竜馬(1)
アードナルドとレッスン後のティータイムを過ごした後、時間は丁度昼時。
昼食は食堂でドラグノスと一緒に取る事になっている。
「フィーシャ、生誕祭に向けてのレッスンは順調か?」
「うん!ダンスとお歌のレッスンが一番好き。」
「そうかそうか、マダム・アジーヌも覚えが良いと褒めていた。」
昼食に出された料理はどれも美味しい。
3歳児に肉を食わせて良いのか?と疑問を抱いたが流石は龍の体。
すでに牙が生えているから肉を噛みちぎる事は造作も無い。
レッスンで覚えたマナーを忘れずに、それでも父親との会話を楽しみながら昼食を終える。
▽
「そうだ、フィーシャよ。お前はまだドラゴンを見たことがなかっただろう?」
昼食後の団欒時、唐突に話題をふられた。
生まれたばかりの頃なら「何言ってんだこいつ…」と思っていたことだろう。
だが、今は違う!何故ならしっかりとこの世界について勉強しているからだ!
この世界の人種は人族と獣族に大きく二分される。
人族は人間だけだが、獣族には様々な種族が存在する。
その獣族の中で数が多いのが龍族、狼族、鳥族の3種族だ。
その3種族が代表して国を作りそれぞれの長が王として獣族の頂点に君臨している。
では、「ドラゴン」とは何なのか。
簡単に言ってしまえば「魔獣」、龍王国では動物の扱いだ。
大昔、龍王国を作った後の守護獣「聖龍」が国を築く時、人の形をした「龍」と獣の形をした「竜」を生み出した事が始まりとされている。
(でも、誰かが「龍」と「竜」の区別が出来なくなった事で「竜」を「ドラゴン」と呼ぶようになっていつの間にかそれが定着したらしーんだよな…)
「お前の生誕祭で我々が乗る竜車を引くドラゴンが白龍騎士団で飼育されている。時間がある時に見に行ってみるといい。」
「アルド、ぜひ案内して差し上げなさい?」
「はい、かしこまりました。」
この時は前世で描かれていた空想上の生き物としての姿を思い浮かべていた。
▽
食休み後、散歩も兼ねて白龍騎士団を訪れたフィラルシェーラは件のドラゴンを見て…
「想像と違った…」
「え?どうかしたの?姫様」
少し離れた場所にいる白い生き物、あれはドラゴンなのだろうか。
確かに翼のようなものはあるが四足歩行しているし、見た感じ明らかに…
(馬じゃね…?)
「あれは、竜馬っていうドラゴンだよ。」
「竜馬はその昔、馬と呼ばれる生き物がドラゴンの血を飲んで変貌した姿と言われていますのよ。」
「あ、ハクビ団長!お疲れ様です!」
「姫様、ご機嫌麗しく。竜馬の見学にいらしたのでしょう?是非近くでご覧になってくださいな。」
そういうとハクビは細い指を咥えて「ピィーっ」と音を鳴らした。
すると遠くにいた竜馬達が一斉にハクビの元へ駆け寄ってきた。
近くで見ると美しい白い毛並みをしているが脚には蹄ではなく鋭い爪がある。
顔も馬というより蜥蜴に近い顔立ちをしていた。それに少しだが角もある。
しかし、その瞳は青く澄んでおり見ていると引き込まれそうになる。
黒い毛並みの方は黄金の瞳をしていて白い毛並みの竜馬よりキリッとしているように見える。
「ねぇ、竜馬って飛ぶの?」
「残念ながら竜馬は飛びません。この翼は空を飛ぶ為ではなく威嚇や求愛をする時に使われるのです。ほら、姫様の目の前にいるこの子はまさに敬愛の意を示しておりますわ。」
視線を戻すと翼を小さく広げてゆらゆらと揺らし顔を近づけてくる。
「可愛い…」
「グゥ…」
鼻先に触れると舌がチロリと手を掠めた。




