同窓会
ミステリーでも、ファンタジーでも、恋愛小説でもなく、「同窓会」という日常をテーマにした私小説です。是非、楽しんでいただけたら嬉しいです。
第一章 東京
四月のある日、高木隼のもとに高校時代の友人の内藤湊からメールが届いた。
何だろうと思い、隼はそのメールを見た。久しぶりにゴールデンウイークに高校時代のみんなで集まらないかという内容だった。
なるほどと隼は思った。
最近は仕事が多忙なため、なかなか彼らと会えていなかった。久方ぶりの誘いに隼は嬉しく思った。久々に全員に会いたいなと思い、隼は参加しようと思った。
隼は今年で二十六歳になった。東京の不動産会社で働いている。東京で一人暮らしをしている。
隼は再び内藤からのメールを見た。そこには地元の横浜で会おうとあった。
隼の地元は神奈川である。大学を卒業して、東京で就職することになってから、隼は東京で生活をしていた。地元の横浜には毎年お正月には実家に帰っていたが、それ以外で地元に戻ったことはなかった。
お正月に地元に戻っても、高校の友人とは会えない理由が一つあった。それは、他の何人かのメンバーがそれぞれ地方へ転勤したからだった。つまり、僕たちは離れ離れとなり、全員が集まるとなると、遠くへ行ってしまった分、なかなか集まるのも難しかった。
そういや、このメールを送ってくれた内藤湊も地元を離れ、今は東京にいるのだという。
隼は早速、「大丈夫だよ」とメールを送った。
第二章 北海道
直太朗はカレンダーに目をやった。もうすぐゴールデンウイークである。
今年のゴールデンウイークは、東京にいる彼女の遥が北海道に遊びに来ることになっていた。遥とは遠距離の関係にあった。だから、直太朗は久々に彼女に会えるのを楽しみにしていた。
ふと、携帯にメールが届いた音がした。直太朗は早速、携帯を取り、メールを見てみる。メールの相手は、高校時代の友人である内藤湊だった。直太朗は一瞬にして懐かしい気持ちになった。
それから、直太朗は本文を読んだ。その内容は、ゴールデンウイーク中に地元の横浜で久々に高校時代のメンバー全員で会わないかといった内容だった。
いい考えだなと直太朗は思った。久々にみんなに会いたいと思っていた。
その後、すぐに直太朗は今年のゴールデンウイークの予定を思い出した。遥が自分のいる北海道に遊びに来ることになっていた。どうしようかと直太朗は思った。
高校の友人に会いに行くのであれば、わざわざ遥を北海道へ来させるのではなく、そのついでに彼女の居る東京へ遊びに行けばいいのではないか。直太朗は一度、彼女に相談しようと思い、電話を掛けた。
「もしもし? ハルちゃん?」
『もしもし? 直くん?』
「ハルちゃん、元気してる?」
『うん、元気だよ! 直くんは?』
「俺も元気」
『そっか。なら良かった。で、急に電話してどうしたの?』
「あー、あのさ、ハルちゃんに話があって」
『話って?』
「実はさ、さっき高校の友人からメールがきてね。ゴールデンウイークに集まらないかって」
『へー。それで、どこで会うの?』
「地元の横浜でなんだ」
「そうなんだ。それで、いつ会うの?」
「五月四日の水曜日に会うことになったんだ」
「五月四日? え? その三連休に二人で北海道で過ごすって約束したじゃん!」
「でも、俺、久々にみんなに会いたいなって思ってて。それに、せっかく横浜に行くなら、ついでに俺がハルちゃんのいる東京に遊びに行こうかなって思ってるんだ。どうかな?」
「えー、久々に北海道に行けると思ったのに」
「ハルちゃん、ゴメン! 北海道はまた今度でもいい?」
「分かった。次は、絶対北海道に連れてってね!」
「うん、そうする。ハルちゃん、ありがとう」
「じゃあ、直くん。ゴールデンウイークに来るの楽しみにしてるからね」
「俺も」
「じゃあね」
「じゃあ、また」
第三章 神奈川
小島賢人が家に着いたのは、午前九時を過ぎた頃だった。
賢人はとても疲れていた。少し空腹ではあったが、それよりもすぐに寝たい気持ちだった。シャワーだけ浴びてから寝ようと思い、賢人はお風呂場へと直行した。
昨日は二十四時間勤務だった。消防士になって、今年で四年。二十四時間働くのはもう慣れたが、やはり正直疲れてしまう。賢人は今年、二十六歳になった。まだまだ若い部類ではあるが、少し老いを感じてきたような気がする。
