がした方を見るとヴェールを被った女の人が側にいたのだ。ヴェールで隠しているので顔が見えないが、声から私の事を心底心配している事が分かる。


 私は大丈夫だと言い、此処は何処で貴女は誰か、何故私はこんな所にいるのかと質問した。


『私はとある世界で女神をしている者です。そして此処は私の暮らす神界。貴女を此処に呼んだのは私が見守る世界の危機を救って貰う......筈でした(・・・・)

「『筈でした』?」




 女神様曰く、女神様が治める世界で魔王(分かり易く言うとウイルスの様な存在)が現れた。現地民で対処しようにも魔王は強く、このままでは世界が滅びそうになった。やむを得ずに魔王(ウイルス)を倒す救世主(特効薬)を異世界から召喚する事になった。その救世主が私の事らしい。



『勿論、魔王を撃ち倒したら元の世界に戻しますし、時間も召喚された時の時間に戻します。望めば私の世界に残る事も出来ますが......兎も角、私は貴女を召喚する筈でしたが』

「彼女が邪魔をした」


 女神様は深刻な様子で頭を縦に振る。



『どうやら彼女は別の世界の記憶を持って産まれた人間でした。別の世界では貴女が救世主となって世界を救う話がげーむ? として遊戯話の一つに存在しました。彼女はその話の狂信者で、そのゲームのヒロインになる事を夢見てました。そして彼女は夢見たまま死に、生まれ変わった。本来ならば前の世界の記憶は全て消去される筈が、彼女の『願い』はあまりにも強すぎた。それが影響してこの世界に生まれ変わったのです』

「それじゃあ彼女がずっと私の姿を真似し続けていたのは......」

『彼女曰く、貴女から『ヒロインの座』を奪う為です』


 何という執念だろう。本当に現れるのか分からない様な異世界召喚を私から奪う為に周りになんと言われようが私の姿を真似続けた。..................もしかして私の事を監視していたの?



「でも、彼女が私の代わりに救世主として召喚されたのなら、女神様の世界の問題も解決するんじゃあ......」

『いいえ。逆に状況は悪化しているのです』



 彼女は召喚された世界で召喚された先の見目麗しい高貴な立場の人達を侍らす様になり、全く魔王退治をする気はなかった。現地の彼等はなんとか彼女を宥め煽てて魔王退治の旅を進めていた。

 しかし、その歩みは亀の歩みと同じ位遅く、しかも本来の救世主ではなく異物の存在である彼女は世界で悪影響を呼んで逆に彼女の存在で魔王の力を増大してしまった。


『このままでは私の見守っていた世界が滅ぶだけではなく、他の世界にも侵略してしまいます。本来の救世主である貴女に世界を救って欲しいのです‼︎ 勿論戦う事になりますから守る為の加護や戦う為の加護を私が持てる力全て使って与えます! だからどうか、どうか......』




 私の様な平凡な人間に深々と頭を下げる女神様。その誠意ある姿に絆され、彼女の不始末にほんのちょびっと責任感を感じた私は受ける覚悟が出来たのだ。だけど不安な事が一つある。


「あの......私、元の世界に戻れますか?」

『勿論です‼︎ ただ、予期せぬ邪魔が入ったので召喚された直後に戻る事が出来ませんが......それでも十年や何十年先にはなりません。私の力を以てすれば一年後に......絶対に戻せます』

「一年後ーーーーーーー分かりました。その依頼を受けます」


 その間、パパやママ、ふじのんやまりっち、蓮也君のおじさん・おばさん、蓮也君に心配されるな。もしかしたらその間に別の可愛い子と付き合っちゃうかも。それならそれで運命だと諦めるしかないよね。























 私は何とか半年を掛けて魔王を討伐する事が出来たのだ。無論、苦難が多い旅だったが、それでも仲間や女神様の加護のお陰で魔王を退治する事が出来たのだ。


 そして、彼女と再会したら平手打ちを一つ打ちかましてやろうと思ったが、何と彼女は魔王と融合(・・・・・)してしまい、魔王はパワーアップしてしまった。どうやら魔王と彼女との相性は本当に最悪な程合っていた様で、かなりの苦戦を強いられる事となったが、それでも仲間や女神様の力を私に託されて全ての力を出し切って打ち勝つ事が出来た。


