飛翔竜
「姫さん…王女殿下を遠征に同行!?いくら何でも危険過ぎます!」
ドラグノスの命令に対して、バーネットは顔を上げて抗議した。
バーネットの反応はもっともだ、例え遠征でも何が起こるか分からない。
つい先程、火竜の恐ろしさを身を以て知ったからこそもっともだと思う。
そこへ3歳の子供、しかも国の王女を連れていけと言うのだ。
リオラも何を言われているのか理解することが出来ない様だ。
「バーネット、貴様達は本来首を飛ばされてもおかしくない失態を犯した。だがそんな貴様達を姫様は身を呈して庇い、この国に必要だと言ってくださったのだ。その姫様を貴様は赤龍騎士団の団長として守れないと?」
クライドの言葉にバーネットは押し黙った。
つまり、ドラグノスはこの遠征で団長として、護衛騎士として、強いては騎士団としての存在意義を示してみろと言っているのだろう。
居なくなってほしくない一心で言った言葉をそう捉えられてしまっては何も言えない。こうなったのは自分のせいでもある。だったら…
「バーネット、フィーシャも遠征に行く!」
「姫さん…良いのか?」
「フィーシャも悪いから。それに2人ともフィーシャの大事な人だから!」
「…陛下。遠征の任、謹んでお受け致します。」
「うむ、出発は明後日。それまで各々準備を怠るな。」
『はっ!!』
▽
遠征当日、フィラルシェーラは赤龍騎士団のあるドラゴンがいる厩舎に来ていた。
そのドラゴンとは…
「これが飛翔竜です。」
「これに乗るの!?」
飛翔竜、腕部分が翼であり飛ぶことに特化したドラゴン。
遠征時の移動手段の一つとして用いられる事もあるが、本来は飛龍隊が乗る戦闘用ドラゴンなのだ。
「でも、なんで竜馬じゃダメなの?」
「オーガとオークの集落までは距離があるので陸路では時間がかかります。飛翔竜であれば短時間で到着出来る上、空路であれば危険も少ないですから。」
リオラが飛翔竜に轡と手綱を装着し、竜坊の外へ出す様子を見ながらの隣の房の飛翔竜と目が合った。鋭い視線に火竜事件のことを思い出し少し身震いしてしまう。
「飛翔竜は頭が良いからそう簡単に他者を襲わねぇよ。竜馬ほど賢くはねぇがな。」
すると、自分の飛翔竜の準備を終えたバーネットが笑いながらフィラルシェーラの目の前にいる飛翔竜の顔を撫でた。
「こいつらは自分より強い相手を襲う事はない。怖がらなくても陛下の匂いをさせてる姫さんを襲ったりしねぇよ。」
「お父さんの?」
「あぁ、利口なドラゴンなら龍族の頂点たる陛下の匂いをさせてる相手を襲うなんて事は絶対にしない。安心しな?」
バーネットの言葉に少しだけ安堵し目の前の飛翔竜に手を伸ばしてみる。
すると長い蛇の様な先割れ舌がベロリと手のひらを舐められた。
竜馬よりザラついた感触に驚いていると手のひらに飛翔竜の顔が乗っていた。
重くはない、体重をかけずただ乗せているだけの様だ。
「…撫でていいの?」
「ギャゥ…」
良いよ、そう返事を返された気がして恐る恐る乗せられた顔の鼻先に触れる。
鱗のせいかザラザラしているが痛くはない。
息をする度に鼻息がフィラルシェーラの髪をなびかせる。
「怖がってごめんね?」
「ギュルゥ…」
「どうやら仲良くなれたみてぇだな。さて、飛翔竜に慣れたところで遠征に出発だ!」