シャワーを浴びて、寝巻に着替えて、コップ一杯の水を飲んだ。プはッと息を吐く。水が美味しく感じた。それから、賢人は寝室へ行き、カーテンを閉めて、ベッドでしばらく横になった。お昼まで寝ようと思い、ケータイのアラームをセットしようとリビングに置いたケータイを取りに行く。ケータイを取って、一度メールや着信が来ていないかを確認した。
見ると、一通のメールが入っているのに気が付いた。なんだろうと思い、そのメールを開いた。それは高校時代の内藤からだった。珍しいなと賢人は思い、本文を読んだ。
それは、久方ぶりに高校のいつメンたちで集まろうといった内容だった。
へー。なるほど。面白いじゃないの、と賢人は思った。
集まるのは今年のゴールデンウイーク。日付は五月四日らしい。
その日はどうだったっけと、賢人はカレンダーに目をやった。
見ると、出勤日になっていた。その日、出勤となると行けそうにない。行けない旨を彼にメールしようと思ったが、どうしても行きたいと思ったので、まだ残っている有給をその日に使うことにしようと賢人は思った。
第四章 大阪
「あなた、おかえりなさい」
その夜、桜井恭平が帰宅すると、妻の真奈美がいつものように出迎えてくれた。
「ただいま」と、恭平は言った。
それから、「お風呂湧いてるけど、先に入る?」と、彼女が言った。
「ああ、そうするよ」
「分かったわ」
恭平は真っ先にお風呂へと向かう。湯船に浸かってから、恭平は帰りの電車で見た一通のメールのことを思い出した。それは内藤湊からのメールだった。彼は高校時代の友人である。彼のメールにはこう書いてあった。
ゴールデンウイーク中、横浜にメンバー全員で集まらないか、と。
恭平は久しく会っていないメンバーたちの顔を思い浮かべた。それから、久しぶりに彼らに会いたいと思った。
お風呂から上がって、着替えを済ませて、恭平はリビングへと行く。いい匂いがした。今晩の夕食は何かと思い、ダイニングテーブルに目をやると、肉じゃがとぶりの照り焼きにサラダがあった。
おいしそうだなと思い、早速、恭平は席に着いて、それらを食べ始めた。
早速、ぶりの照り焼きを箸でほぐして、一口食べた。うん、うまい。その後、白いご飯を一口頬張った。うまい。そして、みそ汁を一口啜った。うまい。
真奈美の作るご飯はどれも美味しかった。恭平は幸せな気持ちになっていた。
「あなた。今日、健診に行ってきたわ」
「そうか。で、どうだったの?」
「赤ちゃんの健康に問題はないって先生が言っていたわ」
「良かったな」
「ええ。それに、すくすくと大きくなっているみたいだし、このままいけば順調に生まれるって」
「いいね」
「うん。良かったわ」
「そう言えば……。」
今度は、恭平が話を切り出した。
「何?」
「今日、帰りに高校の友人からメールが来たんだ」
「あら、そうなの」
「うん。で、このゴールデンウイークに地元で集まらないかって話なんだよ」
「地元って、横浜だったっけ?」
「そうそう」
「そう。それはいつなの?」
「五月の四日らしいんだ」
「行くのね?」
「ああ、行こうと思ってる」
「そっか。じゃあ、その日は地元に帰るのね。いいんじゃない? 久々にお友達に会えるのなら、それは楽しいわね」
「ああ。そうだね。真奈美には悪いな」
「別にいいのよ。たまにはゆっくりしてちょうだい」
「うん。もし……もし、真奈美の身体に何か問題があれば連絡して! すぐにこっちへ戻るから」
「分かった。ありがとう。あなたって、優しいのね」
「そうだ」
恭平は先ほどの真奈美の話を思い出して、あることを思い出す。
「どうしたの?」
「そろそろ子どもの名前を考えないと」
「ああ、そうね」
「生まれる子は男の子かな? それとも女の子?」
「まだどっちが生まれるのか分からないわよ」
「そっか。じゃあ、まだ名前を決めるのは早いか」
「別にいいんじゃない?」
「そうかい?」
「ええ。男の子と女の子の二つの名前を決めておいて、後で生まれてからその名前を付けるのよ」
「確かに。それはいいかもしれないな」
「お互いに二つの名前を考えて、また後日、話し合いましょ」
「うん。分かった」
第五章 長野
豊橋優樹はその農園に来ていた。優樹は立ち止まって、一本のりんごの木を見ていた。
二週間前、その芽が膨らんでうっすらと緑色になっていたが、その日見た時にはつぼみがだいぶ膨らんで、先の方がピンク色になっていた。それを見ていた優樹は生命の活動の力強さに感動していた。
