緊急会議
「ひとまず、今回の件は陛下にも相談してみよう。」
結局、魔物対策についてはバリケードの作成・設置だけで終わってしまった。
投石機やバリスタと言った見たこともない武器は流石に今の段階では作れない。
「また来るね?」
「えぇ、お待ちしておりますよ。」
「道中、お気をつけて。」
挨拶を済ませたフィラルシェーラ一行は、王都へ向けて飛翔龍で飛び立った。
▽
夕暮れ時、フィラルシェーラ達は無事王都へと帰還した。
旅の疲れが出たのか彼女は王宮に到着する前に寝入ってしまった。
リオラに部屋まで連れて行くよう命じバーネットはドラグノスのいる執務室へと向かった。
「陛下、バーネットです。」
「入れ。」
「失礼致します。赤龍騎士団一同、オーガとオークの集落視察の遠征より帰還しました。」
「ご苦労だった、フィラルシェーラはどうした?」
「旅の疲れが出たのか到着前にお眠りになったためリオラに自室へお連れするよう命じました。」
「そうか、では報告を聞こう。」
「陛下、その前にお願いがございます。至急上層部を交えた会議を開いていただけませんでしょうか。遠征の報告はそこで。」
陛下は少し訝しげに顔をしかめたがすぐに机の上にあった呼び鈴を鳴らし「すぐに閣僚達と団長達を呼べ、緊急会議を行う」と入ってきた使用人に命じてくれた。
▽
「緊急会議とは穏やかではありませんな。」
龍王国宰相 ベラルーク。
「会議を要請したのは赤龍騎士団のバーネット殿だと聞いていますが、彼は遠征から戻ったばかり。遠征先で何かあったのでしょうか。」
龍王国大臣 ノルムキクス。
「それより、フィラルシェーラ王女は無事連れ帰ったのでしょうね?」
龍王国側妃(王妃代行) ヴィヴィラ。
「まぁまぁ、まずは陛下の到着を待ちましょう。」
聖龍教会枢機卿 イスティリオ。
「わざわざ私達団長まで呼び出すなんて、何事でしょうね。」
白龍騎士団団長 “白雷姫” ハクビ。
「ふん、ろくでもない事でなければ良いが…」
青龍騎士団団長 “冷龍” セイガ。
「…」
黒龍騎士団団長 “滅魔龍” クライド。
バタン!
「皆、急な召集にも関わらずよく集まってくれた。今回は赤龍騎士団団長のバーネットより報告があるとの事だ。バーネット、早速だが報告を頼む。」
「はい、ご報告したいことは2つ程あります。まず1つ、オーガとオークの集落視察に関してです。」
集落付近に現れる魔物の数増加、それに伴うオーガとオークの人口減少。
その内容に大臣であるノルムキクスは眉根を寄せて呟いた。
「魔物の数が増加している事は聞いていたがまさか集落の人口が減る程とは…」
「対策が必要だな、バーネットよ。当事者として何か案はあるか?」
「はい、その件なのですが実は…」
▽
「ほぉ、王女殿下がその様な事を。齢3つとは到底思えませんな。」
「確かに、武器や装備が足りていない事は事実。早急な対応が必要ですわ。」
「しかし、その大砲や投石機なるものがどのようなものか分からぬのでは…」
「この件はまず娘に話を聞いてみよう。バーネット、次の報告を。」
「はい、今回の会議を開いていただいたのは2つ目の報告のためです。」
バーネットは重い口を開き、あの森で起こった事を全て話した。
話が進むにつれてあの森で見た光景が蘇るのを感じる。
「兎女の奴隷…間違いないのだな?」
「はい、全員の体に隷属印が刻まれており、首輪もつけておりました。」
「奴隷、つまり人族がこの龍王国に入り込んだ可能性がある、という事か。」
「しかし、何故奴隷を殺したのでしょう。人族は奴隷に武装させて戦わせる事もあると聞きますわ。」
確かに、人気が少ない場所とはいえあそこで奴隷を殺す理由はなかった。
だが、バーネットは知ってしまったのだ。
あの森で兎女達が殺された本当の理由を。
「…兎女達の腹が膨れていたんだ。殺された後に腹を裂かれた形跡があった。」
「バーネット団長、それはどういう事?」
「…居たんですよ。兎女の腹の中に…息絶えた赤子が…っ」
ヴィヴィラは扇で口元を隠してはいたが一気に青ざめた表情をする。
獣族は何よりも子供を尊ぶ。宿った命、生まれ落ちる命、弱く小さくも温かな命。
「…奴隷は子を宿す事を許されないと聞く。どのような理由にせよ酷い事だ…」
「バーネット様、兎女のご遺体は?」
「騎士団に安置しております。」
「それでは、聖龍教会にて丁重に埋葬致しましょう。本来ならば家族の元へ帰る事こそその者達の喜びでしょうが…」
イスティリオ卿の言葉に頭を下げる。
兎の獣族は短命な種族で決まった住処を持たないと聞く。
例え、決まった住処を持っていてもその短命さ故に一度離れれば親兄弟と再会する事は不可能に近い。
「報告は以上です…」
「うむ、ご苦労だった。赤龍騎士団にはしばし休息を与える。」
▽
会議が終わっても、部屋に戻る気にならず愛竜の飛翔竜の傍で酒をあおる。
「余程、応えたと見えるな。無理も無いが…」
「ただ兎女の死体が転がってただけならこうはならねぇよ…」
「フィラルシェーラ様はその事を知っているのか?」
「いいや、血の臭いに気絶してその前後の記憶が飛んだらしい。何も見てないし、何も言ってねぇ。言うつもりもねぇしな…」
バーネットは奴隷が嫌いだ。過去の忌々しい記憶を思い出すから。
奴隷となった者に罪は無い。罪深いのは奴隷扱いする方だ。
ただ種族が違うという理由だけで差別され迫害され弄ばれる。
それが何より気に入らない。だから嫌いだ。
「バーネット、分かっていると思うが人族が国に紛れ込んだという事は獣族に対して何か仕出かすつもりなのかもしれん。決して気を抜くなよ。」
「誰にもの言ってんだ…人族は見つけ次第、皆殺しだ…」
第2章 遠征編 完結
第3章へ続く




