閑話 父親VS自称婚約者
「なぁ、良いだろ?お前の娘、俺にくれよ。」
「何度も言わせるな、絶対にお断りだ。」
寝付いてしまったフィラルシェーラをヴィヴィラ達に任せ、ドラグノスはウォールドと2人で談話室に残りこの話題に決着を付けようとしていた。
あまりにも平行線な状態が続いており、互いの王の従者達は半ばあきれ果てている。
「頑固だなぁ、異種間の婚約や結婚なんて今時珍しくねぇだろ?鳥王国なんざ人族以外の男なら種族問わず迎え入れるぞ?」
「鳥王国はそう言う風習なだけだ。私が言いたいのはだな…」
「心配すんなよ、狼の獣族は一途だからな。子供が出来ようが出来まいが生涯愛してやるって。」
ブチっ…
ドラグノスの中で何かがキレる音がした。
「貴様のその軽薄なところが気に入らんのだ!どこの女を手篭めにしたかも分からん様な男に愛娘はやらん!」
ドラグノスの言葉に今度はウォールドがキレた。
「あぁ!?言ってくれるじゃねぇか!そもそも俺は手篭めどころか女に近寄った事すらねぇんだよ!呪いのせいでなぁ!おかげでこの歳で初物だってんだよ!ナメんな!」
立ち上がる際に椅子が音をたてて倒れる。
「大体だ!俺たち狼の獣族は生涯唯一の番以外を愛さない!まぐわうのだって唯一の番とだけだわ!」
「まぐわっ…!?私の娘をその様な目で見ていたのか!いかがわしいにも程がある!」
「幼女相手にんな事考えるか!何年独り身だと思ってる、ちょっとやそっとじゃ動じる訳ねぇだろ!」
会話の趣旨がフィラルシェーラの嫁問題から性的な問題へと転化されている気がしたと従者達は感じた。しかし、すぐにでも取っ組み合いが始まりそうな空気に誰も口を出せなかった。
「…ドラグノス、お前自分が俺よりも先に結婚したからって調子に乗ってねぇか?」
「何を馬鹿な。妃を娶る事に時間をかける狼の戯言にしか聞こえんな。」
「よく言うぜ。龍は子を成す事に時間がかかる種族のくせに。」
「狼と違って龍は繊細なのだ。フィラルシェーラは私とロザリアの念願が叶ってようやく孵った子なのだ、そう簡単に手放すと思うな。」
一瞬の沈黙が部屋を満たす。
「…話にならねぇな」
「あぁ、全くだ…」
短い言葉の後、2人は距離を取る。
従者達はすぐに察した。「止めなくては!」と。
しかし、従者達が動くより先にドラグノスは剣を、ウォールドは拳を構える。
「初めからこうしていればよかったなぁ!!」
「それには同感だぁ!!」
互いの剣と拳がぶつかり合う!と思われた次の瞬間…
「一体いつまで下らぬ言い合いを続けるおつもり!?フィラルシェーラが起きてしまうでしょう!」
バンっ!!と力任せに開かれた談話室の扉からヴィヴィラが現れた。
「決闘ならば生誕祭が終わった後になさい!良いですね!?」
バンっ!!と再び力任せに扉を閉められ場の空気は一瞬で冷め切った。
さすがにドラグノスもウォールドも、従者達もポカンとするより無かった。
「…この話はまた今度にするか。」
「…あぁ、そうしてくれ。」
この騒動はヴィヴィラの龍の一声で幕を閉じたのだった。




