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閑話 ドラグノスの誓い

娘が生まれて早数ヶ月、早く披露目の宴を開きたいものだ。

その前に国民達へ娘の誕生を報告せねば。きっと祝福してくれよう。

娘はこれから多くの物事に触れ、美しく成長していくだろう。

母に似た子だ、それはもう全てが霞んで見える程の美しさとなろう。

その為にも、いや娘が健やかな成長の為にも王として父として国を豊かに平和を保たねばならない。

窓の外を見ると、中庭を散歩する娘達の姿が見えた。

どうやら楽しんでいるようだな、と遠目から見える愛娘の笑顔に自然と顔が綻ぶ。


(いつか、自分と娘とあの子の母と並んで美しい中庭の散歩をしてみたいものだ)


叶えたい願いを胸に今はまだあの子に会わせる事が出来ない愛しい妻を思い出す。


コンコン…

そんな時、扉を叩く音と兵士の声が部屋に響いた。


「陛下、狼王国より使者が参りました。何やら急ぎの用向きとの事で…」

「…通せ」


狼王国から来たという使者は膝を着き、深々と頭を下げる。


「お目通り感謝いたします、龍王陛下ドラグノス様。私は狼王国の王ウォールド様の命でこの書状をお届けに参りました。どうかお受け取りを…」


使者からの書状を受け取り広げると、そこには見たくもない言葉が綴られていた。


“戦争”


また、争いが起きるというのか…この龍王国でさえようやく民も落ち着いて来たところだというのに…

長きに渡り、幾度となく繰り返された戦を龍・狼・鳥の国が一丸となって食い止め、民の安寧のためにと多くの兵士たちが血を流してきた。

かつて、自身が経験した戦の悲惨さを思い出し、苦しみを表すように手に力が入ったのか持っていた書状がクシャリと音を立ててシワを寄せた。


「人族と獣族は未来永劫手を取り合う事は出来ぬのだろうか…」


元々、世界は一つであったと言われている。人と獣は互いに互いを支え合っていた。

しかし、いつかの時代に人は獣を見捨て人だけの国を築いた。


獣は人の裏切りに怒り、獣だけの国を築いた。後に人と獣は互いを嫌悪し争う様になったのだという。

人は何故獣を見捨てたのか、何が人をそうさせたのかは未だ解明されていない歴史上の謎とされている。


フゥ、と息を吐き再び書状に目を下ろす。と、そこには気になる文が記されていた。


“フィラルシェーラ王女殿下の生誕祭の折、の祝い品を持参の上、龍王国を訪問する”


「使者殿、我が娘の祝いとあるが…まさか、ウォールド王自ら龍王国へ来られるのか?」

「はい、その通りで御座います。」


なんと、あの狼王ウォールドが自らこの龍王国へ?


「しかし、ウォールド王は大の赤子嫌いであったはず。」


そう、ウォールドは大の赤子嫌い。いつか自らの王位を跡取りへ譲らねばならぬ立場だと言うのに、赤子嫌いという理由だけで正妻を娶るどころか見合いすらしないと聞く。巷では赤子が近付けば癇癪を起こし殺してしまうという噂まである。


そんな相手に我が愛しの愛娘を会わせることなど出来ようか…


それに、戦争と娘に何の関係があるというのだ…


「龍王様の仰る通り、我らが王ウォールド様は赤子嫌い。正確に申せば子供が嫌いです。しかし、これは神託なのです。神託は“龍王国に生まれし姫に会え”と言うもの。どの様な意味があっての神託かは未だ分かっておりません…しかし…」

「神託は国を築いた神の数少ない言葉であり助言。必ず何かしらの意味がある、か。」

「はい、神託ということもありこの件はすでにウォールド様もご承諾済みでございます。」

「承知した。承諾の書状を記す故、しばし待て。」



狼王国の使者へ返書を渡し、退室を見送る。

誰もいなくなった部屋に深いため息が木霊する。


「どれだけ力を尽くそうと、強く願おうとこの世から争いが消えることは無いのだろうな…」


外に目を向ければすでに日が傾き始めていた。

きっとフィラルシェーラは部屋に戻っている頃合いだろう。


この数ヶ月、娘は健やかに成長を続けている。

セレンやリオラからの報告では、最近与えた玩具に飽きている様だと聞いた。


戦争が起きれば自分の育った国が炎にのまれ何も残らぬ荒野と化す。

父が、祖父が、先代の王達が護り、築いて来た国が滅ぶ。

愛する者たちが一瞬で消え去ってしまう。


そんなことは何があっても阻止せねばならぬ。

我が愛する娘、フィラルシェーラのためにも!


日が傾き、赤く染まった空にドラグノスは誓うのだった。

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