冷たい夫が溺愛してくるという"おふだ"を貰った結果。~伯爵家では、いまから新婚!!
「これが?」
「ええ。東の国の魔法陣、"おふだ"よ」
「で、この"おふだ"を寝室に貼れば良いのね」
「そう。そしたら兄は、義姉さんに夢中になること間違いなしよ」
「ふふっ、まさか」
「今日から使ってみて。ね! 騙されたと思って」
「そうね、せっかくの貴女の気持ちだもの。試してみるわ」
伯爵家に嫁いで一年。
素っ気ない主人との、味気ない結婚生活にも慣れた或る日。
義妹のリラから、"東洋の神秘"だと言う不思議な紙を渡された。
とりあえず寝室の見えない場所。
チェストの後ろに貼ってみたけれど、こんなお呪いであの人が優しくなるなんてこと──。
「ただいま、イリス。これ、綺麗だったから君に」
主人のアベルは帰宅するなり、たくさんのバラを差し出した。
(は……花束なんて、初めて貰ったわ──!!)
おふだを貼ったその日から、アベルの変化は劇的だった。
デートに誘ってくれたり、様々なプレゼントを贈ってくれたり。
いつも無言だった食卓は、いろんな会話で弾むようになった。
あんなに他人行儀だったアベルと、冗談を言って笑いあえる日が来るなんて信じられない。
そして夜には。
甘く蕩けるような言葉を囁いて、私のことを褒めながら、口説いてくれる……。
まるで熱い恋人同士みたいに。
おふだ。なんてすごい効果なの。
戸惑いながらも嬉しく、驚きながらも、もう以前の寂しい生活には戻りたくないと日々を過ごしていた頃。
それが起こった。
「きゃあ」
チェスト上の花瓶を、うっかり倒してしまったのだ。
急いで確認したところ、大切なおふだが。
チェスト裏に隠して貼っていたおふだが。
ぐっしょりと濡れて、元の文字や絵が判別つかないくらいに滲んでいた。
(なんてことなの……)
こんな状態ではきっともう、おふだは効力を失ったに違いない。
今日帰宅するアベルはまた、冷たい男性に戻ってしまったかしら。
暗い気持ちで、出迎えのためロビーに降りていくと、話し声がする。
義妹が嫁ぎ先から遊びに来たみたい。
「それで兄さん。義姉さんとの仲は、上手く仕切り直せたのね? 全く"おふだ"なんて小道具を手作りせずに、拗れたことを素直に謝れば良かったのに」
( ! )
「しっ。その話をここでするな。イリスにバレる」
彼が、階段にいる私に気づいた。
「やあ、ただいまイリス。遅くなってすまない」
あたたかな笑顔でアベルが言う。
アベルお手製のおふだは、濡れても効果抜群のようだった。
「お帰りなさい、あなた」
私の幸せは、続きそうです!