狼王の呪い
王宮の談話室。ドラグノスが団長達を引き連れて戻ってきた。
「陛下、捕らえた者は…?」
「うむ、やはり人族であった。今は地下牢に拘束してある。」
「クライド、すぐに尋問し目的を吐かせなさい。」
クライドはヴィヴィラの命令に従い談話室を去っていった。
「ウォールド、此度は本当に助かった。感謝する。」
「気にすんなよ、俺は神託に従ってこの国へ来ただけだ。その神託の意味はいまだに分かってないがな…」
ウォールドはちらりとこちらを見た。その目は何かを期待しているような、何かを恐れているような、よくわからない感情が渦巻いている様に見えた。
しかし、こちらはそれよりもすごく気になるものがある。
それは、あのフサフサの尻尾だ。
明らかにあれはフサフサ、触り心地が良いに違いない。
正直ものすごく触りたい。
(でもな…なんか尻尾の付け根に何かついてるんだよな…)
尻尾の付け根をジッと見ると黒い文字、いや記号だろうか。
とにかく何かが浮かびぐるぐると回っているのが見える。
しかも、すごく嫌な感じがしてならない。
あれはとても嫌なものだ。そう直感した。
(あぁ!だめだ!我慢できない!)
そう思いウォールドの尻尾に飛びかかり浮かんでいる“それ”に手をかけた。
「…っ!?おい!」
「フィラルシェーラ!?」
「んぅ…ぬぬっ…」
「おい!やめろ!“それ”に触れるんじゃねぇ!」
「姫様!狼王閣下から離れてください!危険です!」
周囲が止めるのを気にせずただ“それ”を引っ張る。
(大丈夫、そのまま“それ”を…壊してしまえ…)
一瞬、聖龍の声が聞こえた気がしたけれど気にせず力を入れる。
「こ…れっ…嫌…だぁぁ!!」
バキバキ…パァンっ!!
更に力を入れて引っ張ると破壊音が響き渡った。
「あうっ!」
「姫様!ご無事ですか…?」
「うん…リオラ、これ…壊れちゃった…」
そういうフィラルシェーラの手にはウォールドの尻尾の付け根についていたものがあり、次第にスゥっと消えてしまった。
「…ごめんなさい、ただ取りたかっただけなの…壊しちゃった…」
本当はただ尻尾から抜けないかと思ったのだがまさかあそこまで力が必要だとは思わなかった。
結果、思いっきり破壊してしまった。
怒られるのではと恐る恐るウォールドの方を見ると、怒るどころかポカンとしている。
「…おい…平気なのか?何ともないのか…?」
「…?」
「ヴェルディ」
「はい。」
ヴェルディは手のひらとウォールドの尻尾の付け根を念入りに調べ始めた。
▽
「調べたところ、特に問題はありませんでした。」
「そうか…」
「ウォールドよ、あれは何だったのだ?」
「あれは…呪印だよ、呪いの印。あれに触れると触れた者も同じ呪いにかかっちまう厄介な代物さ。人族との戦争があっただろ、その時に捕らえ損ねた残党がいてよ…そいつはちょっと腕のいい術者だったらしくてな…あっと言う間に呪われてた。」
「しかし、それなら何故誰にも真実を告げなかったのだ?」
「呪いってのは簡単に解けるもんじゃねぇんだよ。それにさっき言っただろ?触れるだけで呪われるってよ…身内を…民を…巻き込むわけにはいかなかった。」
「その事を知っているのは?」
「弟と一部の信頼できる家臣だけだ。そいつら以外は全員俺が子供嫌いの狂王だって思ってる。そう思わせる様に触れを出させたからな。そう言っておけば、少なくとも子供は近寄って来ないだろ?」
ウォールドは少し悲しげに視線を落とすがすぐに顔を上げてフィラルシェーラを抱き上げた。
「だが、もう誰かを呪っちまうなんて恐れる事はねぇ!神託は正しかった、こいつに会いに来て良かった!ありがとうよ!」
「…?フィーシャ、いいことしたの?」
「あぁ!最高にいい事をした!」
よくわからないが壊した事は悪いことではなかったらしい。
満面の笑みで高く抱き上げるウォールドを見て少し嬉しくなった。
「えへへ、よかったねぇ!」