後、一週間くらいすれば、リンゴの花が咲くだろう。それから、五月になってゴールデンウイークにもなれば、リンゴの花は満開を迎える。その花はとても綺麗なのである。優樹は例年の満開になったリンゴの花を思い出し、今年の満開のリンゴの花をとても楽しみに思っていた。
その後、優樹は目の前にあるリンゴの木の写真を撮り、その農園を離れた。
長野に来てから、もう四年になった。優樹は植物の栽培に興味があった。農学部のある大学に入学して、そこで色々と勉強した。植物というのはとても面白い分野であると優樹は思った。大学を卒業してから、東京かもしくは地元の神奈川で働こうと思ったりもしたが、やはり畑や農園に興味があったため、地元を離れて地方へ行くことに決めたのだった。
長野にしたのは何となくだった。果樹園があるところならどこでも良かったのだが、なんとなく長野という所に惹かれたからだった。
今ではその農園で、りんごとぶどうを作っている。
お昼休みになり、優樹は事務所で会社の人たちとお昼ご飯を食べることにした。
優樹は自分のデスクで、持ってきたお弁当をカバンから取り出した。妻の篤子が作ってくれたお弁当である。
弁当を開け、中を見ると、ごま塩ご飯の上に梅干しが乗っかっていた。それから、卵焼きにウインナー、きんぴらごぼう、それとほうれん草のお浸しが入っていた。どれも美味しそうであった。
優樹は早速、「いただきます」と言って、卵焼きを一口頬張った。
うん。うまい。
妻の作るお弁当はとても美味しかった。
優樹が妻の篤子と出会ったのは、二年前である。
篤子とはこの会社で初めて出会った。優樹の一目惚れであった。優樹は思い切って彼女にアタックをした。すると、彼女も優樹に気が合ったらしく、彼女はすぐに優樹の返事にオーケーした。それから、優樹は彼女と一年半の交際を経て、半年前に優樹たちは籍を入れた。篤子は結婚を機に自分の居る会社を辞めて、専業主婦に落ち着いた。
優樹はその後もそのお弁当のきんぴらごぼうを一口食べた。篤子の作ったきんぴらごぼうはとてもおいしかった。優樹は幸せを感じていた。
その時、ふと携帯が鳴った。どうやらメールが届いたらしい。優樹は携帯を開き、届いたメールを見た。
それを見ると、そこには懐かしい名前があった。高校時代の友人の内藤からだった。
早速、優樹はそのメールを読んだ。
そのメールは、今年のゴールデンウイークに高校の友人たちで集まろうという知らせだった。
「ゴールデンウイークか……。」
そのメールを一読して、優樹は呟くように言った。
最近は彼らと全く会っていないなと優樹は思った。それから、久々に会いたいと優樹は思った。
「ただいま」
夜六時、家に帰ると篤子が夕飯を作って待っていた。
「あなた、おかえりなさい。ご飯できてるわ」
今晩のメニューは鮭の塩焼きと豚汁と冷ややっこだった。
「うん、食べようかな」
早速、優樹は席に着き、冷ややっこに醤油を掛けた。箸で一口大にして、口に放り込んだ。
それから、豚汁に手を付ける。
「どう?」
その後、彼女がそう訊いた。
その豚汁は、大根、ニンジン、こんにゃく、豚肉など具だくさんで美味しかった。
「うまいよ」
優樹がそう答えると、「そう。なら良かった」と、彼女は言って、微笑んだ。
それから、優樹は鮭の塩焼きを一口食べた後、白いご飯を一口頬張った。
篤子の作るご飯はどれも美味しいものであった。優樹は幸せを感じていた。
夜八時。夕飯を終えた後、優樹はメールをくれた内藤に電話を掛けた。しばらくして、内藤がその電話に出た。
『もしもし?』
「よう! 久しぶり!」
『豊橋? 久しぶり! どうかしたの?』
「内藤、メール見たよ」
『あ、本当!? ありがとう』
「うん。なんかメール見たら、久しぶりにお前と話したくなってさ」
『そっか』
「うん。それと、またみんなにも会いたいなぁって思ってさ」
『だよな』
「ああ」
『ところで、豊橋は五月の四日は大丈夫そう?』
それから、彼にそう訊かれた。ゴールデンウイークは会社が休みなので、その集まりには参加できそうである。
「うん。大丈夫」
勇気がそう言うと、『そっか。なら良かった』と、彼は言った。『じゃあ、またその日にね』
「おう。会えるのを楽しみにしてるよ」
『はいよー』
「じゃあ、おやすみ」
『うん、おやすみー』
それから、優樹は電話を切った。
久しぶりに内藤と喋った。久々に彼と話して、優樹はとても嬉しい気持ちであった。優樹は今度のゴールデンウイークの集まりが楽しみになった。
第六章 福岡
「椎名はゴールデンウイーク、どうするんだ?」
