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妖狐の花嫁  作者: 垢音
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第1話:不思議な体験


 その日はただなんとなくだった。

 3月の後半。もうすぐ4月になるから、桜が見ごろになる季節。私の名前に桜が入っているから、自然と嬉しくなる。

 お母さんがお花が好きで、家で育ててるのを見て私も手伝う。

 そうしていく内に、私も段々と花が好きになって――自分の名前にある桜が気になっていた。


 桜花(おうか)。それが私の名前だ。



「うぅ、道に迷った……」



 近所にある桜の木。

 駅前にも立派なのがあるんだけど、どうせなら両親を驚かせたいからといつもとは違う道を散歩していた。道が分からなくなったら人に聞けばいいし、引き返せばいいのだ。最初はそう思っていたが、いざ違う所に生えている桜を見付けようとして、気付いたら全然知らない道だった。


 引き返そうとした。怖くて元に道に戻ろうとした。でも――不思議な位に人が居ない。

 辺りがシンと静まり返り、自分だけがポツンと世界に取り残されたような気分。

 空を見上げれば、夕日から夜にへと変わる。



「お父さん……。お母さん……」



 両親は共働き。だから帰ってくるまでは、私は家の近くにある公園で遊んでいた。

 もうすぐ仕事の休みになる。そうしたら、3人でピクニックに行こう。

 だから……そんな両親をもっと喜ばせたくて、いつも見る桜とは違う場所を案内したかった。


 でも、どうしよう。もう夜になる。

 足が疲れて来た。いつもお母さんが先に帰ってくるから、今頃は私を探しているに違いない。怒られるだろう。

 1人で知らない所に出てしまって、と。



「うぅ……うっ。お腹、すいた」



 疲れて来ると動きたくなくなる。でも、お腹が減ってるからもっと力が出ない。

 思わずしゃがみ込んで、じっとする。知らない道、知らない場所。そして、どんどん周りが暗くなる。


 先が見えない事で、私は軽いパニックを起こした。

 もう帰れない。両親に会えないのだと思った時、目の前でゴオッと炎が現れた。



「な、なに……!?」



 いつも見る炎じゃない。

 目の前で燃えているそれは、白い炎だ。炎に焼かれると思った私は、ギュっと目を閉じて身を縮こませる。でも、いくら待っても変化がない。そっと目を開けると、白い炎から子ぎつねが現れた。



「コン!!」

「……」

「コン? コンコン、コーーン」

「……」



 何かを必死で訴えている。

 でも言葉なんて分からないから首を傾げる。すると、子ぎつねも同じようにして首を傾げられてしまった。



「貴方も道に迷ったの?」



 そう聞くと無言で首を振られた。

 クイッと私の服を引っ張り、こっちに来るようにと誘導する。でも、それが怖いから「いやだ」と言うと悲し気に離れる。でも、諦めないのか尻尾を上手く腕に巻きつけて移動しようとしている。


 いや、口で案内されるのが嫌とかそういうのでは……。



「おにーー!!」

「コン!!」



 その時だ。何もない所から1つ目の小鬼が現れて、子ぎつねが頭突きをした。

 これは私も驚き、小鬼はピクピクと動くも起き上がれないでいる。更に上に乗っかり、自分の尻尾を使いバシバシと叩いている。


 あれ……尻尾が9本もある?



「あ、居た居た」



 今度は男の人の声だ。

 身構えそうになり、盾になるものがないからと子ぎつねを抱きしめる。この状況に、混乱していたのだろう。この時の自分の行動は今でもよく分からないでいる。



「い、家に帰りたい!! お願いだから帰らせて!!!」



 抱きしめていた子ぎつねを、更にギュッと力を込めて抱きしめる。「キュウ……」と苦し気にしている子ぎつねには悪いと思ったが、怖いのと早く帰りたい気持ちで一杯だったんだ。



「うん、分かってるよ。こちらこそ巻き込んで悪かったね」

「え……」



 怒られると思った。

 知らない所に出て来て、人に会えなくて。もう夜になるから、音も静かすぎてて心細かった。何より子ぎつねの事をぬいぐるみのように、ギュウギュウに抱きしめているのだ。


 大事な子なのかも知れないのに、こんなワガママを言った私に男の人はどこまでも優しい声を掛けて来る。



「お詫びになるか分からないが、途中まで家に送るよ」

「……ホント?」

「嘘はつかないよ。安心して」

「コ、コォーン……」

「あ、ごめん。苦しかったね」



 苦し気に声を上げる子ぎつねに謝りつつ、下に降ろす。ヨロヨロとしていたが、9本の尻尾がそれぞれで動いていたから平気そうかな。

 やっと人と会える喜びで、私は男の人にお礼を言おうとしてハッとなる。


 男の人は綺麗な銀色の髪をしていた。

 水色の瞳が透き通る様に見え、思わずボーッと見つめる。綺麗な浴衣も着て、現実なのか疑う程。

 なにより私達にはない獣耳があり、形としては子ぎつねと同じになるのかな。


 そう言えば、と子ぎつねを見ると毛色が男の人と同じ銀色だ。狐ってそんな色だったかな。



「私達は(あやかし)と言うんだ。そこに倒れてる小鬼と同じ人ではない」

「あや、かし……?」



 首を傾げて復唱すると、子ぎつねが同じように真似をする。

 それを見てふふっと笑った男の人は、私に手を差し出した。



「家の途中と言ったが気が変わったよ。近くまで……いや、ご両親に誤解を解きに行こうか」



 差し出された手をゆっくりと握る。恐る恐るな私に、彼は微笑みかけ子ぎつねは私の背中に乗る。

 寂しくなんかないぞと言われている気がして、ちょっと嬉しかった。

 倒れている小鬼も連れて行くのかと思ったが、そのまま放置していくみたい。



「桜花!! 桜花なのねっ!?」

「お母さんっ!!」



 私を探していたであろう両親と再会。

 その後、私が道に迷い途方に暮れていた所を助けたのだと言った男の人。


 でも、最初に会った時と違い――黒髪に黒い瞳。その変化に驚く私に、彼は内緒にするようにと小声で伝えて来たのだった。


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