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異世界で始末書を書く方法。  作者: 柚科 葉槻
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プロローグ

 ――カタ……カタ……。


 硬質な何かがぶつかり合う音がする。

 瑠依は意識を取り戻した。

 暗い視界。剥がれかけたタイルと半ばただの木材と化したベンチが目に入る。


(脳震盪かな……。頭の中がぼんやりする)


 身体と脳に負担がかからないよう、瑠依はゆっくりと身体を起こした。

 カラン、と近くにあった崩れたベンチの脚が転がる。その途端、あるはずのない視線が、彼女の方へ向いた。反射的にその対象へ目をやる。


「…………は?」


 驚きとも吐息とも取れぬ声が零れた。それもそのはず。

 白骨遺体があった。いや、()()()()()()()()()()()

 しかし考える暇はない。白骨遺体の一体がふらりと瑠依に向けて歩み始めた。その手には錆びた金属棒のような物を持っている。

 速度は人のそれと大差ない。瑠依は立ち上がり後退しながら、ベルトから下げていた特殊警棒を引き抜いた。シャンッと振り出せば、手のひらサイズから六十センチの長さまで伸びる。


「と、止まりなさい! こちらに敵意はありません。止まらなければ公務執行妨害で」


 ご遺体に無体なことをすれば、それはそれで遺体損壊罪か……?と余計な事を考えてしまった。

 その間を隙と捉えたのか、近付いてきた白骨遺体は金属棒を振り被った。

 筋肉はなく、ロボットなのかワイヤーでも仕込まれているのか、そもそもその金属棒はもしや長剣と云われる物なのでは。

 頭の中はごちゃごちゃとしているが、身体の動きは素直だ。構えた警棒は武器を持つ白骨遺体の腕に向けて振り抜いた。

 目の前にあるのは上腕骨。少し間を置いて、前腕と金属棒が地面に落ち、派手な音を立てた。

 白骨遺体が落ちた自分の腕の方を向いた。

 自分の腕が気になったのかと思えばそうではない。見れば、周りにいたほかの白骨遺体達も音がした方を向いている。


(……彼ら、は、音のする方に反応している?)


 逡巡した後、瑠依は足元に転がっていたタイルの破片を前腕の方へ蹴り飛ばした。

 カランカランと瑠依から音が離れる。目の前にいた白骨遺体も音につられ、瑠依から離れていった。


「――っ」


 吐きそうになる溜め息を慌てて押さえ、瑠依は静かに辺りを見回した。


(場所は……教会、いや神殿? 右手側に祭壇と思われる場所、目の前はたくさんのベンチが置かれている。祭壇の横に扉があるけど、ご遺体達がそちらに向かっているとなると、そっちに行くのは得策じゃないし……)


 左手側に見えている大きな扉――出入口だろう――までは遠い。

 白骨遺体達が歩く速度で移動するのなら走って逃げ出せるかもしれないが、彼らも走るようなら可能性は五分五分。

 そもそも、外の方が安全かはわからない。

 背後に目を向けた。

 礼拝堂の壁は、ところどころ剥がれかけた石の壁と割れたステンドグラスの窓が整然と並んでいる。

 ただ一か所だけ、外側に凹んだ空間がある。

 窓から様子を窺えば、そこには塔のような建物があり、凹んだ空間はそこへ繋がっているようだった。

 気配を探る限り、そこに白骨遺体達はいない。

 音を立てないように気を付けながらいくつかのタイルや石壁の破片を拾うと、瑠依はそれらを祭壇の方向へ、一つずつ遠くに投げた。

 白骨遺体達は音に反応する。瑠依の思惑通り、彼らは瑠依から離れていく。

 彼らが移動する音に紛れて、瑠依は凹んだ空間へ向かった。

 空間には塔を上る階段と、ほかの部屋へ続いているのか扉がある。階段を誰かが使っていそうな音は聞こえない。


(扉は軋みそうだし、この塔の方にしよう)


 階段の中は礼拝堂よりも暗く足元も悪い。

 カバンから取り出したペンライトで足元を照らし、慎重に上がった。

 二階分ほどの螺旋階段の上は、大きな鐘と屋根がついた鐘楼になっていた。

 幸いにも誰もいない。礼拝堂にいた白骨遺体達も瑠依がこの場所にいる事には気付いていないようだ。

 屋上の柵から周辺の様子も探るが、月明かりに照らされてわかるのは、ここが森の中の小高い丘に立てられていそうなこと。月と星以外の明かりは見えないこと。そして礼拝堂の外で白骨遺体っぽい物と獣らしい生き物が戦っていること。

 とにもかくにも、夜目のきかない瑠依は、今動くべきではないだろう。

 床に開いた出入口を元々置いてあった木の板で蓋をする。腐りかけているが、多少の防御にはなるだろう。


「疲れ、た……」


 とりあえず身の安全を確保し、瑠依は床へと腰を下ろした。

 腕時計で時間を確認する。午前二時を少し回ったところだ。

 瑠依の記憶が正しければ二十時間近くも意識を失っていたことになる。

 どうしてこうなったのか考えようと、瑠依はその日の行動を一から思い返した。

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