その日の昼飯の時、一緒に飯を食っていた同僚の酒井にそう訊かれた。
もうすぐゴールデンウイークであった。竜司は今年のゴールデンウイークも特に予定はなかった。久々に実家の横浜に帰ろうと思っていた。
「特に予定はないんだけど、久々に実家に戻ろうかなとは思ってる」
「そうか。実家って神奈川だったっけ?」
「うん、そう。地元は横浜」
「そうか。横浜か」
竜司は大学を卒業してから、東京で働いていた。しかし、二年前に福岡に転勤となり、今ではそこで生活をしていた。
竜司は福岡に来て一人で暮らしていた。あいにく竜司には彼女がいない。以前、友人に福岡には美人がたくさんいるなんて聞いたことがあった。だから、竜司はここで生活をしながら、素敵な女性に巡り合えたらと考えていた。しかし、二年とここで生活をしているが、未だにその女性には出会えていなかった。
その夜、帰宅した竜司は早速、シャワーを浴びようと思いお風呂場へ向かった。その後、やはり今日は風呂にでも入ろうかなと思い直した。そうすることにして、浴槽の水を抜き、お風呂を洗って、浴槽のスイッチを押した。
それから、冷蔵庫から缶ビールを出して、それを飲んだ。冷えたビールは美味しかった。その日は料理をするのが面倒だったので、帰りにスーパーで惣菜をいくつか買った。竜司はそれらをテーブルの上に並べて、晩酌を始めた。
最近はこういった食事が多かった。たまに自炊をすることもあるが、ほとんどがスーパーやコンビニなどで惣菜などを買って済ませていた。
時々、会社の先輩や同僚たちと仕事帰りにご飯へ行ったりもする。そこで手料理という手料理は食べることもあるが、地元を離れた以上、実家にいる両親の手料理など食べなくなった。竜司は久々に母親の作る手料理が食べたいなと思った。
それからすぐに、竜司はもうすぐゴールデンウイークであることを思い出した。今年のゴールデンウイークに実家へ帰ろうと思っていた。
早速、竜司は家の電話から実家に電話を掛けた。
『はい、椎名でございます』
それは母さんの声だった。
「もしもし? 母さん? 竜司だけど」
『竜ちゃん? 竜ちゃんなのね!』
「うん。母さん、久しぶり」
『久しぶりって、竜ちゃんどうしたの? 急に電話なんかして』
「もうすぐゴールデンウイークだろ? だから、久々に実家に帰ろうと思ってさ」
『あら、そうなのね』
「うん。久々に母さんの手料理が食べたくなって」
『そう。いいわよ。それで? こっちにはいつ帰ってくるの?』
「まだ。特に決めてはいないんだけど、また行く日決まったら連絡するよ」
『分かったわ』
「じゃあ、また連絡するよ」
『うん』
「母さん、夜遅くにごめんね」
『いいのよ。竜ちゃんも体に気を付けてね』
「うん。じゃあ、おやすみ」
『おやすみ』
電話を終えた後、竜司は残っていたご飯を食べて、食事を片付けた。それから、すぐにお風呂に入ることにした。
お風呂から上がり、キッチンの冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、グラスに注いで飲んだ。一気に飲んで、ぷはっと息を吐く。
その後、携帯を探した。カバンに入っていた携帯を取り出し、何かメールや着信が来ていないかを確認した。
携帯を覗くと、一通のメールが来ていた。見てみると、高校時代の友人からだった。何だろうと思い、竜司はメールを読んだ。内容は久々に高校時代の仲間で集まろうということだった。しかも、日程はゴールデンウイークの五月四日。場所は僕たちの地元である横浜だった。なんて偶然なのだろうと、竜司は思った。
それから、竜司は久しぶりにみんなに会いたいと思った。その集まりに参加しようと思った。
第七章 東京 そして横浜
その日、内藤湊は新宿にある喫茶店にいた。パソコンを前に、最近書いているミステリー小説を執筆していた。
一段落して、湊はパソコンの脇にあるコーヒーカップに手を伸ばした。コーヒーを一口啜った。
ちょうどその時、店内ではとある曲が流れていた。
誰の曲だっけと湊は思い出す。そうだ、たしか歌っているのはマッキーこと槇原敬之だ。曲は『遠く遠く』であった。
曲を聴きながら、湊は再びコーヒーを手に取り、一口啜った。
それから、ふと湊は高校時代の楽しかった思い出がよみがえった。それはいつも一緒に居た仲間たちと過ごした日々だった。湊は懐かしく思った。
それから、みんな今、何をしているのだろうかと湊は思った。
久々にみんなに会いたい。
そうだ、みんなで集まろうじゃないか!
