龍王の娘、対面する(3)
騎士団員たちがいる訓練場は城から少し離れたところにあるらしい。
俺は乳母車に乗せられてアードナルドに押してもらっている。
「でも、どうして団長同士で歪み合うんだろう…」
唐突にアードナルドが悲しげに呟いた。
(確かにそうだ、ドラグノスは国や民を守る王様だけど城から頻繁に出てこれるわけじゃない。)
そんな王様に代わって国の内情や民の言葉に耳を傾けるのが騎士達の役目。
その騎士達の代表である団長同士が歪み合っていたら当然非難の目を向けられる。
そしてその非難の目は、王様であるドラグノスにも向けられる訳で…
(娘として生まれた俺としては正直やるせない気持ちになるぜ…)
「我らは龍王国の騎士。民の手本となる存在でなくてはなりません。陛下にご迷惑がかかる前に止めなければ…」
「何を止めるのですか?」
突然、背後から声がしたと思ったら絶世の美女がそこにいた。
(うわ…!びっくりした、いつの間に目の前にあらわれたんだこの人。つーか、うわぁ、乳でけえな…なんてプロポーション。セレンよりもけしからん!)
「これは、白龍騎士団 団長のハクビ様。何故このような場所へ?」
美女を前にリオラは礼儀正しく頭を下げ、アードナルドもそれに習う。
どうやら二人よりも偉い人の様だ。
「私はいつまで経っても訓練に戻ってこないアルドを探していたのですわ。真面目なアルドが訓練をサボるとはどういう了見ですの?」
特に怒るでもなく気になるから話せ、見たいなニュアンスでアルドに詰め寄るハクビ。そのせいか、デカイ乳が俺の目のまえに垂れ下がっている!!
これ揉んだら怒られるかな…柔らかそうだなぁ…ちょっとくらいなら大丈夫だよな。
モニュ…
「あら…?」
「あ!姫様、ダメ!!」
アードナルドに必死に止められてすぐさま手を引っ込めた。
流石にやばかったかな…?と恐る恐る視線をハクビに戻すと少し驚いた顔をしていた。
怒らせたかな…と思いつつハクビの様子を伺っているとリオラとアードナルドもハクビも同時にフィーシャの顔を覗き込んできた。
「この赤子は…?」
「ドラグノス陛下のご息女様です。フィーシャ様?お体は何とも無いのですか?」
「信じられないよ、ハクビ団長に体に触って何とも無いなんて…」
え?そんな驚く事したか?ただデカイ乳を揉んだだけだよ?
いや、前世なら別な意味で勇者扱いされるだろうけどさ。
「不思議なお方。ともかくお怪我が無くて安心しましたわ。それで?話を戻しますけど訓練をサボった理由は?」
改めてアードナルドに詰め寄るハクビに対し、リオラが口を開く。
「実は、我が兄である赤龍騎士団長と青龍騎士団長が何度目かわからない決闘を…」
その言葉にハクビは目を見開くも大きな溜息をついてリオラに向き直る。
「なるほど、そこに偶然居合わせたアルドが決闘を止めようとリオラを呼びにいった。ということですわね。納得できました。アルド、良い判断ですわ。」
どうやら細かい説明無しに納得してもらえたらしい。
これならアードナルドも訓練をサボったお咎めは無しで済むだろう。
「こうしてはいられません。私が一足先に行って2人を止めましょう。リオラとアルドは姫様を連れて後からおいでなさい。」
そう言ってハクビは一瞬のうちに姿を消した。
うそ?消えた?どこ行ったんだ?
姿を消したハクビを探すようにキョロキョロと辺りを見回しているとアードナルドが不思議そうに呟いた。
「あれ、もしかして姫様ってハクビ団長に会うのは初めて?」
「ハクビ様だけではありません。他3人の団長にさえお会いしたことは無いのですよ。」
「そっか、それなら納得。ハクビ団長のことを知っててお体に触るなんて恐ろしい事できるはず無いもんね。」
(ん?さっきから何の話をしてるんだ?あのハクビってお姉さんに触るのがそんなにイケナイことなのか?)
俺はこの時知らなかったんだ。4人の騎士団長の身体に宿る力と呪いの事を。




