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悪夢


「……」


寝覚めの悪い朝であった。何故なら、自分の未来を見たから。それも、とびきり最悪な。

夢かと思ったが、夢ではないとよく分からない確信がある。

マア、たしかに夢は見ていたのだけれど、その中で輪郭も覚束ない白い人が夢の中の自分に、未来を教えてくれたのだ。


神の啓示かしら。

起き抜けのサッパリしない頭で思う。

手触りの良い、厚っこい羽毛布団を剥がして身体を起こすと、レースのカーテンからキラキラ。淡い光が差していた。

良いお天気……。私の気も知らないで。

口を一文字にキュ、と結んで、空気の読めないキラキラを見つめる。


夢で見た未来。

私が氷漬けにされる未来。

氷の国の王子様と結婚して、側室になって。メイドを庇った拍子に、王室の宝を壊して……。たったそれだけの理由で、氷漬けにされてしまう。そんな理不尽な未来。

もしかしたら、その宝物には、ひと一人の命だけの価値があったのかもしれない。それでも、殺されることに納得はできなかった。


誰しも我が身は可愛いもの。

生きていれば、何とかなるものである。おそらくは。

だから。

だから、何としてでも、氷の国の王子様とは。この王子様とだけは――


「結婚しないわ!」

「クク……カルディア、また街で変な話でも聞いたのか?」

「……!ティンダムお兄様」


部屋の出入り口に頭を寄りかけて、眠たげな目で笑っているのは、ティンダム・ジムニー。カルディアの二番目の兄である。

兄たちと少し年の離れたカルディアは、たいへんに可愛がられていた。こうして朝の稽古前に顔を見に来られているくらいに。

ティンダムはカルディアがこの時間に起きているのは珍しいなと思って、彼女の側へ寄っていった。


「お兄様、お兄様。私、氷の国の王子様とだけは、結婚したくないわ」

「どうして?」

「……こ、怖いから」

「……そう。でもねカルディア。安心して」

「?」

「君はずっと僕たちのお姫様だから、そんな心配はしなくてもいいんだよ」

「わ」


ティンダムは、カルディアの揃った前髪を片手で上げて、額にそうっとキスをした。

反射的に目を瞑ってしまう。次に目を開けると、兄が背中を見せて優しく笑んでいたのを見た。

カルディアはティンダムが去った後、スッカリ元気になっていた。

ふふ。ティンダムお兄様、ありがとう。

心が軽くなったのは事実。しかし、氷の国の王子様がカルディアにとって危険であることには、何ら変わりはない。

ベッドからヒョイ、と飛び降りて、レースのカーテンを開ける。それから、大好きな陽の光を浴びて、大きく伸びをした。


前向きの頭で思う。

氷の国の王子様って、どんなに怖い人なのかしら、と。

恐怖より、何だか興味が湧いていた。

カルディアはそんな娘なのである。







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