と言っても、いつ会おうか。湊はすぐに携帯のカレンダーを見た。その後、湊はもうすぐゴールデンウイークであることに気が付いた。
そうだ。ゴールデンウイークにしよう。日付は五月四日にしよう。
それから後は場所である。場所は……。うん、そうだ。みんなの地元の横浜にしよう。
そして一通り決めた後、湊は早速、高校時代の六人のメンバー全員にメールを送ることにした。
時計を見ると、午後四時四十分であった。そろそろ待ち合わせの時間の五時である。
湊はテーブルにあったコーヒーを飲み干し、その喫茶店を後にした。
それから、湊は駅の方まで歩いた。横浜駅の西口改札前でみんなと待ち合わせていた。
湊がそこへ着くと、見覚えのある顔が何人か集まっていた。
「やあ!」
「おお、来たか! 主催者!」と、岡田直太朗が言った。
その後、すぐに他のメンバーたちが湊を見た。
「岡田、久しぶり!」
「内藤、久しぶりだな!」
それから、桜井恭平がそう言った。
「桜井も久しぶり!」
「久々だな。元気かい?」
その後、豊橋優樹がそう言った。
「うん。まあ、ぼちぼち。そっちは?」
「うん、俺も相変わらずだよ」と、豊橋が言った。
「しかし、ここへ来たのも久々だな~」
その後、岡田が懐かしそうにそう言った。
「そうだな。高校時代、よくみんなでここへ来て、カラオケとかボーリングなんてよくやってたよな」
それから、桜井が呟くように言った。
「うんうん」と、豊橋がその話に頷いた。「そうだね」と、湊も頷いた。
その後、「あ、いたいた」と、二人の男たちがやって来た。椎名竜司と小島賢人だった。
「ゴメン、お待たせ!」と、椎名が言った。
「お、椎名じゃん! 久しぶり! それと後、小島じゃん」
「やあ、みんな久しぶり!」と、椎名が言って、「おっすおっす」と、小島が挨拶した。
そうして、ちょうど五時になった。
「これで全員集まったか?」
その後、湊は自分を含め七人いるかどうかを数えたが、一人いないことに気付いた。
「あれ? 誰が来ていないんだ?」
湊がそう言った後、「高木が来てねえよ」と、岡田が言った。
「あー、高木か! あいつ、また遅刻か?」
「そうみたいだな」
「あいつ、変わってねえな~」
それから、桜井がそう言うと、みんなが笑い出した。
「あいつから、連絡来てる?」
その後、椎名が全員に訊いた。
「いや……。」
湊がそう言うと、「あいつ、寝てるんじゃね?」と、今度は豊橋が言った。
「そうなのかな……。ちょっと電話してみるわ」
湊はそう言って、高木に電話を掛けた。電話を掛けると、しばらくして通話が切れてしまう。もしかしたら、今電車に乗っているのかもしれないと思った湊は「今、どこ?」と、メールをした。しばらくして、彼から「今、菊名」と、返信が来た。
「今、菊名だって」
湊がそう言うと、「マジか。あいつ、遅刻かよ。遅れるなら、連絡ぐらいしろっつーの」と、桜井が言った。
「だよな」
「どうする? もう先、店に行っちゃう?」
それから、岡田がそう言った。
「あー、そうする?」
「うん、そうしようぜ!」と、桜井が言った。
「分かった。じゃあ、先にみんなでお店行こう! 高木には後から来てもらおう」
「じゃあ、久々の再会に乾杯!」
湊の音頭で全員がジョッキを鳴らした。皆が一斉にビールを飲んだ。
「はー、うまい!」、「最高!」と、口々に言った。
「そういや、岡田、仕事はどうなんだ?」
開口一番、桜井が岡田に訊ねた。
「ああ、俺か? まあ、ぼちぼちかな」
「そっか。今、北海道にいるんだっけ?」
「うん」
「どうだい? そっちの暮らしは?」
「いや、最初に転勤したときよりは楽だよ。今の時期は比較的過ごしやすいんだ。けど、やっぱ冬は寒いね。雪がすごいんだ」
「ほー、そうか」
「うん」
「そういや、お前、彼女いるんだよな?」
「ああ」
「彼女も一緒にいるの?」
「いや、東京にいるんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、遠距離か」
「うん」
「寂しくないん?」
「いや、全然。休みが合えば、たまに俺が東京に遊びに行ったり、向こうが北海道に来てくれることもあるんだよ」
「そっか。それじゃあ、いいね」
「ああ」
「おーい」
