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竜馬(2)


「アハハっ、くすぐったいってば。もう舐めないでよ。」

「姫様、竜馬が気に入ったんだね。良かった。」


竜馬に懐かれた事が嬉しくて少しはしゃいでしまった様だ。


「…姫様、もしよろしければ竜馬のリザードを見てみませんか?」

「リザード…?」

「リザードはドラゴンの幼体の事だよ。成体と区別するために幼体の頃はリザードと呼ぶんだ。」


つまり、この竜馬の赤ちゃんを見ないかと言っている訳だ。


「これからリザードの様子を見に行きますの。ご一緒にいかがでしょう。」

「行く!」



ここは竜馬の厩舎。ハクビに案内されて見ると小さな竜馬達が柵の向こうで駆け回っていた。


「あれが竜馬のリザードです。」

「おぉ!」


成体の竜馬は馬の様な気品があったが、リザードの竜馬はまるで犬の様だ。

それ故か生まれたばかりとはいえ戯れている様子はなかなか迫力があった。


「ねぇ、触ってみたい。」


しかし、一度犬の様だと思ってしまうと犬以外の何にも見えなくなる。

触れてみたくなってそう呟くがアードナルドは戸惑ってしまった。


「えっ…でも…」

「ハクビ…ダメ?」

「構いませんよ」


ハクビはそう言うとリザードの世話をしていた騎士に声をかけた。

するとその騎士は一頭のリザードをフィラルシェーラの元へ連れてきた。


「殿下、どうぞ。優しく触れてあげてください。」

「…うわぁ、フワフワだ。」

「良ければ、乗ってみますか?」

「いいの!?」

「えぇ、殿下なら問題ないでしょう。団長、よろしいですか?」

「許可します。」


アードナルドに支えられながらその竜馬に跨るとゆっくり立ち上がり視界が少し高くなった様に感じた。


「では、このまま少し騎士団の宿舎をご案内します。申し遅れましたが、自分は白龍騎士団所属の騎竜隊ドラグーン第3部隊隊長シーヴァと申します。」



シーヴァに引かれた竜馬に乗って白龍騎士団の宿舎を巡りながらフィラルシェーラは先程浮かんだ疑問をアードナルド達に投げかけた。


「ねぇ、さっき言ってたドラグーンって?」

「騎士団には二つの部隊があるんだ。それの内の1つが騎竜隊。」

「騎竜隊はドラゴンに乗って戦う騎士の部隊です。もう1つは飛竜隊ドラゴニュートと言って自身の翼で飛び戦う騎士の部隊です。」

「じゃあ、シーヴァは竜馬に乗って戦うの?」

「いいえ、竜馬は戦闘用のドラゴンではありません。竜馬は鱗が無く身体も脆いので戦いには向かないのです。しかし、体力があるので陸の移動に用いられます。」

「騎竜隊が乗るドラゴンはもっと大きくて強いヤツだよ。」

「戦闘用のドラゴンはまた日を改めてご紹介いたします。」


フィラルシェーラは大きく頷いた。



「ここが白龍騎士団の宿舎になります。」


シーヴァに案内された宿舎は白を基調とした気品ある雰囲気があった。

時折、フィラルシェーラに敬礼する騎士達の服も白を基調とされている。


「女の人も多いね。」

「騎士に性別は関係ありません。もちろん誰でもなれる訳ではありませんが強い志があれば騎士としての素質は十分にあります。」


そうか、絶対になれる訳じゃなくても諦めたらそこで終わりだもんな。

かつて自分が捨ててしまった「諦めない気持ち」を彼らは胸に秘めている。

そんな彼らに守られる価値が今の自分にはあるだろうか。

いじめられる事に耐えかねて、教師や親に見放された事が悲しくて生きる事を諦めてしまった自分に…


「姫様?どうしたの?」


黙り込んでしまった事が気になったのかアードナルドは心配そうに顔を覗かせた。


「え…ううん!何でもない」

「そっか、何かあったらすぐに教えてね?今日は俺が護衛だから!」


アードナルドの笑顔に悩んでいた心が少しだけ晴れた気がした。

そうだ、今更悩んでも仕方ないではないか。

前世で自殺を選んだのは自分自身、いじめからも現実からも逃げたのは自分の意志だった筈だ。

だから、フィラルシェーラとして転生した時に決めた。

今度はしっかり生きるのだと。


(もうグダグダ考えるのはやめだ!俺は、もう諦めない!自分の人生からも現実からも目を背けずに生き抜いてみせる!)



「シーヴァ、ハクビ、今日はありがとう。」

「楽しんでいただけたようで何よりですわ。」

「また、竜馬達に会いにいらしてください。」

「うん!またね!」


日が傾き始めてきたので、フィラルシェーラはアードナルドと共に城へ戻った。


「お父さん!見て見て、竜馬の羽貰った。」

「立派な羽を貰ったな。竜馬はどうだった?」

「うん!すっごく綺麗だった。あとね、リザードに乗せて貰った!」

「そうかそうか、将来そのリザードがお前の愛竜になるかもしれないな。」


子供だからだろうか、興奮冷めやらぬまま出来事を話し続けた。

ドラグノスは決して話を中断せず最後まで聞いてくれた。

龍王と王女ではなく、ただの父と子の関係がとても心地よかった。

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