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火竜問題(2)


火竜の火球が目の前に向かってくるのを見て無事では済まない事を覚悟した。

ギュっと目をつむりリオラにしがみつく。


「…っ…?あれ…?」


しかし、いつまで経っても衝撃は襲ってこない。

恐る恐る目を開くとそこには漆黒の外套をなびかせた男が自分たちを庇う様に立ちはだかっていた。


男はちらりとこちらを見た後、すぐに火竜に向き直る。

火竜は先程よりも怒っているのかけたたましく鳴き続けている。


「…火竜サラマンダー、リザードの分際で我が国の星に危害を加えるか。」


静かでそれでいて鋭い口調の声に火竜は少し怯んだようだ。

後ろにいるこちらにもその気迫が突き刺さる様にわかる。

しかし、火竜は相手を強敵だと理解したからなのか再び鳴き声を上げて男に飛びかかってきた。


「危ないっ!」と声を上げるが男は全くその場を動く事なく飛びかかってきた火竜の首を掴む。すると、火竜からパチパチと小さな破裂音が響き出す。


その音から引火すると想像し再び目をつむる…が…


「引火しない…何で?」


目を開くと男が火竜の尻尾を掴んで逆さにしていた。


「火竜はこうして逆さに持つと大人しくなります。」

(そんな猫が首根っこ掴まれて大人しくなる、みたいな方法で…?)

「クライド団長、助かりました…」

「姫様、お怪我は?」

「ううん、大丈夫。ありがとう。」


クライドと呼ばれたその人は火竜を掴んだまま頭を下げるとそのまま去っていった。



「姫さん、ほんっとうにすまねぇ!」

『申し訳ありませんでしたっ!!』


クライドと別れた後、リオラと共にバーネット達のところへ戻った。

火竜のリザード用厩舎には先程のリザードが入れられておりクライドが届けたのだろうと察した。


「ううん、怪我もしてないし大丈夫。でも、お父さんに言わないとだよね…怒られる?」

「姫様は被害者です。全ての責任は我ら赤龍騎士団にあります。」

「で…でもでも、一緒に探すって言ったのわたしだしっ…」


何事も無かったとはいえ一歩間違えれば大怪我、最悪死んでいたかもしれない状況を王であるドラグノスに報告しない訳にはいかないのだろう。


しかし、王である以前にフィラルシェーラの父親。娘が危険な目にあったともなればいくら優しいドラグノスでも厳しい罰を言い渡すかもしれない。


赤龍騎士団のみんなは覚悟を決めているようだがどうにかしたい。

頭の中であぁでもないこうでもないと考えを巡らせていると突然バーネット達が膝をついていた。


後ろを振り向くと先程のクライドとセレンを引き連れてドラグノスが立っていた。


(あちゃー!ラスボス来ちゃったよ!)

「お…お父…さん…あの…あのね…」

「フィラルシェーラ、クライドから話は聞いている。」


いつもはフィーシャとあだ名で呼ぶからか、ちゃんと名前を呼ばれるとドラグノスが本当に怒っているんだと理解した。きっと言い訳は聞かないだろう。


「陛下。此度の一件、全ては団長であるこのバーネットの責任。如何なる処罰も受ける覚悟です。」

「陛下!フィラルシェーラ王女殿下の護衛騎士としての役目を全う出来なかった私にも責任がございます!」


どうしよう、もしこのままリオラが護衛騎士から外されてしまったら…

もしバーネットが団長でなくなったら…


(もしかしたら…この国からも追い出されちゃう…?)


せっかく仲良くなれたのに…離れるのは嫌だ。

例え王女と騎士という立場からくる関係で仲良くなれた人達だとしても離れるのは絶対に嫌だ。


「やだ…」

「フィーシャ様?」

「やだぁっ…リオラもバーネットもいなくなっちゃやだぁぁっ…」


嫌だ嫌だっ!絶対に嫌だっ!

そう思えば思うほど瞳から涙が溢れ出す。

そんな俺の前にドラグノスは膝をついて服の裾で涙を拭ってきた。


「フィラルシェーラ、バーネットとリオラが好きか?」

「うんっ…」

「そうか、いなくなるのは嫌か?」

「うんっ!」

「分かった、だがな?お前を危険な目に遭わせた事実は無くならん。故に罰は受けねばならない。」

「でもっ…リオラもバーネットも悪くないもんっ…フィーシャがワガママ言ったからっ…」


尚も食い下がる俺の言葉にドラグノスは少し考える様にして立ち上がる。


「…ではこうしよう。赤龍騎士団には遠征を命じる。オーガとオークの集落視察にフィラルシェーラを同行させろ。無事に遠征を終え娘を連れ帰る事が出来れば此度の件は不問とする。」


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