その後、僕たちは誰かに声を掛けられた。その声の方を向くと、そこには高木隼が立っていた。
「高木! お前、遅いよ!」
桜井が高木を見て、そう言った。
「わりいわりい」
「わりいわりい、じゃねえよ。まあいいや。早く座れ!」
それから、岡田がそう言って、隣の席に座るように言った。
「はいはい」
「高木、お前、何飲む?」
「オレはカルーアミルク」
「ねえよ!」
「え? この店ないの? じゃあ、いいよ。一杯目はビールで」
それから、高木のビールを頼む。岡田と桜井もビールをお代わりした。
「で? 何の話をしてたんだ?」
高木がそう言った。
「何の話って、岡田の話だよ。岡田は彼女と遠距離なんだって」
「ふーん。遠距離ね。で、彼女はどこにいるって?」
「東京だよ」
「東京ね……。じゃあ、案外近くね? 遠距離ってことでもねえだろ」
「バカ言え、俺は北海道にいるんだ! 忘れたのか?」
「あー、そっか。そりゃ遠いね……。」
「うん……。」
「じゃあ、いずれ二人は北海道か東京で暮らすようになるのかい? 結婚することがあれば?」
その後、湊が口を開いた。
「ああ、そのつもりでいるんだ」
それから、岡田がそう言った。
「そうなんだ。いいね」
湊はそう言って、微笑んだ。他のみんなも嬉しそうに笑った。
「桜井こそ、生活はどうなんだ? お前は大阪にいるんだろ?」
それから、今度は岡田が桜井に訊いた。
「ああ。大阪の生活にはもう慣れたよ。改めていい街だなって思ったよ」
「そうかいそうかい」と、高木が相槌を打つ。
「桜井はもう結婚しているんだったな」
「ああ。実はもうすぐ子どもが生まれるんだ」
「え!? マジで!」
それから、桜井のその言葉に皆が驚いていた。湊もまさかと思った。
「ああ、本当なんだ。これ嫁さんの今のお腹の状態なんだけど」と言って、桜井はポケットから携帯を取り出して、最近撮った奥さんの写真を見せてくれた。見ると、確かに服の下からお腹が膨らんでいるのが分かった。
「へー、すごい!」
「だろ?」
「本当にこれ、お前の子か?」
その後、小島賢斗が彼を茶化すように言った。
すると、桜井は「いや、実はうちのかみさん、不倫しててな! 俺の子ちゃうねん! ってそんな話あるか! アホ!」と流暢なノリツッコミをして、笑い出した。
その後すぐに、皆が彼のそれが可笑しかったらしく、次々に笑い出した。湊も大笑いした。
「そっか。じゃあ、お前、パパになるのか」
それから、岡田が感慨深そうにそう言った。
「まあな。まだ実感はないけどね」
「だよな」
「そういや、豊橋も結婚してるんだよな?」と、桜井が言った。
「ああ」と、豊橋が頷いた。
「豊橋も子どもができるのか?」
その後、岡田がそう訊いた。
「いや。うちはまだだよ。でも、そのうちにできるかもしれないな」と、彼がポツリと言った。
「そっか。二人とも早いな……。」と、岡田が呟くように言った。
「そうだね」と、湊も呟いた。
「あ、そういや、豊橋、去年、ウチにぶどうとりんごを送ってくれてありがとな!」
それから、桜井が思い出したように言った。
そういや、うちの実家にも去年、りんごとぶどうが届いていたなと湊もそれを思い出した。ある日、母親から電話があって、「豊橋くんから、ぶどうとりんごがたくさん届いたから取りに来なさい」と言われた。それから、その日、久々に実家に戻り、スーパーの袋にりんごを五、六個とぶどうを二房持って自宅に帰り、一週間程度でそれらを全部食べた。
「あー、あれね。うちの果物どうだった?」
「りんごもぶどうも両方美味かったよ」
「本当かい? おー、良かった!」
「うん。みんなの所にも送ったのかい?」
「そうしたよ。みんなは食べた?」
「僕は食べたよ」と、湊が言った。
「俺も」、「うん。オレも」と、皆口々に言った。
「そっか。みんなに食べてもらえて、俺は幸せだよ」と、豊橋が嬉しそうに言った。「また来年以降もみんなに送るわ」
「おう、サンキュー」と、湊が言った。
「そういや、椎名も転勤だっけ?」
その後、豊橋が椎名に訊いた。
「うん。そうだよ」
「どこにいるんだ?」
「福岡だよ」
「そっか。で、福岡の生活は慣れた?」
「もうだいぶ慣れたよ」
「そっかそっか。てか、お前は彼女いたっけ?」
