フィラルシェーラの力
「しかし、分からぬ事が1つだけある。何故呪印に直接触れたフィラルシェーラは呪われなかったのだ?」
「確かに、ウォールド王の仰る事が本当なら姫様は呪われてしまうということになりますが…」
「そんなの分かりきった事だろ。こいつが、聖龍の生まれ変わりだからだ。」
お茶を飲むフィラルシェーラの頭にポンと手を乗せてウォールドは答えた。
その答えに一瞬、時間が止まったかのように皆がポカンとした。
「フィラルシェーラが聖龍の生まれ変わり?誠なのか、それは…」
「何故、それがわかるのですか?」
「俺と同じだからなぁ、俺は狼王国の神獣“フェンリル”の生まれ変わりだ。」
再び時が止まった。
ただ1人、話を全く聞いていないフィラルシェーラを除いて。
(このお茶美味しい)
▽
神獣“聖龍”、邪悪を退ける力を持っていたという聖なる光の化身。
その姿を見ただけで邪悪な心すらも晴れると言われていた。
「触れられた時に分かった。こいつは俺と同じだとな…」
「確かに、それならば合点がいく。前々から疑問だったのだ、フィラルシェーラの鱗の色が私ともロザリアとも違う事に…」
ドラグノスの鱗は黒く、ロザリアの鱗は青い。
だが、フィラルシェーラの鱗は白く、所々金色が混じっている。
両親の鱗の色が混じる事はあっても全く違う色が生まれる事はない。
今は亡きドラグノスとヴィヴィラの両親も白い鱗ではなかった。
「聖龍の鱗は黄金色や白金色だったと伝えられている。ウォールドの言う事は真実なのだろう。」
「では、フィラルシェーラには邪悪を退ける力が…」
視線が一斉にフィラルシェーラに集まる。
お茶を飲み終えたフィラルシェーラは視線に気づき首を傾げた。
「なぁに?」
邪悪を退ける力、人族の男がフィラルシェーラを狙った理由はそれなのだろうか。
以前、ウォールドから届いた書状に書かれていた“戦争”と言う言葉。
それは、フィラルシェーラの力が火種になるという意味だったのだろうか。
だが、今はそんな事は関係ない。
「この子が聖龍の生まれ変わりであったとしても私とロザリアの子である事に変わりはない。」
その言葉にウォールドは「あぁ、そうかよ 」と笑みフィラルシェーラを撫でた。
▽
「ところで、ウォールドよ。先程から気になっているのだが、何故貴殿はずっとフィラルシェーラを膝の上に乗せているのだ!?私の娘だぞ!」
「いいじゃねぇか、せっかく子供に触れる様になったんだ。もう少し堪能させろ。」
そう言いながら皿の上にあるクッキーを手に取ってはフィラルシェーラの口に運ぶ。
フィラルシェーラも全く気にすることなく運ばれたクッキーを頬張る。
「いい食いっぷりだなぁ。ほれ、もっとあるぞ?」
「むぐむぐ…あーん」
「可愛い顔してんなぁ、将来は別嬪になるだろうな。」
「当たり前だ、ロザリアの子だぞ。美しい娘に育つに決まっている。」
クッキーを与える手を止めてフィラルシェーラの顔を見ながらウォールドは何かを考える様に「うーん…」と呟き、そしてフィラルシェーラを抱き上げながらガタンと立ち上がった。
「よし!決めたぜ!こいつを俺の嫁にもらう!」
ピシッ…
『はぁぁぁぁぁぁぁっ!!?』
「き…貴様!!何を言っている!!嫁!?嫁だと!?」
「あぁ、俺はこいつが気に入った!俺もいい歳だ、国で嫁探ししたって見つかるか分からねぇしな。」
「馬鹿を言うな!娘はまだ3歳だぞ!成人すらしていない娘を嫁にやれるか!」
「なら成人するまで待つさ。」
「種族が違うだろう!それに歳だって離れ過ぎだ!」
「今時、種族も年齢も関係ねぇよ。それに龍族は長命だろ?たかが数十、歳が離れてようがどうとでもなる。」
「お世継ぎはどうなさるおつもり!?」
「そうだなぁ、しばらくしたら弟にでも王位を譲るさ。弟には息子がいるし、ちょうど良いだろ?」
「い…良いわけがあるかぁぁぁぁぁっ!!!!」
クッキーの食べ過ぎで満腹になったフィラルシェーラはウォールドの腕の中で寝息を立てていた。後に“子供嫌いの狼王をタラし込んだ娘”として有名になるのだがそれはまた別のお話。