僕の婚約者は地味で不器用、それが格好の餌食
僕には子供の頃からの婚約者がいる。
政略的な婚約だった。
遠方が理由で会ってもいなくても、特に何とも思っていなかった。
学園で初めて出会った時、ゾクッとした。
伏し目がちな自信の無さそうな態度。
制服なのに何故か野暮ったい格好。
隠れているが、磨けば光る整った顔立ち。
泣かせてやりたい。
もっと自信を失った卑屈な表情が見たい。
そうして僕の人形になれば良い。
でも僕自身が傷つけるのは美学に反する。
学園の女子生徒を使う。
「せっかくだから、皆でやってみよう。
どうしても嫌な人は断ってくれて構わないよ」
彼女が苦手な事を提案する。
「君もやらないか?」
「申し訳ありませんが、お断りします」
断られる事もある。
でも、
「何、あの態度。
あんな地味女に態々こっちから誘ってあげてるのに」
思い通りに動いてくれる女子生徒。
今だけじゃなく折に触れて、態々聞こえるように彼女に言ってきてくれる。
「皆でやってみよう。
嫌な人は断ってくれて構わないよ」
「君もやらないか?」
また同じ状況を作る。
「私は不器用ですから、皆様にご迷惑をおかけしてしまうでしょう」
今度は婉曲に断ってきた。
出来上がりを見ると、彼女が手掛けた所だけ、明らかに出来が悪い。
「……誰しも不得意な事はありますわよ、大丈夫ですわ」
「大丈夫。そんなに目立たないって」
唇を引き結び、俯く彼女。
そう、それが見たかった。
教室を出ていく彼女。
「何、勝手に被害者、気取ってるの?
嫌なら、嫌って言えばいいだけでしょう」
きっと彼女にも聞こえているだろう。
思い通りに動いてくれる女子生徒。
そう、そうやって彼女を追い詰めて。
嫌だと断れば、生意気、協調性に問題があると言われ。
無理して受け入れれば、被害者気取り呼ばわり。
彼女を八方塞がりな状況に追い込んでる事に、この子達は気が付かないのかな。
僕には好都合。
なのに。
「婚約解消?」
「大丈夫よ。
爵位は貴方のものだわ」
そういう事じゃないんだ。
~~~
あれから、彼女を捕まえる事は出来なかった。
ごくわずかな優秀者が配属される国立研究機関に、実力を認められて配属される事になった彼女。
遠くから眺める事しか出来なくなった。
何より耐え難かったのは、彼女が生き生きとしている事だった。
君は卑屈な目をしている時が美しいのに。
貴族という身分のために、彼女ではない人と結婚しなくてはならなかった。
学園で僕の思い通りになっていた女子生徒。
考えが浅はかで、自分が自己中心的な事も気付かない、つまらない女。
ただ、爵位が釣り合っていた。
娘が生まれたが、何故か離縁を切り出された。
しかも、もう娘とは関わってくれるなと言う。
別の女性と結婚するもすぐに出ていかれた。
母も亡くなり、ずっと一人きりだ。
学園では、あんなに何もかも思い通りだったのに、卒業してからは、何も上手くいかない。
領地経営も、僕が手を出すと上手くいかないから、全て執事任せにしている。
時折呆れたような目でこちらを見る執事。
引退を勧められた。
元婚約者で従妹の彼女の子供が継げば問題ないと言う。
彼女は、研究者として名を揚げながら、やはり研究者として知られた男と結婚し、子供にも恵まれていた。
何故だ。
君は僕より劣った者ではなかったのか。
僕より劣っているからこその美しさではなかったのか。
久しぶりに会った彼女は、歳こそ重ねているものの、美しく自信に満ち溢れていた。
居た堪れなくて、引継ぎもそこそこに、長年親しんだはずの邸を後にする。
何処をどう歩いたのか、気づけば場末の酒場で飲んだくれていた。
店を後にし、フラフラ歩く。
突然、後頭部に衝撃を受けた。
「馬鹿!やり過ぎだ!」
「やべえ!」
「逃げるぞ!」
こんな所で、僕は終わるのか。
学園で思い通りだった僕は優秀ではなかったのか。
僕の人生は一体何だったんだ……
読んで下さってありがとうございます。
無関係な気分悪くなった方、ごめんなさい。
前作「私の婚約者は明るくて人気者、でも彼の提案が私を傷つけるhttps://ncode.syosetu.com/n5465if/」に
>「なに、勝手に被害者ヅラしているの?
>自分は嫌なら、嫌って言えばいいだけじゃん」
>集団のリーダーは、あくまで、『自分がやりたい事をやるため』に、リーダーやってんだよ
>少数派の察してちゃんを思いやるために、めんどくさいリーダーを引き受けているんじゃないよ
という感想がありまして(もう消しました)
この話を書くことにしてしまいました。