「いや。いないよ」
「ほーん、じゃあ、独身ってわけか」
「うん。まあ」
「気になる人とかいないの? 会社とかに?」
「別にいないかな……。」
「ふーん」
「会社に女性社員っていないの?」
「いるけど。何人かは彼氏がいたり、結婚したりしてる人が多いかな」
「そうなんだ」
「因みに、俺は奥さんとは長野で会ったよ。会社の元同僚だったんだ」
それから、豊橋が口を挟んでそう言った。
「へー、転勤先で会ったんだ。なんかロマンチックだね」
「だろ?」
「俺なんかさ」
その後、小島が口を開いた。「彼女と合コンで再会したんだよ」
「合コンで? 再会?」
「ああ。去年、横浜のある民家で火事があったんだよ。そこでその日、消防士の俺は緊急出動して、その現場に向かったんだ。そこは五人家族が住んでいたんだ。引火の原因はストーブだったんだ。俺たちはそこへ行って、すぐに家族全員に外に避難するように言ったんだ。そこに二十代前半ぐらいの女の子がいたんだ。すごい可愛い子だった」
「ほー」
「その時は仕事中だったこともあって、名前とか聞かなかったし、彼女とも一度きりだろうって思っていたんだ。それから、二週間くらい後に、先輩に合コンに誘われてね。それで行くことになったんだ。そしたら、そこに来た女性陣の中に偶然にもその女の子がいたんだよ! それで、俺、これは運命だと思って、彼女と話をして、向こうも奇遇だって思ったらしくて、それで俺は彼女と連絡先を交換して、それから付き合うことになったんだよ」
「へー、すげえな!」
「漫画みたいだな!」
「ホントだね!」
「そうか……。みんなそうやって出会っているのか……。」
それから、椎名が呟くように言った。
「まあ、だから、どこで誰と出会うのかって分からないよな」
「そうね」
「だから、椎名も今はあれかもしれないけど、そのうちいい出会いがあるって」
「そうか? そうだといいんだけどな」
「ああ」
「まあ、彼女がいるとか、結婚していることがゴールだったり、幸せってわけでもないからね」
それから、桜井がそう言うと、「うんうん」と、岡田が頷いた。二人とも彼女や奥さんとは大学時代に出会ったらしかった。
「内藤は彼女いるんだっけ?」
その後、桜井が湊に訊ねた。
「いないよ」と、湊は答えた。
「高木は?」
そして、今度、桜井が高木に訊いた。
「オレもいねえんだよ。それが」
「まあ、お前がいないのは昔からだろ」
「ああ、そうだよ。昔からモテねえよ。分かるだろ? お前ら。俺だってモテてえよ。俺だって彼女の一人や二人くらい欲しいよ」
「いや、二人もいたら、修羅場だぞ。やめとけやめとけ」
「分かってるよ。そんなことくらい。ただのジョークだって」
「それならいいんだけどな」
「なんか今なら街コンみたいなのとか、マッチングアプリみたいなので出会うって人も結構いるみたいなんだよね」
「へー。街コンに、マッチングアプリね」
「うん。実際に出会えたみたいな人も結構いるみたいだから、そういったサービスを使うのも悪くわないと思うけどね」
「確かにな。悪くはないかも」
「うん」
「それで、俺にも春が来るのであれば、嬉しい限りであります」と、高木が言った。
「だな」と、湊が頷いた。
その後も、湊達は自身の仕事の話やそれぞれの住む場所の話などで盛り上がった。
「この後どうする?」
気が付けば三時間が過ぎていて、午後八時になっていた。
「この後は久々にカラオケでも行くかい?」と、岡田が言った。
久々にみんなでカラオケか。それもアリだなと湊は思った。
「ああ、いいね」と、湊が言うと、皆口々に「いいよ」と承諾をした。
「今日は一人いくらだ?」
その後、桜井が湊にこの会がいくらなのかを訊いた。
「一人、四千円ってところだよ」と、湊は言った。
「おおそうか。意外と安いな」
「うん」
「じゃあ、みんな、湊に四千円渡せよ!」と、桜井がみんなにそう言った。その後、皆が財布を取り出して、四千円を湊に渡した。
湊はお勘定を済ませて、それから全員で近くのカラオケへ向かった。
そこへ行くと、七人ということで湊達は大部屋に通された。全員がソファに座ると、時計回りに歌うことにした。
