龍王の娘、対面する(4)
龍王国には4つの騎士団が存在し、1つの団に対して訓練場と宿舎がそれぞれ与えられているが、団専用の訓練場とは別に共有の大きな訓練場がある。バーネットとセイガが決闘という名の喧嘩をしているのもそこだ。
リオラとアードナルドに連れられて来てみれば、まぁスゴイ事になっている。
騎士団長同士の決闘というだけあって最早喧嘩どころの話じゃない。
ハクビもなんとか止めようと必死だが、中々ケリがつかないらしい。
「兄上!セイガ団長!どうか気をお鎮め下さい!」
「リオラ!テメェ、俺の団にいながら青蛇の肩を持つってのか!」
「リオラ、貴様の兄は愚かしい事この上ない。ここで団長の座を降りるのが最も賢明な結論であろう。」
「バーネット!セイガ!いい加減になさい!!」
うわぁ、ものすげぇ火花散ってるなぁ…
「どうしよう…もう止められないのかなぁ…どうしてこんな事に…」
「あぁ…あぅぉ…」
アルド…何でお前が泣きそうな顔してんだよ…
お前は何も悪くねぇじゃん。全部アイツらが勝手にやってる事だろ?
よく見たら団員と思われる騎士達も苦しそうな顔で4人を見つめていた。
…何だろう、何だか無性にムカついてきた…
よく分からないけど…何でそんなにいがみ合っているのだろう。
何がそんなに気にいらないのだろう。
フィーシャは腹の内側からフツフツと煮えたぎる様な感覚を覚えた。
“ふ・ざ・け・る・な”
フィーシャはそう叫びたかった。が、赤子ゆえに言葉が出なかった。
だから代わりに“啼いた”。
「ーーーーーっ!!」
その声、いや声と呼べるものかも曖昧なその“音”を聞いた誰もが一瞬だけ、そう、ほんの一瞬だけ身を強張らせた。
その時感じたそれは、戦場で自分よりも強大な敵に相対した時に感じる“恐怖”。
本当に一瞬の出来事だった。
さっきまで誰の言葉にも耳を貸さず、いがみ合っていた2人の団長が同時に剣を止め、一方向を見つめている。
いや、団長達だけじゃ無い。
この場にいた誰もがこちらを、正確には乳母車を見つめていた。
感じた恐怖は強大で押し潰されそうな程だったがそれを与えたのは自分よりも小さく逆に潰れてしまいそうな赤子の娘。
「何だ、今のは…あのガキがやったのか…?」
「何と強大な…あの赤子のどこにそれ程までの力が…」
「バーネット、セイガ。口を慎みなさい。そして図が高い。」
「兄上、セイガ団長。あのお方はドラグノス陛下のご息女、フィラルシェーラ様に在らせられます。」
赤子の名と自分たちの王の娘である事を知った2人の団長は目を見開きながらもすぐに膝を着いた。
それに習い、後ろにいた団員達も一斉に頭を垂れた。
「姫さんがこんなところに居るとは…」
「姫君とはつゆ知らず、何卒お許しを…」
「あぶぅ!」(ふんっ!また喧嘩したらその頭に噛み付いてやっからな!!)
こうして、バーネットとセイガの何度目か分からない決闘はフィラルシェーラによっておさめられた。




