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異世界で始末書を書く方法。  作者: 柚科 葉槻
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6

 朝が来た。

 夜勤や徹夜で捜査した時、打ち上げの飲み会でオールしたあとなど、今まで何度も夜が明けるのは見てきたが、今日ほど太陽の光が目にしみたことはなかっただろう。あの光が自分の知っている”太陽”なのかは別として。


 瑠依は縮こまっていた身体を伸ばしながら、鐘楼からの景色を確認した。

 足下には外国の町を紹介する旅番組にでも出てきそうな石造りの建物があった。昨夜の内部の様子を見るに、いわゆる神殿的な意味を持つ建物なのであろう。

 神殿──便宜上、この建物はそう呼ぼう──の周囲は森に囲まれている。宗教的な物であれば近くに人の住む住宅などがあるかと思ったが、そちらの方は見当たらなかった。元々僻地に作られたものなのか、それとも一般住宅は朽ちてしまうほどここは放置されていたのか。


 ただ、”人”が居たのは間違いないだろう。昨日瑠依を襲った白骨遺体達は、瑠依も見慣れているのその姿形だった。

 思い出して、建物の外にあの白骨遺体達が居るかどうかを目をこらして確認する。 


「……居る」


 建物の周りをノロノロと白骨遺体達が歩き回っていた。一方で骨が散らばり、また獣らしき塊が転がっているエリアもあり、もしかしたらそこでは戦闘のようなことも起こっていたのかもしれない。


「これからどうすれば……」


 夜が明けるまでに、瑠依は持っている物を確認していた。

 警察用無線、特殊警棒、手錠、ハンカチ、電波式日付つきの腕時計、身に付けていたボディバッグに財布、スマートフォンと入れっぱなしだった充電器、ミニノート、筆記用具、数個の飴とガムとチョコレート、中に着込んでいた防弾防刃ベスト。


 そして、瑠依は腰に手を当てる。

 S&W M360J “SAKURA”。

 日本警察に配備されている拳銃である。


 「魔法使い」とまで称され、非現実的な力を持っていると思われる藤森を任意同行するに当たって、非常時の手段のひとつとしてこの拳銃は渡されていた。

 ホルスターや服がクッションとなったのか、傷や破損などはなかった。弾も五発、無くならずに入っている。動作の確認にも問題はないと思い、安心した。


「でも手帳は、あそこの中なのかな」


 瑠依は神殿部分を見下ろした。

 警察官の命ともいえる警察手帳を瑠依は紛失してしまっていた。ジャケットの胸ポケットに入れて置いたのだが、それが藤森確保からこの鐘楼に逃げてくるまでの騒動の間で落としてしまったらしい。

 かなり酷い失態だと思った。机の引き出しに何枚もの始末書を事前に仕込んでいる坂岡を、その点でも師事しないといけないかもしれない。


「は、ははっ」


 こんなよく分からないところにまできて、瑠依は拳銃の破損や警察手帳をなくしたことを心配していた。それは奇妙だが、一方で冷静さを保とうとしている心理だということには気付いている。


「坂岡さん……」


 最も信頼している上司を考え、瑠依はなんとか気持ちを落ち着かせようとした。

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