生誕祭1日目
今日は待ちに待った生誕祭当日!
セレンにドレスやメイクで着飾ってもらい準備は万端!
ちなみに今日のドレスはドラグノスからも贈り物だ。
「フィーシャ様、とてもお綺麗ですよ。」
「へへ、ありがとう。」
生誕祭は数日かけて行われる。今日は王宮に勤める人達や騎士達へのお披露目会。
ドレスルームを出ると礼服に身を包んだドラグノスとリオラが待っていた。
「フィーシャ、よく似合っている。では、参ろうか。」
「うん!」
▽
ここは謁見の間、王宮に勤める人達がそこに集まっている。
「ドラグノス龍王陛下、並びにフィラルシェーラ龍王女殿下の御成にございます。」
その場にいた全員がそれぞれ頭を下げている。
みんなやっぱりカーテシー上手だなぁ。
「皆、面を上げよ。今日より我が娘、フィラルシェーラの生誕祭が始まる。この中には娘に初めて会う者もいるだろう。まずは娘より貴殿らに挨拶をしてもらおうと思う。」
そう言ってドラグノスに降ろされたわけだが、大勢の前で何かを発表するなんて小学校以来なんですけど!
視線が一斉にこちらに集まって足が震えてきた。
助けてほしくてセレンを見ると隣を小さく指差してにこりと笑った。
隣を見るとマナーを教えてくれたマダム・アジーヌがいた。
マダム・アジーヌはしっかりと頷いてくれた。
(そうだ、あれだけ挨拶の練習もしたじゃないか。マダム・アジーヌだって褒めてくれた。自信を持て、フィラルシェーラ!)
スゥ、ハァと小さく深呼吸をしてから一歩前に出る。
「龍王国王女フィラルシェーラと申します。この度はわたくしのためにお集まりいただき深く感謝申し上げます。」
最後にカーテシーで締めくくる。
周りからは「ほぉ…」と感嘆の息が漏れる声が聞こえる。
やり切った…と顔を上げ再びマダム・アジーヌとセレンを見る。
2人とも満足気な顔で小さく頷いてくれた。
▽
自分の挨拶が終わったら今度は相手の番。
ここでは、閣僚と呼ばれる王様のドラグノスの側近や騎士団団長からの挨拶と祝いの品を受け取っていく。
大臣のノルムキクスからは肖像画、マダム・アジーヌとその夫であり勉学の講師を務めているバイゼルからは竜馬の羽で作られた羽ペンと高級そうな日記帳のセットが贈られた。
「では、次に龍王国各騎士団。前へ。」
ドラグノスの言葉に続いて一斉に人の道ができ、奥から団長達が入ってくるのが見えた。
「龍王国の新たなる星、フィラルシェーラ龍王女殿下のご生誕の日を迎えられました事を心よりお祝い申し上げます。つきましては、我々白龍騎士団からは竜馬のリザードをお贈り致します。」
ハクビの言葉の後、後ろに控えていたシーヴァは一頭の竜馬の手綱を引いて前に出てきた。
「あっ!前に乗せてもらった子だ!」
「はい、あの日以降殿下を恋しがる様に鳴くのでこの機会に是非殿下の愛竜としていただきたく。」
「ありがと!やったぁ!」
シーヴァから手綱を受け取り毛並みに顔を埋める。
「良かったな、フィーシャ。しっかり手懐けるのだぞ?」
「うん!」
一頻り撫でた後、一旦シーヴァに預けて次の団長に目を向ける。
視線の先にはバーネットが立っていた。
「俺たち、赤龍騎士団からはコレを贈るぜ。」
そう言って渡されたのは…
「卵…?」
それは少し大きな卵だった。ダチョウの卵に近い気がする。
「もしや、それはドラゴンの卵か?」
「はい、飛翔竜の卵です。」
その言葉に会場がざわついた。
「…怒られなかった?」
と、聞いたのも理由がある。あの火竜事件以降、ドラゴンの生態に興味が湧き勉学の後に趣味程度ではあるがドラゴンについてバイゼルから教わっているのだ。
その中で、飛翔竜は自分より強い相手には大人しい頭の良いドラゴンだが雌は産卵を終え卵が孵化するまでの間、本能的に気性が荒くなるのだと教わった。
それは産んだ卵や産まれる我が子を守る母性本能らしく卵を取ろうとすると相手が自分より強くても攻撃してくるのだそう。
そんな卵がここにあるという事は誰かが怪我でもしたのではないだろうか。
そう心配しながらバーネットを見上げる。
「心配ねぇよ、ソイツは飛翔竜からの贈りモンだ。」
「どういう意味?」
「赤龍騎士団の厩舎で姫さんが頭を撫でた飛翔竜がいたろ?その卵はその飛翔竜が産んだモンだ。」
バーネットが言うには、オーガとオークの集落への遠征から戻った日の翌日。
頭を撫でさせてくれたあの飛翔竜が産卵したらしい。
本来であれば卵を取られない様に守りながら孵化行動に入るがその飛翔竜は一つの卵をバーネットに自ら差し出してきたと言うのだ。
「どうやら自分の子を姫さんの愛竜にしてほしいらしいな。」
バーネットの言葉に少し胸の奥が熱くなるのを感じた。
自分の子供を預けてくれる程、信頼してくれたということなのだろうか。
そうだとしたら…それはすごく…すごく誇らしい様に思えた。
受け取った卵を潰さない様に、大切に抱きしめながら「ありがとう」と呟く。
飛翔竜の卵を柔らかいクッションが入ったバスケットに入れてセレンに預け、次の団長の前に戻る。
「姫君、我ら青龍騎士団からはこちらをお贈りいたします。」
セイガはその場から少しずれると後ろにいた騎士が水槽を持って歩み寄ってきた。
水槽に顔を近づけるとユラユラと何かが泳いでいるのが見える。
「これは牙魚種の竜魚、その中で最も美しい虹鰭の竜魚を用意いたしました。」
竜魚とは初めて聞く。そもそもドラゴンなのか魚なのか分からない。
鰭があるから魚なんだろうけど、よく見ると牙がある。
肉食の魚、ということでいいのだろうか。あとで誰かに聞いてみよう。
しかし、見ると本当に綺麗な魚だ。熱帯魚ではなく深海魚に近いかもしれない。
水槽をまじまじと眺めていると泳いでいる竜魚と一瞬目が合った気がした。
その時…
(ーーー)
何かが聞こえた様な気がした。声の様な、音の様な何かが…
「姫君、如何なされた?」
「う、ううん!何でもないよ、セイガありがとう!」
もう一度竜魚を見てみるが何も聞こえない。気のせいだったのだろうか。
気を取り直して次の団長の前に立つ。
ハクビ、バーネット、セイガと来たので次は決まってクライドだ。
「黒龍騎士団からはこちらを。盾竜の鱗と魔石で作られたアクセサリーです。フィラルシェーラ様に似合う様、特別に作らせました。」
クライドが持つトレーにはネックレス、ブレスレット、イヤリングが並んでおり全てに白く輝く石がはめ込まれていた。シンプルなデザインだが地味過ぎない子供が着けるには丁度良いアクセサリーだ。
「キレイだね…」
「ぜひ、パレードの際には身につけてそのお姿をお見せください。」
「うん!」
その後も侍従達や騎士達への挨拶を済ませその日は解散となった。
贈り物をリオラとセレンに持ってもらい部屋へ戻る。
「フィーシャ様、本日は大変ご立派でございました。」
「へへ、ありがとう。」
1日目のお祝いはトラブルも無く終える事が出来た。