何人かが最近流行りの歌を歌って盛り上げた。高木の番になると、彼はアニソンを歌った。それは相変わらずだった。その後、当時流行っていた歌を何人かが歌って盛り上がっていた。
それから次に湊の番になり、湊は何を歌おうかと考えていた。
その時、ふと、湊はゴールデンウイーク前のことを思い出した。新宿の喫茶店で執筆をしていた時、店内では槇原敬之の『遠く遠く』が流れていた。それを聴いた湊はみんなのことを思い出した。久しぶりに会いたいと思った。そして、みんなで集まろうとメールをした。
湊はそれを思い出してから、それを歌おうと思い、その曲を入れた。
そして、その歌のイントロが流れ、湊は歌い出した。その時、みんなが湊のその歌を聴き入った。
湊が歌い終わると、全員が拍手をして笑顔で湊の方を見た。
二時間が経ち、湊達はそのカラオケ店を出た。午後十時になっていた。
そろそろお開きにしようということになり、僕たちは帰ることにした。
岡田、桜井、椎名、それから、豊橋の四人は今日、実家に帰るらしかった。高木と小島は自宅へ帰るらしい。湊も実家に帰らず、自宅に戻ろうと思っていた。
全員で駅まで歩いた。駅に到着して、湊達は一度改札の前で立ち止まった。
「内藤、今日はありがとうな」と、岡田が言った。
「うん。こちらこそ。久々に会えてよかった」と、湊は言った。
それから、他のみんなも口々に「ありがとう」と、湊に感謝を言った。
「じゃあ、みんな、元気でね!」と、岡田が言った。
「おう」と、桜井が頷いた。
「おっす!」と、高木も言った。
「内藤、それからみんな、また会おうぜ!」と、豊橋が言った。
「そうだな」と、湊は頷いた。
「じゃあ、また今度」と、小島が言った。
「それじゃあ、また!」と、岡田が言って、改札をくぐっていった。その後に続いて、桜井や椎名、それから豊橋と小島も改札をくぐっていった。
「あれ? 高木はあっち?」
湊が彼らを見送ると、そこにいた高木に気づいた。
「オレはあっちの改札」と、高木が別の方を指さした。
「俺もあっちだよ。一緒にそこまで行こう」
そう言って、湊は高木と一緒にもう一つ向こうの改札へと向かった。
湊がその改札をくぐると、高木は反対の電車に乗るらしかったので、そこで高木とお別れをした。
その日はとても楽しい一日であった。湊は久々に高校時代に戻ったような気がした。
湊は反対側のホームで次の電車を待つ。急に一人になると、少し寂しい感じがした。
それから一か月後のある日、湊の自宅に一枚の手紙が届いた。湊は早速、その手紙を読んだ。それは以前、湊が応募した小説が三次選考を通過したという内容だった。
三次選考か。
前まで一次や二次までしか行かなかったのだが、遂に三次選考まで進んだということらしい。
「まあまあ……。良しとしよう」
湊はそう呟いた。
それから、湊はもう一枚別の手紙が来ていることに気が付いた。
その手紙は北海道に住む友人の岡田直太朗からだった。
岡田から。どうしたんだろう。そう思い、早速、湊はその手紙を開けて読んでみた。
すると、そこには結婚のご報告とあった。
遠距離で付き合っていた彼女さんとついに結婚するらしい。そうかと湊は驚いた。それと同時に嬉しい気持ちになった。
結婚式は再来週の土曜日らしい。湊はその式に参加しようと思った。
その後、湊はあることに気が付いた。
この手紙が湊の所に届いているなら、きっと他の高校時代の友人たちにも届いているのではないのか。その式に行ったら、きっとみんなにまた会えるかもしれない。湊はそう思うと、嬉しい気持ちになった。
昨今、新型コロナウイルスの発生によって、緊急事態宣言による外出自粛やまん延防止による時短営業などから、私たちの生活は大きく変化したと思います。そのため、私たちは友人や仲間と会って旅行へ行ったり、飲みに行ったりという機会が減少したと思います。
筆者もその一人で、「久々に友人たちに会いたい」、「飲みに行きたい」と思っていました。しかし、それができず、止む追えずにいました。そこで、その気持ちを小説にしてしまおうと思い至り、この小説を書きました。
この小説を読んで、皆さんが友人たちと会った気分になれたら幸いです。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。コメント等もお待ちしております。