 魔王はそのまま消滅したが、融合した彼女はギリギリ人の形を保つ事しか出来なかった。彼女は元の世界に追放される処分を受ける事となったが、一応身体が元に戻るまで女神様が預かる事となった。一応一緒に旅をした人達が看病する事も出来るのは出来るのだが、誰も手を挙げることはなく、汚物を見る様な目で嫌悪していた。(美形の嫌悪の表情はこっちに向けられていなくても心がギュッとなる)


 そして私は、最初に約束した通りに元の世界に帰った。仲間達から物凄く惜しまれはしたけど、私の意思を尊重してくれて泣き笑いながら別れの挨拶が出来た。


 そして。あの時の様に眩しい光に目が眩んだ。そしてもう一度目を開けると。














「ーーーー藍奈? ......目が覚めたのか藍奈‼︎」





 涙で顔がグシャグシャになった蓮也君が側にいた。






 私は彼女に突き落とされて一年間、意識不明の状態で入院していた。如何やら私は魂の状態で異世界に召喚されていた様だ。

 私が眠っていた間、蓮也君は毎日の様に見舞いに来て付きっきりで看病してくれた。しかも、私の為に留年までしたのだ。


 勿論、留年する事に周りは反対したが、『藍奈が目が覚めてもう一度学校に通ったとしても、俺がいなかったら悲しむだろうから』と反対を押し切った。

 あまりにも蓮也君の意志が強いから結局周りもその意志を尊重してくれた。ちなみにまりっちやふじのんも留年すると言い張ったが、「俺は半分罪滅ぼしだから。お前達も一緒に留年したら藍奈が罪悪感を持つ」と説得して止めさせたと後に見舞いに来てくれた二人から聞かされた。





『罪滅ぼし』は何だと言うと、あの日蓮也君が私を避けていた理由だった。


「あの女が俺にお前とお前の従兄弟のお兄さんが繁華街の入り口に入る姿が撮られた写真を見せられた」

「えっ⁉︎」



「勿論、お前が入院したその日に従兄のお兄さんが病院に来て事情を全て話してくれたから誤解だと言う事は分かっている。それでも、あの時の俺は頭がこんがらがっていて、『あんなにも俺の事好き好きアピールをしていたのに嘘だったのか』『本当は俺の様子をからかっていたのか』とか嫌な考えが頭を占めていて、お前の顔を見たら酷い事を言いそうだったから避けてたんだ。......本当にどうかしていたよ。手を組んでいた訳じゃないし繁華街の入り口前で写真は撮られていただけだし、お前の親友二人から『あんなにもアンタに惚れていたのに信用していなかったのか‼︎』て、ブチ切れられて鉄拳制裁を加えられて、やっと目が覚めた。そもそも写真を見せてきた奴がお前の見た目を真似て、しかも突き飛ばした犯人だったしな」


「そうだったんだ」


 多分、蓮也君に私が浮気した様に細工したのは、彼女の生まれ変わる前の世界での物語が『好きな人に振られたヒロインが落ち込みながらも元来の性格で明るく奮い立たせていた所を異世界に召喚される』と言う始まりで物語が始まるから、その通りにする為にわざと蓮也君にそんな物を見せたんだ。......と言うか次の日に前日の写真を蓮也君に撮って見せたと言うことは、本当に私の帰り道をストーカーの如く監視していたのが確定した。




 私が目が覚める丁度半月前に彼女は元の世界に戻されていた。しかも日本じゃなく海外の日系人が多い地域に戻されて強制送還されて日本の空港に着いて直ぐに捕まった。彼女は海外で酷い目に遭ったのか、前から肩から腰に斜めに斬られた様な大きな傷痕や片足に重い障害が残っていた。............恐らく私が魔王を斬った時の痕だな。女神様が綺麗に治さなかったのは引っ掻き回した彼女への仕置きとして治さなかったのかも。


 そして日本に戻されて、獄中から聞かされたのは......


