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架空  作者: テラサキマサミ
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#04  ケイタ 17

―ケイタ 17―


 ぼくは暇さえあればギターを弾いていた。ずっとギターが上手くなりたいと思っていた。でも最近は、作曲にハマってるんだ。自分で歌詞を考えて、ギターを弾きながらメロディーを作る。その楽しさを知ってしまった。いい曲を作りたい。それはぼくだけの世界を作ることだ。思ったことを言葉にして、それを歌う。自分を表現できるんだ。ぼくがぼくになれる特別な世界なんだ。


 ぼくには小さい頃から仲良くしている詩織という友達がいる。ちょっと家庭環境が複雑なコなもんで、よくぼくん家に来ていた。高校受験は、いつも一緒に勉強して励まし合った。おかげで二人して一緒の高校に入ることができたんだ。

 詩織は目鼻立ちがしっかりしてるというか、まぁ美人で目立つコなんだ。なので、小さい頃から男子の標的にされてしまうところがあった。ほら、男ってさ、好きなコほど意地悪をして気を引こうとするというか。それでどうしたってぼくが、詩織を助けることになってしまう。同い歳だけど、妹みたいな感覚かな。妹を守るのは兄貴の役目だ。

 ぼくが曲を作るようになってから、ずっと詩織に聴いてもらってる。いつもいい曲だねってほめてくれるもんだから、ぼくもつい調子に乗って、また作る。そんな感じだ。

 その詩織が、少し前に東京に行ってしまった。正確には埼玉県らしいけど、同じようなもんだ。女優になりたいという夢を叶えるため、行ってしまった。詩織はぼくよりも先を行っている気がして、取り残されたような気分だ。ずっとぼくの後ろをくっついてた詩織が、ぼくを追い抜いて行ってしまった。

 詩織がいなくなってわかったんだ。ぼくは小さい頃から、詩織にほめてもらいたくて、いろんなことをがんばってきたような気がする。小学校の運動会の100メートル走とか、夏休みの宿題とか。図工の仮面制作で表彰された時には、詩織に真っ先に自慢した。中学のテストでは詩織の点数が気になったし、マラソン大会ではへこたれた姿を見せるわけにはいかなかった。詩織の前では、強くてかっこいい男じゃなきゃいけなかったんだ。背の高い詩織は、いつからか女の子特有の大人な感じがして、ぼくは少し劣等感を感じていたんだと思う。

 確か中学に入った頃だったと思うけど、詩織が貸してくれたカセットテープ。浜田省吾だった。なんだか大人な感じがしてさ。詩織はこうゆうの聴くんだなんて、勝手に嫉妬しちゃってさ、勢いでギターを買ったんだ。『東京』って曲があって、なんだか悲しい歌でさぁ。大人になったら東京に行ってみたい。ぼくはぼんやりと東京に憧れを抱くようになっていた。


 詩織が東京に行くって言って何日か過ぎた頃、あいつは学校を休んだ。ぼくは帰りに詩織ん家に行ってみたんだ。そしたら丁度、詩織のお母さんが出かけるとこだった。


「こんにちは。詩織いますか?」


 昔ながらの古い家。二人で暮らすには少し大きい家だ。お母さんに会うのはずいぶん久しぶりだった。


「あれ、ケイタくん?なんや、ずいぶん男らしくなったねぇ」


 きれいに化粧をして、華やかな服装の詩織のお母さん。下町のお母さんというよりは、都会の女性という感じだ。


「詩織は昨日行っちゃったよ。ト、ウ、キョ、ウ。なんや聞いてへん?」


 お母さんはぼくのことをかわいそうとでも思ったんだろうか。少し歩きながら話をしてくれた。こんな風に詩織のお母さんと話すのは初めてかもしれない。


「詩織はなぁ、いつか出て行くコやねん。こんなとこでくすぶってるコやないわ。そう思わん?女優になりたいんやて。ええやないの。あたしの子や。がんばったらええ」


 お母さんの話を聞きながら、ずっと前に詩織から聞いた話を思い出していた。詩織のお母さんは若い頃、東京で歌手を目指していたとかなんとか。


「思ったことはやらないと、人間先に進まないやろ。ケイタくんかてそうや。やりたいことはやらな。思い切りやってみて、ダメやったら戻ってくればええんよ。あたしみたいにな。あはは」


 なんだ、詩織のお母さんは詩織のことをちゃんと考えてるよ。わたしは邪魔だなんて言ってたけど、それは詩織の思い過ごしだよ。


「詩織はあたしみたいになりたくないって思ってたんやろなぁ。それでいいんよ。ケイタくん、今までありがとな。これからもできたら友達でいてあげてな」


 お母さんは駅の方へ歩いて行った。ぼくは少しうれしかった。詩織、お母さんは詩織の味方だよ。


 それからというもの、ぼくは気が抜けてしまった。詩織がいなくなったら、なんだか何をがんばったらいいのかわからなくなってる。学校に行ったって、詩織がいなきゃつまんないよ。

 詩織のことを、女の子だって意識したことはなかったつもりだけど、なんだか詩織のことばっかり考えてる。これが好きってことなんだろうか。

 今、詩織とは手紙のやりとりをしている。そのうちぼくも東京に行くよ。東京の大学を受けるつもりだ。そしたら思い切り音楽をやる。また詩織にほめてもらえるように、今はこっちでがんばるよ。


          ーつづくー

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