第3話:彼の正体
「何か聞きたい事があるんじゃない。違うかな?」
うっ、顔に出やすいとは恵美ちゃんに言われていた。
だったら思い切って聞いた方が良いかも。
「あの……。1つ聞きたい事があるんですけど、良いですか?」
「うん。平気だよ」
道に迷った私を見付けてくれたお兄さんと、零威さんの見た目が被っていく。
やっぱり送ってくれたお兄さんは間違いなくこの人だ。その時の事を思い出して、内緒にして欲しいと言っていた事も思い出す。
「その。零威さんは……妖って呼ばれる存在、ですか」
「やっぱりあの時と見た目を同じにすれば、流石に思い出すよね」
クスリと笑った後で、彼の風貌が急激に変わる。
幼い時に道に迷っていた私を送り届けたその姿のまま。
銀色の髪に水色の瞳。その幻想的な見た目、そして狐の耳をピクンと動かしてニコニコとしていた。
「私は妖狐。狐の妖で、さっきから傍で見上げている子ぎつねとはパートナーなんだ」
「コンッ」
勢いよく霊威さんに駆け寄り、頬をスリスリとしている。尻尾が9本ともパタパタと動かして嬉しそうにしているのが分かる。
「……おに~」
寂し気に声を上げたのは小鬼だ。
じっと見て、私と零威さんの事を交互に見た後でウロウロとし始める。
(ど、どうしたんだろう……)
子ぎつねの方は自慢げにしている。零威さんのパートナーって事だから、小鬼にも居るって事かな。
寂しいのかと思い、小鬼の事を抱き上げてみる。
最初はビックリしていたがすぐに顔が綻んだ。反対に子ぎつねと零威さんが睨んでいるような気がするのは、気のせい……?
「再会は済ませたかよ」
そう言いながら、私と零威さんの間に降り立った人物。その人が不機嫌そうに言うと、小鬼の方は笑顔で手を振っている。
「えっと、パートナーなの?」
「おにっ、おに~」
「ふんっ。人間に絆されやがって――いでででっ!?」
黒い髪に額から覗かせる1本の角。色鮮やかな着物を着崩し、わらじを履いた妖さん、だよね。小鬼のテンションが上がっているから、間違いなくパートナーなのだと分かる。
あと、何故か零威さんの尾が彼の事を締め上げている。
「口が悪いな、弥世。結界を張るのが遅いんじゃないか」
「う、うっせぇ。こっちは処理が大変――だだだっ。痛い痛い」
「鬼の一族は体が頑丈で、破壊衝動が時々出るのが難点だ。誰かが調教しないとだな」
(ど、どうすれば……)
ミシミシと明らかに締め上げている音が尋常じゃない。
抱き上げている小鬼が慌てるし、パニックを起こしてるから多分、相当……危ない。
弥世と呼ばれた男性を、一時的に拘束したかと思ったら尾で叩き飛ばしまう。
「えっ……!?」
「おにっ!?」
駅前の喫茶店以外に、様々な店がある。いくつか吹き飛ばしながら止まったのだろう。相当な距離があり、顔を青くする私と小鬼。い、生きてるよね。大丈夫だよね!!
「邪魔者は今度こそ消えたよ。詳しくは家で話そうか。さっきも言ったけど鬼は頑丈だからあれくらいだと死なないから安心して」
「コン♪」
ひょいと私を抱え、子ぎつねは喜んで付いて行く。状況がついて行けない私に、さっと姿を現したのは狐の耳をした恵美ちゃんだ。
「お兄様、準備は整いました。さっさと行きましょう」
「あとは部下達にお願いして、私達は早く退散しないと」
本当に鬼の方々を置いていく気だ……。
恵美ちゃんに助けを求めるも「平気よ。頑丈だし」と返された。小鬼も心配そうに見ていたが、私から離れるという選択はなかったようでそのまま付いて行った。
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「おにおに~」
「コン、コン!!」
恵美ちゃんの家だから、当然お兄さんの家だもんね。
状況を整理したいのに、私の目の前でお菓子の取り合いが繰り広げられている。
小鬼と子ぎつねが、多く取ろうとしては私に渡そうとしているのだ。甘いものを食べて落ち着いて欲しい、と言う気持ちの現れだろうか。
でも、どんどん過激になっていくから怪我をしないか。と言う方が私には強かった。
毎日、毎朝、小鬼は子ぎつねに挑んでは必ず負ける。場所が私の家じゃないからか、攻防の激しさが凄まじい。
リビングの周辺が、切り刻まれたりとかされてるんですけど……放置なんですね。
「そこは平気。結界内だしなかった事になる」
「なる、ほど……?」
零威さんがそう言ってのけているが、ふとした疑問が起きて聞いてみた。
心の声が読めるのか、と。
「ま、多少はね。それもこれも私の妖力が強いからなんだろうけど」
「桜花。私、お兄様と同じ妖狐です。耳のお手入れは念入りです。ぜひモフって!!」
何故だか零威さんの隣に座る形になる私。そして、恵美ちゃんが反対側を抑えるようしてそんなお願いをされる。
妖の事とか聞こうと思いつつ、子ぎつねを触る時に感じたフワフワ感を思い出して戸惑う。
「ちょっ、ちょっとだけ、触ります……」
うぅ、欲望に負けてモフモフを堪能することに。
さっきまで争っていたのに、それを見た子ぎつねと小鬼は悔しそうにお菓子を食べ始めた。