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龍王の娘としての1日(3)

リオラが俺の側付きになってからあっという間に数日が経った。

やる事、というかされる事はほとんど変わらない。

でも、今日はこの世界に転生して初めて、外に出る!!

ヒャッホーィ!!…と言っても宮殿の敷地内の庭を散歩するだけどね。

リオラが側付きの騎士になったからドラグノスが「散歩程度なら」って許してくれたんだとさ。


初めての散歩。

部屋で退屈な時間を過ごしていた今の俺は外に出られたってだけでワクワクする。

にしても、広い庭だなぁ…宮殿の敷地内だから中庭って事なんだろうけど。

噴水に薔薇で鮮やかに飾られたガーデンアーチ、色とりどりの花が咲く花壇、繊細に剪定された庭木まである。


乳母車の中からまわりを見渡し、最後に空を見上げる。

青く澄み切った空には小さな雲がゆっくりと流れていく。

子供の頃、と言っても前世の頃だが、様々な形の雲を見ては「綿あめみたいだ」なんてはしゃいだ事もあった。

しかし、時が経つにつれて次第に空を見上げる事を辞めてしまった。

見上げても、どこか違うものを見ていた。

いつ以来だろうな、こんなゆったりと空を見上げたのは。


前世の俺はとにかく1日が早く過ぎる事だけを願っていた。

イジメられても耐えていれば時間は勝手に流れていく。

だから、いつの間にか下ばかり見て上を見る事なんて忘れていた。

綺麗だな…成長したら宮殿の外にも行けるかな。

行ってみたいなぁ、きっと俺の知らない事がたくさんあるんだろうなぁ!

そんな事を考えていたせいか俺の顔は徐々にニヤけ…微笑んでいた。


「姫殿下、余程散歩が嬉しいのでしょうか。お顔を綻ばせて…愛らしい。」

「そうですね。赤子であるとはいえずっとお部屋の中で過ごされていたから。」


うん、すっごく嬉しいよ!!ありがとな、二人とも!!

しばらく移動すると大理石で出来た東屋があり、そこには1人の女性が座っていた。

その女性はこちらに気付くと近付いてきた。


「あら、セレンに騎士リオラではありませんか。」


またまた初めて聞く声だ。

濃い紫色のドレスに身を包んだ女の人。

歳はセレンよりも上かな…


「これは、ヴィヴィラ様。」


セレンは女の人の名前を呟くと深く頭を下げる。

リオラもそれに習って騎士らしい仕草で頭を下げた。

セレンとリオラが深々と頭下げるってことは偉い人なのか。

ここにいるって事は宮殿の関係者、ドラグノスの知り合いか?


「あら?その子供は?」


ヴィヴィラは乳母車の存在に気付くと、自分をジッと見ている俺に視線を向けてきた。


「はい、この方はフィラルシェーラ姫殿下に在らせられます。この度、私セレンが世話役を、リオラが側付きの騎士を命ぜられました。」

「姫殿下…陛下の息女…っ?」


俺の正体を知ると目を細めて更にじっと俺を見てくる。

な…なんだよ、人の顔じろじろ見やがって…見せもんじゃねえぞっ?


「そう…この子が…彼女の…」


なんか…この人の目、嫌だな。怖いとかじゃなくて…とにかく嫌だ…。

セレン、リオラ。俺、ここにいたくねぇよ…。

早くこの人から離れたい…。


「ふぇぇぇ…っ」

「あっ、フーシャ様っ?いかがされました?ヴィヴィラ様、申し訳ございませんっ。」

「ふふ、いいのよ?私がじろじろ見てしまったからご気分を害されたのかもしれないわ。お詫び申し上げますわ、姫様。」


ヴィヴィラの視線とその場の空気に耐えられなくなった俺はどうにかしてその場を離れたい一心で声を上げた。すると、自然に涙が溢れ結果的に泣いてしまった。


「ここにいてはまた姫様の気に触るかもしれません。私はここで失礼させていただきますわ。」


そう言って、ヴィヴィラはその場からいなくなった。


「はぁ、驚きました。」

「えぇ、しかしなぜフィラルシェーラ様は急に泣き出されたのでしょう。」

「赤子は他者の心に敏感と聞きます。何か感じ取ったのかもしれませんね。ヴィヴィラ様に関しては、あまりいい噂を聞きませんから。」


え…まじかよ。俺、ちょっとやばいことした?

まさか、あのヴィヴィラって人に殺されたりしないかな…

で、でも本当に泣くつもりは無かったんだぜ?

ただあの人から離れたいって気持ちで声を出しただけで…

そしたら自然に…ポロポロと…赤ん坊だから喜怒哀楽が激しいのかも?


「ご安心ください。このリオラが、命に代えてもフィラルシェーラ様を御守りいたします故。」


おぉっ、さすがイケメン。言うこともイケメンだっ!!

と言っても、俺も俺なりに気をつけないとな…

まぁ、赤ん坊だからどうしようもないけど!!

しかし、あのヴィヴィラって人…結局何者だったんだろう。


少しの疑問を抱きながらも、不安を振り払うように服をギュっと握ってリオラ、セレンを見上げる。

2人は静かに笑みを浮かべ、名を呼んでくれる。

そんな2人の顔を見て安心したと応えるように笑みを浮かべる。

何も怖い事などない、今はただそれだけを信じる事にしたフィラルシェーラだった。

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