「えっ‼︎⁇ 彼女の両親が事故で亡くなった⁉︎」

「ああ。お前を殺し掛けた挙句に逃げたから、世間や周りから酷いバッシングを受けて、しかも前から問題を起こしてばかりだったせいでノイローゼが悪化したみたいだ。警察は『もしかしたら引っ越す前の土地にいるかも』と思った二人は引っ越す前の土地に猛スピードで車を走らせて、カーブを曲がり切れずにそのまま......て事になっているけど、もしかしたら............」



 両親が亡くなり、幼い妹さんは一番上のお姉さんの養子として海外に移住する事になった。そして彼女とは姉妹揃って縁を切った。法律上も赤の他人なる為に色々とお姉さんは動いたらしい。


 結局一人ぼっちになった彼女は罪を償った後は、お姉さんの伝手で住み込みの肉体労働に勤めさせる予定だ。そこでお姉さんが肩代わりした私への莫大な慰謝料を返済させる為に朝から晩まで働かせる予定だ。ママ達の話ではお姉さんは海外でかなり稼いでいるらしく、私用の通帳には0の数が見た事が無い程沢山刻まれていたとか。あれを全て返済するには定年退職する位の歳になるかどうか位の金額で、正直通帳を見る勇気は私にはない。







「アイツのお姉さんと妹さんを最後に見たけど、お姉さんは顔色が青白くなって身体も痩せ細っていて、妹さんも可哀想な程泣いていたよ。......多分お姉さんの旦那さんらしき外国人の男の人が二人を気にかけていた」

「..................そう」









 彼女の家族は皆優しい人だし、周りだって彼女が問題行動を起こさなければきっと良好な人間関係を築けた筈。それなのに結果として両親は亡くなり、実の姉や妹達から絶縁され、周りは去って行き一人ぼっちになった。


 そして願い通りに大好きだった物語の世界に辿り着いた筈なのに、自分の好き勝手にして周りを顧みなかった結果、自分が大好きな物語に、自分の大好きな人達に嫌われた。




 ーーーーーー何もかもが無くなった彼女は獄中で一人、何を思っているのだろう。





















 あれから私は辛いリハビリを耐えて退院する事が出来た。学校に復学する頃には同級生は皆先輩になってしまったけど、私が戻って来た事に全員喜んでくれた。そして後輩から同級生になった子達とは、最初は他所他所しかったけど、徐々に仲良くなれた。留年した事は将来のハンデになるかもしれないけど、もう一度修学旅行に行けたり一度勉強してあったからほんの少しの間知識チート擬きを蓮也君と体験する事が出来たり中々楽しい日々を送れた。




 そして私達は高校を卒業して、其々別の大学に入る事を切っ掛けに同棲を始め、社会人となって就職をした事を切っ掛けに結婚した。

























「藍奈、離れるなよ。外国で迷子になったら大変だからな」

「もー。心配し過ぎだよ。蓮也君、おチビちゃん達を抱えているんだから態々手を繋いで歩く事はないじゃん」

「馬鹿言え。取引相手の佐原さんのお宅にお邪魔するんだ。お前が迷子になったら相手にご迷惑をかけるからな」



 あれから過保護になった蓮也君は知らない土地に行く度にこうやって手を繋いで離さなくなった。例えば生まれたばかりの双子ちゃんを抱っこ紐で抱えて、繋いでいない手にお兄ちゃんの手をしっかりと繋いでいたとしてもだ。だから私は手を繋がれた手と逆の方に持っていた荷物を抱え直した時だった。





「えっ?」





 彼女と似た様な人を見つけた。その人は顔を日焼けで真っ黒にさせて女の人なのに建物の建設工事をしていた。如何やらあれは日本の建設会社がマレーシアで出張して建設しているみたいだ。

 その人は現場監督らしき人に何度も怒鳴られ、同僚達から冷たい目で見られていた。如何やらそこまで有能な人では無いようだ。

 その顔は疲れきっていて、遠目ではあるがその眼は『如何してこんな目にあうんだ、夢なら覚めてくれ』と言っている様に見えた。




「ママ?」

「如何した? 何かいたのか?」


 私の事を心配そうに見ている私の愛する子供と夫。







「..................ん〜ん。何でもない」








 そして私は老衰で死ぬまでに現実の世界で幸せに暮らしたのであった。

幼馴染二人の名前が第一作の幼馴染二人の名前と似ているのはあえてです。



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― 新着の感想 ―
[一言] ラト兄と久美子ちゃんは別作品のやつかな、特別養子って事はこの二人はくっつかないわけか あの調子で近所の霊場を浄化しまくってるのかw 最後に出てきた主人公の子供の双子と息子は、成仏したあの子…
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